精選版 日本国語大辞典 「物権」の意味・読み・例文・類語
ぶっ‐けん【物権】
出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報
出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報
私法上、物を直接に支配する権利をいう。所有権がその代表である。債権とともに財産権中の主要部分を構成する。
[高橋康之]
債権は、金銭の支払いや洋服の縫製などのような特定の行為を特定の人(債務者)に対して要求することのできる権利である。つまり債権はその実現にかならず人の行為を必要とするのであって、そこに物(金銭、洋服)が介入しても、債権者がその物に対して直接の権利をもつわけではない。これに対して、物権は物を直接に支配する権利であるから、物権をもっている者は、その実現のために他人の行為を介す必要はない。そこで、物権は特定の人だけに対する権利ではなく、天下万人に対する権利だといわれる。また、物権には排他性があり、債権には排他性がないといわれている。これは、一つの物に同じ内容の物権は二つ以上成立しえないが、同一債務者に対して同一の内容の債権が二つ以上成立することはありうるということである。物権と債権との以上の差異は理念的なものであって、前述の基準が現実に貫かれるわけではかならずしもない。たとえば、一般先取特権は物権であるが、排他性はない。また、賃借権は民法上は債権であるが、土地の賃借権は借地保護立法により、物権である地上権とほとんど異ならないようになった(賃借権の物権化)。
[高橋康之]
債権は、原則として、その内容を当事者が自由に決定できる。これに対して、物権は、その内容が法律で定められており、それとは異なる内容の物権を当事者が創設することはできない。
その主要なものは民法第二編に規定されている。物を全面的に支配する権利である所有権、物を限られた方向においてだけ利用する用益物権(地上権、永小作権、地役権、入会(いりあい)権)、物を債権の担保として支配する担保物権(留置権、先取特権、質権、抵当権)とに大別される。そのほか特殊な物権として占有権がある。
[高橋康之]
物権の対象は原則として有体物に限られる(民法85条)。民法上、有体物は動産と不動産とに分かれ(同法86条)、両者は物権法上かなり異なった取扱いを受ける。物権の対象となる物は、特定の、独立した物でなければならない。たとえば、単に100平方メートルの土地についての所有権というのは成立しない。どこの土地であるかが定められて、初めて土地は所有権の対象となる。また、数個の物のうえに1個の物権が成立することもない(一物一権主義)。もっとも、このあとの点は、多数の物の集まりである工場などの企業施設全体を担保にする財団抵当の制度で修正を受けている(財団抵当の制度は、企業施設全体を1個の物であるとし、それに抵当権を認めるものである。この意味においては、財団抵当の制度は一物一権主義に従っているともいえる)。
[高橋康之]
物権に与えられる一般的な効力には、優先的効力と物権的請求権とがある。
(1)優先的効力 同一の物のうえに物権と債権とが重なって成立した場合には、物権が優先する。たとえば、甲が乙に対して物を賃貸し、ついで甲が丙に対してそれを売った場合には、丙の所有権が乙の賃借権に優先し、丙は乙に対してその物の引渡しを請求できる(ただし不動産の賃貸借には例外もある)。前記とは異なって、同一の物のうえに内容の衝突する二つの物権が重なって成立した場合には、先に成立したものが優先する。たとえば、ある土地に抵当権が設定され、そのあとで地上権が設定された場合に、抵当権の実行によって地上権は効力を失う。これは、物権の排他性、つまり同一の物のうえに同一内容の物権は重ねて成立しないという原則の結果である。もっとも、排他性は、権利の成立のときではなく、対抗要件が備えられたときに生ずるのが原則である。したがって、不動産については登記(民法177条)、動産については引渡し(同法178条)を先に得た者が優先することになる。
(2)物権的請求権 物権の内容の完全な実現が妨害され、また妨害されるおそれがある場合には、物権をもっている者は、妨害者に対してその妨害の排除を請求することができる。
[高橋康之]
日本の国際私法典である「法の適用に関する通則法」(平成18年法律第78号)によれば、動産および不動産に関する物権の成立・効力の準拠法はその目的物の所在地法とされている(同法13条1項)。ただし、物権の得喪は、その原因となる事実が完成した当時におけるその目的物の所在地法によるので(同法13条2項)、A国にあった当時に動産に対して担保物権が設定され、後にB国に移動した場合には、その担保物権が成立したか否かはA国法により、その効力はB国法によることになる。物権は対世的な効力があるため、物権法定主義といわれる原則が妥当しているのが一般的であり、B国法においてA国法上の担保物権を認めることはできず、B国法上の類似の担保物権があれば、それに置き換えてB国法上のその類似の担保物権としての効力が与えられることになる。他方、B国法上の類似の担保物権がなければ、B国にその動産がある間は効力を認められず、その動産がA国に戻るか、または類似の担保物権を認めるC国に移動した場合にふたたび効力が与えられることになる。
船舶、航空機のように移動を常とする動産については、そのときどきの所在地法を適用することは法律関係の安定性を害することになるため、それらの物権問題は一般に登録国法(船舶については旗国法)によるとされている。また、日本の判決によれば、自動車を運行の用に供し得る状態の場合と、ナンバープレートがつけられていない場合など運行の用に供し得ない状態の場合に分け、前者の場合にはその自動車の利用の本拠地法を適用するが、後者の場合には所在地法によるとされている(最高裁判所平成14年10月29日判決、民集56巻8号1964頁)。
国際裁判管轄の局面では、不動産の物権を目的とする訴訟についてはその所在地国の専属管轄とするとのルールがみられる。ヨーロッパ連合(EU)の「民事及び商事に関する裁判管轄及び判決の承認・執行に関する規則(2000)」(ブラッセルⅠ規則と称される)第22条第1項はこのことを定めている。これに対して、日本の民事訴訟法の国際裁判管轄の専属に関する規定(3条の5)には、日本に所在する不動産の物権を目的とする訴訟は含まれていない。
[道垣内正人 2016年5月19日]
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 株式会社平凡社世界大百科事典 第2版について 情報
…乙は甲に対して,〈建物を使用させろ〉という債権(賃借権)を有するにすぎないのであるから,丙に対しては,乙の債権の実現が妨害されているにしても,債権そのものに基づいてその排除を求めることはできない――もっとも乙が建物を占有して(住んで)おれば,丙に対して占有訴権(民法197条以下)を行使できるが――とするのが,原則である。乙は,甲に対して,甲がその所有権に基づく物権的請求権を行使して丙を排除するよう,請求しうるにとどまり,甲がこれに応じないときは,民法423条により,乙はその賃借権を保全するため,甲の丙に対する物権的(妨害排除)請求権を,甲に代わって行使することとなる(債権者代位権)。しかし,これはいささか迂遠の嫌いがある。…
…〈支配する〉は〈請求する〉に対立し,権利行使の態様に関する表現である。債権が,特定人が他の特定人に対し一定の行為を請求する権利であるのに対し,物権に属する所有権は特定の物を排他的・全面的に支配する権利である。物とは有体物,たとえば動産・不動産をいう(民法85条)。…
※「物権」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社世界大百科事典 第2版について | 情報
他の人にすすめること。また俗に、人にすすめたいほど気に入っている人や物。「推しの主演ドラマ」[補説]アイドルグループの中で最も応援しているメンバーを意味する語「推しメン」が流行したことから、多く、アイ...
11/10 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新
10/26 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典を更新
10/19 デジタル大辞泉プラスを更新
10/19 デジタル大辞泉を更新
10/10 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新
9/11 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新