精選版 日本国語大辞典 「特許」の意味・読み・例文・類語
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パテントともいう。特許とは、広義には、特定人の能力、資格、権利、法律関係などを設定する行政行為をいうが、狭義には、特許法の定めるところにより、発明の独占的利用に関して特許庁が発明者またはその承継人に対して特許権を設定する行政行為をいう。特許庁が4種類の工業所有権(産業財産権)に対して権利を付与する行為は性質上同一であるが、発明に関する特許権以外の実用新案権、意匠権および商標権については、単に登録とよんでいる。本項では狭義の特許について記述する。
[瀧野秀雄]
特許制度は、ルネサンス以降北部イタリアに発達した商業都市が各種の商業上の特権を与えたところから始まるとされ、その後ヨーロッパ各地の諸侯や王が専売的な特許状を付与して、王室の財政をまかなった。イギリスにおける1624年の専売条例Statute of Monopolyが近代特許法の先駆と考えられており、このような産業保護制度の整備が、他国に先んじてイギリスに産業革命をもたらしたとも考えられる。フランス革命と産業革命を経て近代国家を完成したヨーロッパの各国は、1883年工業所有権保護に関するパリ同盟条約(工業所有権保護同盟条約)を、パリの第1回万国博覧会の開催を契機に締結した。日本では、1871年(明治4)近代的特許制度の外観を有する専売略規則が公布されたが、翌年廃止されたまま、1885年の専売特許条例を待った。その後いくつかの改正があり、特許法と名称も改められ、パリ条約加盟後1909年の改正で近代法としての形を整えた。1921年(大正10)の大改正後、1959年(昭和34)にも大改正されるなど、2006年(平成18)現在までに30回を超える改正がなされている。国際的には、世界知的所有権機関(WIPO、ワイポ)による特許制度の国際的ハーモナイゼーション条約案が作成されている(1994年否決)。また、ガット(GATT、関税および貿易に関する一般協定)のウルグアイ・ラウンドにおいては、知的財産権の貿易関連側面に関する交渉(TRIP交渉)が妥結し、WTO(世界貿易機関)設立協定のなかのTRIPS協定として発効した。日本の特許法改正もこれらに対応しており、1978年の特許協力条約Patent Cooperation Treaty(PCT)への加盟を機に国内優先権制度を導入した1985年の改正、改善多項制と存続期間延長制度を導入した1989年の改正、補正の回数、内容を厳しく制限した1993年の改正、TRIPS協定に対応するため、特許期間を出願の日から20年に延長し、原子核変換物質の発明を特許対象に追加するなどした1994年の改正、プログラム等を物の発明に含まれるものとした2002年の改正、職務発明規定を見直した2004年の改正などがおもなものとしてあげられる。
[瀧野秀雄]
特許法(昭和34年法律121号)は、新規な発明に対する特許権の内容と、これを付与する手続を定める法律で、実用新案法、意匠法、商標法とともに、工業所有権法を形成している。新規な発明(自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度なもの)は、公表する前に出願をし、審査を経て特許されることにより、発明を実施する排他的な権利としての特許権を取得することができる。審査請求(何人(なんぴと)も出願日から3年以内に請求できる)、公開(審査の遅れと関係なく発明の内容を早期に公表し開発の重複を防止する)、審判(審査の完全公正を期するため再審理を認める)などの制度を規定している。
[瀧野秀雄]
特許を受けるためには、新規な発明について特許庁に出願をし、審査を受けなければならない。特許されるためには新規性と進歩性が要求される。新規性とは出願のときに発明が新しいもので公表されていないこと(学会発表、博覧会出品には適用除外の申請ができる)であり、進歩性とは従来の発明からみた技術的困難の程度をいう。同一の発明については最初の出願者に特許が付与される。特許出願には、発明者、出願人を明示した願書に、発明の内容を明らかにし、とくに権利内容の確定に重要な特許請求の範囲を記載した明細書および図面(化学発明等では不要)を添付してこれらを提出する。出願後、一定の期間内または時期に明細書を補正することができるが、補正できる範囲は出願時の明細書によって制約を受けている。
1990年代において、アメリカが発祥の地とされている「ビジネスモデル特許」が産業界だけでなく社会的な話題となったが、日本においてはこのビジネスモデルが自然法則を利用した技術的思想といえるのかどうか、という問題とも絡んだ種々の点から論議された。この点に関し、日本の特許庁の調整課審査基準室が1999年12月にホームページ上に発表した「ビジネス関連発明」の資料によれば、コンピュータ基礎技術、通信基礎技術に基づくビジネスシステムインフラ技術を実際のビジネスに適用させたビジネス応用システムは特許法の保護対象であり、従来の審査基準で特許性を判断する、としている。また、経済法則・経営手法に基づくビジネスモデルやビジネスアイデア自体は保護対象ではない旨を明示している。
[瀧野秀雄]
特許出願を審査して、拒絶する理由がないと、特許査定がなされ、登録料を支払うと特許される。そして、特許原簿に登録され、特許証が交付されて特許権が発生する。特許権の効力は、業として特許発明を独占排他的に実施することができることである。特許権の存続期間は出願の日から20年であり、特別の理由がある場合は5年を限度として延長が認められる。
特許権者は、自ら特許発明を実施できるが、あらゆる財産権と同様に譲渡することもでき、第三者に専用実施権(登録が効力発生要件)を設定し、発明の実施をその者に独占させることもできるし、自ら実施するとともに第三者に通常実施権を許諾することもできる。実施とは、物の発明では、その物の生産、使用、譲渡、貸渡し、輸入または譲渡貸渡しのための申出(譲渡、貸渡しのための展示を含む)であり、方法の発明では、その方法の使用、また物を生産する方法では、方法の使用のほか、生産した物の使用、譲渡、貸渡し、輸入または譲渡貸渡しの申出を内容とする。
特許権を侵害した者に対しては、差止請求、損害賠償請求、不当利得返還、原状回復等の民事上の権利行使が認められる。特許権侵害に対する罰則は、2006年(平成18)の改正(2007年1月1日施行)により、その直接侵害に対する懲役刑の上限が10年、罰金刑の上限が1000万円、擬制侵害(間接侵害)に対する懲役刑が5年、罰金刑が500万円とされている。また、懲役刑と罰金刑は併科することが認められている。両罰規定における法人重課の罰金額は、上限3億円とされている。
特許権は非常に強い独占権となる可能性をもっているが、特許権者には実施義務が課せられ、また、法定実施権や裁定実施権の制約を受ける規定がある。これらの規定は実際にそれほど適用されてはいないが、通常の約定による実施権の付与を促す潜在的な役割をもっているとみるべきである。不実施による取消しの制度は国際条約の線に沿って認めていない。
特許権は、国際性を有する制度ではあるが、各国において独立しており、世界諸国に特許権を取得したければ、それぞれの国に特許出願をしなければならない。そこで特許協力条約(PCT)や欧州特許条約(EPC)により、特許出願の統一化、ひいては特許権の統一化を目ざしている。
[瀧野秀雄]
特許の審査の公正を期するため、審査に対する不服申立ての機関として、また専門知識を有する裁判機関あるいは行政的裁判の第一審に相当する審判部が設けられ、審査官の拒絶査定に対する不服の審判、特許無効の審判、訂正審判を審理する。3名または5名の審判官で審理するので公正を期すことができる。審判官の下す判断を審決といい、これに対しては知的財産高等裁判所を専属管轄とする審決取消訴訟を提起することができる。
なお、特許の出願件数および登録件数の過去10年における推移は以下のとおりである。
●1999年
出願件数 405,655
登録件数 150,059
●2000年
出願件数 436,865(前年対比:107.7%)
登録件数 125,880(前年対比: 83.9%)
●2001年
出願件数 439,175(前年対比:100.5%)
登録件数 121,742(前年対比: 96.7%)
●2002年
出願件数 421,044(前年対比: 95.9%)
登録件数 120,018(前年対比: 98.6%)
●2003年
出願件数 413,092(前年対比: 98.1%)
登録件数 122,511(前年対比:102.1%)
●2004年
出願件数 423,081(前年対比:102.4%)
登録件数 124,192(前年対比:101.4%)
●2005年
出願件数 427,078(前年対比:100.9%)
登録件数 122,944(前年対比: 99.0%)
●2006年
出願件数 408,674(前年対比: 95.7%)
登録件数 141,399(前年対比:115.0%)
●2007年
出願件数 396,291(前年対比: 97.0%)
登録件数 164,954(前年対比:117.0%)
●2008年
出願件数 391,002(前年対比: 98.7%)
登録件数 176,950(前年対比:107.3%)
(注)特許庁ホームページ掲載、2009年6月
[瀧野秀雄]
『中山信弘編著『注解特許法』(1983・青林書院新社)』▽『吉藤幸朔著・熊谷健一補訂『特許法概説』第13版(1998・有斐閣)』▽『特許庁編『工業所有権法逐条解説』第16版(2001・発明協会)』▽『渋谷達紀著『知的財産法講義1 特許法・実用新案法・種苗法』第2版(2006・有斐閣)』
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…このほか技術の普及を容易ならしめる制度として,まず標準化は,製品,品質,製法,検査方法などの基準条件を定め,その普及を図るのであるが,製品の単純化,生産の合理化のほか,技術経験の蓄積と研究の集約などを可能にするので,工業標準化法,農林物資規格法等によってその促進が図られている。特許制度は発明を権利として保護することを目的としており,発明の奨励に役だつほか,技術の公開によって技術の企業化を促進し,またその内容を基礎としてさらに発展を可能ならしめる。また技術の商品化,技術交流を容易ならしめ技術の普及に役だつものである。…
…技術には,ハードウェア(生産技術)とソフトウェア(経営技術)がある。まず移転の形態から述べると,(1)科学文献,学者の交流という基礎的土壌の形成,(2)技術者,管理者の教育・訓練,(3)企業によるパテント(特許)の売買,ノウ・ハウ(特定の技術を特許権の登録をせず自社の秘密にしておくもの)の供与,(4)直接投資による自社技術の適用,(5)政府間技術協力がある。技術の習得には科学知識が必要であり,このような移転の基盤に注目して,教育,受入社会における技術吸収能力の養成に力を入れる人々もある。…
…逆に,いったん成立した納税義務を免除するというように,作為,給付または受忍の義務を特定の場合について解除することを免除という。(3)〈特許〉 人の自然の自由に属さない能力,言い換えれば人が当然には保有したり取得したりすることができないようなある種の法律上の地位を,特定人に対して特別に賦与することを内容とする行為。地方鉄道法による鉄道業の免許,河川法による流水占用許可等がこれにあたる。…
…中小企業金融公庫,農林漁業金融公庫などもこれに該当する。企業【奥野 信宏】
【法律】
日本における行政法上の公企業の観念は,ドイツ行政法におけるöffentliches Unternehmenの観念に由来するが,後者は,公的な活動ないし事業を指すかなり広い観念であり,学問上は,これを私人にゆだねる局面(公企業の特許),したがって公行政主体と企業者の関係が本来の議論の対象であった。これに対し,日本における公企業の観念の理解は,〈企業〉の観念のもつ意味ないしニュアンスに規定・制約され,ドイツ法におけるöffentliches Unternehmenの観念よりは狭く,いわゆる企業性(独立採算制など)を有する事業または事業体を指すものとされている。…
…これが受けいれられ,ここに,出版者は,特定の著作物につき,一定の期間,出版・販売をなす地位を与えられる。特許privilegeと呼ばれる制度がそれである。 しかし,出版者を無断複製から保護し,安んじて出版を業とできるようにしたこの制度には,もう一つの面があった。…
…国際的合意を求めつつ,常に新しいものを探る態度が欠かせない。 工業所有権や特許との絡みも生じる。すでに特許となった技術を使わざるを得ない技術仕様が国際標準となれば,その特許者には多大の特許使用料が入る道が生じる。…
…通商産業省の外局である(通商産業省設置法36~47条)。
[沿革]
1884年6月〈商標条例〉公布により農商務省工務局に〈商標登録所〉が設けられ,翌年4月には〈専売特許条例〉が公布され同局に〈専売特許所〉が設けられた。さらに86年2月に農商務官制の公布とともに新たに専売特許および商標登録の事務を管掌する〈専売特許局〉が設置されたのがその前身である。…
…そして19世紀末以降,有機合成化学が発達すると,染料をはじめとする天然の化合物が人工的に作り出されるようになり,この合成された化合物と天然の化合物を区別することが不可能になり出した。それで特にドイツにおいて,特許法の保護対象を合成された化合物(化合物の製造方法の発明)に限定するために,天然に存するか,存する可能性がある新しい現象や物質・生物などの確認を〈発見〉として発明から除外するようになった。なおこの傾向は,第2次大戦以降,高分子や半導体など天然に存しない化合物が合成されたり,遺伝子工学により天然に存するはずのない生物が作り出されたりするようになったため,物質や生物についても発明がありうることとなり,再びこの区別はあいまいになってきている。…
…外国商品につき,国内で総代理店制がとられている場合,第三者がそのルート以外から商品を輸入することをさすが,法的に問題となるのは,特許権や商標権等の無体財産権(知的財産権)が介在した場合である。例えば,アメリカのA社がアメリカと日本で商標権を有し,日本のB社と総代理店契約を締結し,商標の専用使用権を設定している場合に,日本のC社がアメリカで流通しているA社の製品を独自に輸入・販売する行為はA社の商標権またはB社の専用使用権を侵害することになるか否か,という問題である。…
※「特許」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社世界大百科事典 第2版について | 情報
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