精選版 日本国語大辞典 「独占」の意味・読み・例文・類語
どく‐せん【独占】
ひとり‐うらない ‥うらなひ【独占】
ひとり‐じめ【独占】
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独占とは、その語源が「唯一の売り手」を意味するギリシア語に発することからも明らかなように、ある企業(ないし企業群)が、その市場ないし産業を専一的に支配している状態をいう。
[内島敏之]
近代経済学においては、主として機能的な側面から独占を分析する。売り手が1人のときを売り手(供給)独占、買い手が1人のときを買い手(需要)独占、売り手と買い手がともに1人のときを双方独占というが、近代経済学で独占というときは、売り手独占をさすと考えてよい。
独占がなぜ存在するかの理由としては次の三つがあげられる。
(1)規模の経済のため、多くの企業よりも一企業で生産したほうが費用が安くなるという理由。電気、ガス、鉄道、電話、航空などの公益事業が妥当する。規模の経済のために独占が形成される場合を自然独占natural monopolyという。
(2)希少な資源を一企業が完全に支配しているために独占が存在する。希少な資源には、鉱山、温泉などの天然資源や他の原材料などのほか、特許などの知識も含まれる。
(3)生産物の唯一の売り手である権利が国あるいは企業に免許の形で与えられるために独占が存在する。たばこは専売公社から民営化されたとはいえ、独占企業である点でこの例に含まれる。
[内島敏之]
の(1)のように完全な独占力を有する独占の需要曲線DDは右下がりである。利潤最大を目的とする独占企業は、限界収入MRと限界費用MCとが等しくなる生産量Qmを選択する。これに対応して価格はPmに決定される。価格と生産量の積である販売収入はOPmMQmである。平均費用曲線がACであると、生産量と平均費用の積で示される生産費用はOGFQmとなる。販売収入と生産費用との差はPmMFGとなるが、これが独占企業の利潤を示す。需要条件や費用(技術)条件が変化しないと、新規参入の可能性がまったくないので、この利潤を独占企業は享受し続けることができる。
いま、この産業が完全競争的であるとすると、完全競争産業の供給曲線は限界費用曲線MCである。このとき、価格イコール限界費用が成立するので、完全競争解は点Cで示され、価格はPc、産出量Qcとなる。独占解の点Mとこの点Cを比較すると、独占の場合には、価格は高く、産出量水準は低くなることがわかる。社会全体の見地からすると望ましい産出量水準はQcであるが、独占のもとではQmしか生産されない。したがってQcとQmとの差に対応するだけの設備が利用されておらず、独占のもとでは過剰生産能力が存在している。資源が効率的に配分されていないのである。
[内島敏之]
規模の経済が存在すると、なぜ完全競争ではなく独占が形成されるのかをみてみよう(
の(2))。規模の経済は、平均費用曲線ACが右下がりであることを意味する。つまり、たくさん生産するほど一単位当り費用は安くなる。このとき、限界費用曲線MCはつねに平均費用曲線ACの下方に位置する。独占解は点Mであり、価格はPm、産出量はQmであり、利潤は薄赤部分で示される。限界費用曲線MCと需要曲線DDの交点Cは、完全競争解と考えてよいであろうか。点Cでは、価格はCQc、平均費用はGQcとなる。平均費用が価格をGCだけ上回っている。このため完全競争企業は、つねに赤字を出すことになる。価格イコール限界費用のルールに従って操業する企業は、プラスの利潤をあげることはできないので、点Cを完全競争解と考えることはできない。
このように規模の経済が作用する経済では、完全競争は達成されず、独占が存在することになる。しかし、社会的にみて望ましい産出量は、点Cに対応する産出量Qcである。独占は社会的な見地からすると少なすぎる産出量Qmしか生産しない。独占企業に産出量Qcを生産するように政府が規制するケースが考えられる。点Cで操業すると、独占企業は産出量一単位当りについてGCだけ損失を被るから、GC分を政府が補助金でカバーすればよい。この種のタイプの自然独占の規制は鉄道業においてよくみられるが、「限界費用価格形成原理」に基づく規制である。もう一つのタイプは「平均費用価格形成原理」に基づく規制である。これは価格Pbが平均費用に等しくなるよう規制するものであり、独占は点B(需要曲線と平均費用曲線との交点)に対応する産出量Qbを選ぶ。このとき独占利潤はゼロとなる。このような規制を受ける企業の産出量は、社会的にみて望ましい産出量Qcより小さいが、規制がないときの産出量Qmより大きい。計算しにくい限界費用ではなく、計算しやすい平均費用に基づくこのタイプの独占の規制のほうが、より合理的であると、しばしば主張されている。
[内島敏之]
資本主義体制を市場経済の体系と基本的にとらえる近代経済学によるさまざまな市場形態の比較機能論に対して、元来歴史的視点を強調し経済社会の構造的分析を特徴とするマルクス経済学の立場では、より広い視角から「独占」を考える。
まず、独占は資本主義的市場経済の一定の歴史的な発展過程で登場するものとみる。本来、資本主義体制は、中・近世の政治権力と結び付いた特権的商業資本にかわって、市場での自由な競争を通して最大限の利潤を獲得しようとする近代産業資本の市場競争の体制として発生した。しかし自由競争は、一方で利潤獲得を目ざしての個別企業の競争的な規模拡大(資本の蓄積)を、他方で競争に敗れた弱小企業の吸収・合併(資本の集中)を促し、生産と資本の少数巨大企業(独占資本)への高い集中化をもたらした。資本主義の自由競争から独占段階への発展転化といわれる過程がこれである。たとえば、大蔵省(現財務省)の調査によれば、1996年(平成8)時点でわが国の法人企業総数のわずか0.21%を占めるにすぎない資本金10億円以上の大企業5114社は、全法人企業の総資産合計額の43.6%、資本金の63.0%、従業員の19.8%を占め、売上高の37.8%、営業利益の56.8%を占めている。この少数巨大企業への経済活動の高度集中化傾向は、現代の先進的資本主義経済に共通して認められる現実である。少数巨大企業への経済の一般的集中とともに、特定産業での大企業(群)への生産集中(出荷集中)もある。公正取引委員会の調査によれば、1994年(平成6)の日本の主要産業別の上位3社累積出荷集中度の単純平均値は、輸送用機械器具製造業の78.8%を最高に、金属製品69.5%、電気機械器具66.0%、一般機械器具64.9%、食品64.4%などとなっており、総じて製造業のほうが非製造業34業種平均値54.0%より十数ポイントほど高くなっている。
現代の独占は、このような少数巨大企業への高い生産と資本の集中化にとどまらない。これら巨大企業は多数の子会社や系列企業を傘下にもち事業活動を行っている。先の大蔵省調査によれば、全法人企業の0.005%を占めるにすぎない最大100社(資産集中度19.4%)が50%以上の株式を所有する関係会社は4075社に上り、これら関係会社を含めると総資産集中度で23.7%となっている。つまり巨大企業の経済支配力は、生産や流通の諸段階にまたがる関連子会社や系列会社への影響力の行使を通しても発揮される。しかし、これらの集中度は、1986~1996年の10年間で7ポイントほど低下している。
さて、以上のような独占的な企業結合は、生産物やサービス取引面とともに、株式発行や資金融資さらには役員の相互派遣といった資金的・人的結合関係によっても支えられる。歴史的にみて独占的な巨大企業と企業結合体の形成の有力手段となったのは株式会社制度であった。この制度によって社会に遊休している莫大(ばくだい)な資金を動員して、利潤などの内部資金の限界を超えた企業規模の拡大が可能となり、他方では株式所有の分散化に伴って少数の株式所有による他企業支配(これを支配の集中という)が可能となったからである。そして資金の社会的動員を担い株式発行業務を担う巨大銀行の影響力も増大する。かつてドイツ社会民主党の理論家R・ヒルファーディングは「銀行が管理し産業が使用する資本」を金融資本とよび、以来マルクス経済学の伝統では、巨大産業と巨大銀行とを統一的に支配する金融資本こそ、独占と独占資本主義を支配する資本形態とみなしている。しかし、現代の先進資本主義での主要な大株式所有は、個人株主から離れ、巨大保険会社や銀行、巨大産業企業といった機関所有者によって占められている(日本の場合、機関所有比は70%前後であり、その割合は徐々に高まっている。個人株主比は27%前後)。
以上のように生産と資本の高度な集中を土台に株式所有や人的交流を通して経済活動を支配する巨大企業と独占的企業結合体が、マルクス経済学での独占のもっとも基本的な形態である。そして独占と金融資本的支配体制としての独占資本主義下の独占諸形態は、
(1)同一産業での横断的な企業結合による生産と価格面での協調行動を特徴とするカルテル
(2)共同企業による独占的な購入・販売機関の形式をとるシンジケートまたはトラスト
(3)多産業にまたがっての企業の金融資本的支配を特徴とするコンツェルン(第二次世界大戦前の財閥や現代における企業集団)
などが区別される。独占は、その巨大な経済力を利用して独占価格を通して消費者や中小企業を搾取・収奪するにとどまらず、国家の政治や政策への影響力を行使し、原料や市場の獲得を目ざして海外にもその独占力を拡大する。また、独占はその支配力に安住し経済進歩への活力を欠き、資本主義経済の停滞化と腐朽化の原因となるものとして厳しく批判される。しかし現代の厳しい国際競争を考えると、こうした一国主義的な独占規定の再検討が求められている。
[吉家清次]
『P・A・サムエルソン著、都留重人訳『経済学(原書第11版)』全2冊(1981・岩波書店)』▽『妹尾明編『現代日本の産業集中』(1983・日本経済新聞社)』▽『『経済構造の変化と産業組織』(1992・公正取引委員会)』▽『『財政金融統計月報』544号(1997・大蔵省)』▽『『公正取引委員会年次報告』各年版(公正取引委員会)』▽『奥野正寛著『ミクロ経済学入門』(日経文庫)』▽『R・ヒルファーディング著、岡崎次郎訳『金融資本論』(岩波文庫)』▽『レーニン著、副島種典訳『帝国主義論』(大月書店・国民文庫)』
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…アメリカで人気のあるボードゲーム。モノポリーは〈独占〉の意味。ゲームの発明者は失業中の電気技師チャールズ・ダロウといわれ,1930年代の大不況のとき,パーカー・ブラザーズという玩具会社がその権利を買いとり大ヒットさせた。この会社の宣伝によるとおよそ半世紀の間に世界中で8億セットを売ったという。ゲームは2人以上8人まで一度にプレーすることができる。各プレーヤーは2個のさいころの目によって自分の駒を進めていき,その升目にあたる土地の権利書を買いとる。…
…
[価格制度の限界]
価格制度の働きの説明を終わるにあたって,この制度の限界に簡単にふれておく。とくに重要なのは公共財と独占である。公共財は,ある経済主体によるその消費が,他の経済主体によるその同時的消費を排除しない財とサービスと定義され,国防,公園等が代表的な例である。…
…以下では市場の形態を主としてそこに参加する主体(とりわけ企業)の数に依拠していくつかに区別してみよう(表参照)。 まず,一つの市場に存在する企業の数が1の場合は独占であり,それは当面の企業が生産物の供給者であるか需要者であるかにしたがって供給独占あるいは需要独占に区別される。また両者とも単一の企業である場合を双方独占という。…
…そこで不完全競争とは,一企業がたんに〈一滴〉でないか,市場が〈大海〉でないか,どちらかの状態であるといえる。前者の極端な例としては,市場にただ一企業しか存在しない独占の場合があげられる。他企業でしばらくまねのできないような画期的な新製品を発売した企業とか専売会社の場合などがそれにあたる。…
※「独占」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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