(読み)ウツツ

デジタル大辞泉 「現」の意味・読み・例文・類語

うつつ【現】

この世に現に存在しているもの。現実。夢・虚構などに対していう。「夢かか幻か」
意識の正常な状態。正気。「に返る」
《「夢うつつ」「夢かうつつか」などの形で用いられるところから誤って》夢とも現実ともはっきりしない状態。夢見心地夢心地
「昨今の―は事実かも知れないと思った」〈漱石草枕
現実に生きている状態。現存。死に対していう。
「―の人々の中に忍ぶることだに、隠れある世の中かは」〈手習
[類語]現実実際実地実情実態実相現状事実実在まこと本当真実真理真相史実真正実の正真正銘紛れもない他ならない有りのまま有りよう事情実況得体現実現実的実際的現に臨場感リアル

げん【現】[漢字項目]

[音]ゲン(呉) [訓]あらわれる あらわす うつつ うつし
学習漢字]5年
〈ゲン〉
見えなかったものが見えてくる。あらわれる。あらわす。「現象具現再現実現出現体現表現
今。まのあたり。実際の。「現行現在現実現状現代現地現物
〈うつつ〉「夢現
[名のり]あり・み
難読現津神あきつかみ現人神あらひとがみ現身うつしみ現世うつしよ

げん【現】

(連体詞的に用いて)現在の。今の。「政府」「段階」「チャンピオン」
現世げんせ」の略。「過未」
「あまねく―には千幸万福に楽しみて」〈盛衰記・三九〉
現に

あら【現】

[接頭]名詞に付いて、目に見える形をもつ、現にこの世に存在する、の意を表す。「人神あらひとがみ」「あらがみ

おつつ〔をつつ〕【現】

現在。うつつ。
「今の―に尊きろかむ」〈・八一三〉
[補説]助詞「に」に続くときは「おつづに」と濁音化することもあった。

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

精選版 日本国語大辞典 「現」の意味・読み・例文・類語

うつつ【現・顕】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 世に実際に存在していること。また、その存在しているもの。多く、観念世界、死、虚構のものなどに対して用いられる。
    1. (イ) ( 観念世界に対して ) 目ざめた意識に知覚される現実。実際。
      1. [初出の実例]「御孫尊、若し宝の国を得まく欲(おもほ)さば、現(ウツツ)に授けまつらむ」(出典日本書紀(720)神功九年一〇月(北野本訓))
      2. 「敷栲(しきたへ)の 袖反しつつ 寝(ぬ)る夜おちず 夢には見れど 宇都追(ウツツ)にし 直(ただ)にあらねば 恋しけく 千重(ちへ)に積りぬ」(出典:万葉集(8C後)一七・三九七八)
    2. (ロ) ( 死に対して ) 生きて存在している状態。なまの身。
      1. [初出の実例]「ひたすら、世になくなりて後に、うらみ残すは世の常のこと也。〈略〉うつつの我身ながら、さるうとましきことをいひつけらるる」(出典:源氏物語(1001‐14頃)葵)
    3. (ハ) ( 仮作物語などの虚構に対して ) 現実に存在していること。実在。
      1. [初出の実例]「うつぼのふぢはら君のむすめこそ〈略〉女しき所なかめるぞひとやうなめる、とのたまへば、うつつの人もさぞあるべかめる」(出典:源氏物語(1001‐14頃)蛍)
  3. 目ざめていて、知覚がはっきりしている状態。また、正常な精神状態であること。正気。→うつつない
    1. [初出の実例]「かのひめ君と思しき人の、いと清らにてある所にいきて、とかくひきまさぐり、うつつにも似ずたけく厳(いか)きひたぶる心いできて、うちかなぐる」(出典:源氏物語(1001‐14頃)葵)
  4. ( 「夢うつつ」と続けていうところから誤用して ) 夢か現実かはっきりしないような状態。また、そのような状態にあるもの。
    1. (イ) 夢を見ているような心理状態。夢見ごこち。夢。まぼろし。
      1. [初出の実例]「大塔宮を始め進(まゐら)せて、我慢、邪慢の小天狗共に至るまで『いしくも計ひ申たる哉』と、一同に皆入興(じゅきょう)して幻(ウツツ)の如に成にけり」(出典:太平記(14C後)二五)
    2. (ロ) うっとりとした状態。
      1. [初出の実例]「万事頼(たのみ)あげるなどいへば、住持はや現(ウツツ)になって」(出典:浮世草子・好色一代女(1686)二)
    3. (ハ) 正気のないこと。魂のぬけたからだ。
      1. [初出の実例]「いつとなくおなつ清十郎に思ひつきそれより明暮心をつくし魂身のうちをはなれ清十郎が懐に入て我は現(ウツツ)が物いふごとく」(出典:浮世草子・好色五人女(1686)一)
    4. (ニ) 仮睡して、うつらうつらしている状態。
      1. [初出の実例]「大分ささによふて、うつつで居た私をとらへて、ささやかしやるとはおもふたが」(出典:浮世草子・傾城色三味線(1701)江戸)

げん【現】

  1. 〘 名詞 〙
  2. この世に実際に存在していること。また、現在の段階で該当すること。実在。現実。現在。連体詞的にも用いられる。
    1. [初出の実例]「判官ならば仔細を知らずして関手をなして通らんと急ぐべし。げんの山伏ならば、よも関手をばなさじ」(出典:義経記(室町中か)七)
    2. 「僕らはこの現社会なるものを離れてこの世に生きる事の出来ない」(出典:竹沢先生と云ふ人(1924‐25)〈長与善郎〉竹沢先生の人生観)
  3. げんせ(現世)」の略。
    1. [初出の実例]「普(あまね)く現(ゲン)には千幸万福に楽しみて、当(たう)には補陀洛山に生まれんと誓ひ給へる寺なりけり」(出典:源平盛衰記(14C前)三九)
  4. ちょうどその場にあること。ありあわせること。
  5. げんぶつ(現物)」の略。〔取引所用語字彙(1917)〕
  6. げんしょく(現職)」の略。議員選挙などの際に用いる。「自民現」

おつつをつつ【現】

  1. 〘 名詞 〙 ( 「うつつ(現)」と同語源。上代「に」に続くときは「をつづに」と下の「つ」は濁音化したといわれる ) 今。現在。現実。うつつ。
    1. [初出の実例]「神ながら 神さび坐す 奇魂(くしみたま) 今の遠都豆(ヲツツ)に 尊きろかむ」(出典:万葉集(8C後)五・八一三)
    2. 「おつつにも夢にも人の待たなくに訪ひ来るものは老にぞありける」(出典:良寛歌(1835頃))

あら【現】

  1. 〘 造語要素 〙 名詞の上について、世に現われている、目に見える形で存在する意を表わす。「現神(あらがみ)」「現人神(あらひとがみ)」など。

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