鉄鋼材料の熱処理の一種で、高温に加熱した鋼を水(または油)に入れて急冷する操作をいう。この処理によって、鋼は著しく硬くなる。これを焼入れ硬化といい、古くから刀剣の仕上げ工程などで実施されてきた。人間に対して強い制裁を加えることを俗に「焼きを入れる」というが、これは、焼入れの操作が高温に加熱したり急冷したりする過酷なもので、しかも、なまくらであった刀が切れ味のよいものに生まれ変わることから転じた俗語である。
焼入れによって鋼が硬化する理由は、面心立方晶のオーステナイトが急冷によって体心正方晶のマルテンサイトに変態し、この際に、多数の格子欠陥が結晶中に導入されるためである。この特性は鉄鋼材料に固有のものであり、他種の材料を高温から急冷しても一般には硬化しない。
焼入れの際の急冷によって、鋼材が曲がったり割れたりすることがある。これらを焼入れひずみ、焼割れという。一方、冷却速度が遅いと、マルテンサイトよりも硬さが著しく劣るパーライトの混在した組織(不完全焼入れ組織)になってしまう。これらの不都合を除くために、ニッケル、クロム、モリブデン、ホウ素などを適量添加して、遅い冷却でも中心部まで完全に焼きが入るような、焼入れ性のよい合金鋼が20世紀初頭以来、盛んに開発されてきた。
なお、高周波焼入れや火炎焼入れは、鋼材の表面部または一部だけを加熱・水冷して、その部分だけをマルテンサイト組織にする方法である。
[西沢泰二]
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溶解度線以上の温度から,析出や変態を阻止するほど十分に速く急冷する操作.鋼では,オーステナイト域に加熱したものを急冷すると,マルテンサイトに変態する.急冷には通常,水あるいは油などが用いられ,水焼入れ,油焼入れなどとよばれる.得られたマルテンサイトは高強度で硬いが,非常にもろい.鋼の強度と靭性の組合せを最良の条件とするには,十分に焼きの入った状態を得たのち,適当な温度で焼戻しを行わなければならない.鋼の焼入れ性とは,焼きの入る深さおよび内部の硬さの分布を決める因子である.いいかえると,マルテンサイト組織を得るために必要な冷却速度であって,鋼の化学組成とオーステナイト粒度によって決まる.焼入れ性をよくするために,実用鋼においては種々の合金元素が添加されている.
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…消光には,蛍光やリン(燐)光などのルミネセンスの強度がなんらかの作用によって減少する現象と,複屈折性の結晶板を偏光方向が互いに直交している2枚の偏光子の間に置いて見るとき,結晶板を回転していくとある特定の方位で視野が暗黒になる現象との二つがあり,前者をクエンチングquenching,後者をエクスチンクションextinctionという。 クエンチングは,(1)発光分子の有している励起エネルギーを消光物質との衝突によって失うか,(2)消光物質との衝突によって化学反応を起こしたり,発光を起こさない分子間化合物をつくるか,(3)発光分子が,非放射遷移や分解反応などによって発光を起こさない分子状態に変わる,などの方法で起こる。…
…刀の刃文はこの土取りの形によって,一直線にとれば直刃,斜めに線を入れたり部分的に土を置いたりなど,土の取りようをかえれば乱刃というように,基本の点は決まる。 これがかわくと炉に入れて焼入れをする。火加減はほぼ750~850℃であるが,刀工は焼入れの適度さを刀身の火色で感じとるのであって,よく熟したカキやミカンの色がたとえにひかれる。…
※「焼入れ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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冬期3カ月の平均気温が平年と比べて高い時が暖冬、低い時が寒冬。暖冬時には、日本付近は南海上の亜熱帯高気圧に覆われて、シベリア高気圧の張り出しが弱い。上層では偏西風が東西流型となり、寒気の南下が阻止され...
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