焼戻し(読み)ヤキモドシ(その他表記)tempering

デジタル大辞泉 「焼戻し」の意味・読み・例文・類語

やき‐もどし【焼(き)戻し】

[名](スル)焼き入れをした金属を、焼き入れ温度より低い温度で再加熱する操作。鋼を粘り強くするために行うが、高速度鋼などでは硬度が増す。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「焼戻し」の意味・わかりやすい解説

焼戻し
やきもどし
tempering

高温からの急冷(焼入れ)によってマルテンサイト組織となった鉄鋼材料は、きわめて硬いが、しかしもろいので、150~650℃の温度に再加熱して、靭(じん)性を向上させてから使用に供される。この再加熱する熱処理のことを焼戻しといい、使用目的に応じて最適の焼戻し温度が規定されている。焼戻し温度が高いほど靭性がよくなるから、バネなどに使用する鋼はやや高い温度で焼き戻す。ただし、焼戻しによってむしろ脆化(ぜいか)(焼戻し脆性)がおこることがあるから注意を要する。とくに、リンアンチモンなどの不純物を含んでいる鋼を約500℃で焼き戻すと、これら不純物原子が結晶粒界に偏析して、粒界に沿った破壊がおこりやすくなる。なお、多量の合金元素を含んだ高速度鋼やマルエージ鋼は、焼戻しによって特殊な化合物や炭化物が微細に析出するために、焼き入れたままの状態よりも焼き戻したほうが硬くなる。この現象を二次硬化という。

[西沢泰二]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「焼戻し」の意味・わかりやすい解説

焼戻し
やきもどし
tempering

焼入れされた金属材料を比較的低温に再加熱する作業。効果は3通りに分けられる。 (1) 靭性の付与 鋼を焼入れて生じたマルテンサイトは硬いがややもろいので低温加熱でこれを分解し,トルースタイトソルバイトとして靭性を与える。炭素鋼では通常 120~250℃で行うが,特に粘靭性を要求されるときは 400~600℃で,マルテンサイト中の格子欠陥を十分回復 (消滅) させる。焼戻し脆性の温度帯と重なることがあるので注意がいる。 (2) 二次硬化高速度鋼,耐熱合金などの高合金鋼で,炭化物などの析出により硬化させる。温度は通常 500~800℃と高い。 (3) 時効硬化 過飽和固溶体をG-P帯,析出物により硬化させる。軽合金に最も著しいが,ベリリウム銅,マルエージ鋼にもみられる。

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