翻訳|theory
諸法則を体系化したものをいう。もっとも普通には、理論は実際と対比され、実際は理論とは違う、などといわれる。これは、理論というものには一般になんらかの理想化が含まれており、したがってそのままでは実際には使えない、ということの皮肉を込めた表現である。しかし、よりたいせつなのは、経験と対比された理論である。
科学の研究は個々の経験法則の探究から始まる。そして、たとえば気体については、ボイルの法則とかシャルルの法則とかが発見された。これらの法則はいずれも、気体の圧力、体積、温度に関する法則である。そして、それら三つの量は、それぞれ経験的に測定されうるものである。したがってそれらの法則は、経験的に測定されうる量の間の経験的に確立されうる法則であり、それゆえ経験法則といわれる。ところが、一群の経験法則が発見されると、次の段階として、それらの法則を統一的に説明しようということになる。そしてそのためには、先の例でいえば、気体というものをより根元的に考えなくてはならないことになる。そこで科学者は、気体というものは乱雑に運動している分子の集団である、と考え、それぞれの分子にニュートン力学を適用した。かくしてそこに「気体運動論」という理論が成立したのである。ところが、分子というものは、われわれの経験できるものではない。それは、経験法則を説明するために、科学者によって考えられたものである。したがって、気体運動論という理論を構成している諸命題(すなわち諸法則)は、経験的に確立されうる法則ではない。すなわち、科学者は経験法則を説明するのに、その背後に隠れている非経験的法則でもってするのである。このような非経験的法則が「理論法則」といわれ、理論法則の体系が「理論」といわれるのである。しかし実は、非経験的法則でもって経験法則を説明するためには、両者をつなぐ命題が必要である。それが「対応規則」といわれるものである。先の例では、分子の運動エネルギーの平均値はその気体の絶対温度に比例する、というのがその一例である。すなわち、われわれは経験法則の背後に、対応規則を通して非経験的な理論法則を、その経験法則の実の姿としてみるのである。そしてこれが、経験法則についての理論的説明にほかならない。したがって、経験と対比された意味での理論というものは、経験の背後にあって、経験を「実は理論的にはこうなのだ」として、説明するものなのである。
[黒崎 宏]
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
…創立時には,侵略戦争を阻止できなかったことを反省し,〈民衆の科学的欲求の結集〉〈反民主主義的な文教制度・政策・思想との闘争〉〈民衆の生活と文化のための科学の動員〉など〈民主主義科学の建設〉を目的とした。自然科学,社会科学や芸術部門の部会が設けられ,《民主主義科学》や《理論》(哲学部会),《歴史評論》(歴史部会)などの機関誌を刊行する。49年4月の第4回大会以後の最盛期には会員が1万名を超え,全国各地の支部や研究所班,学生班で多様な課題をとりあげて活動した。…
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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