食品や料理に甘味をつけるために使われる調味料および食品添加物の総称。化学構造の違いから、糖質系甘味料と非糖質系甘味料に大別される。また、由来の違いから天然甘味料と人工甘味料に分類されることもある。
代表的な甘味料は砂糖で、調理や食品加工に広く用いられている。近年は、甘味をつけるだけでなく、カロリー摂取量の低減、むし歯予防、整腸作用など、砂糖とは異なる特性や機能をもつ種々の甘味料も利用されている。
糖質系甘味料には、砂糖のほかに、デンプンを原料とするブドウ糖、麦芽糖、飴(あめ)・水飴、異性化糖、果糖などがある。ほかにフラクトオリゴ糖などのオリゴ糖類(少糖類)や、ソルビトールなどの糖アルコール類もあるが、これらのなかには、低カロリー、むし歯の原因となりにくい(低う蝕性)などの機能を備えているものもある。
非糖質系甘味料には、ステビア抽出物、カンゾウ(甘草)抽出物などの植物由来の天然甘味料、および、アスパルテーム、スクラロースなどの合成甘味料がある。これらの甘味料は砂糖と比較して非常に甘味が強く、目的とする甘さを少量で引き出すことができるため、摂取カロリーを抑えることができる。
[藤原しのぶ 2024年8月16日]
日本で歴史的に古くから使用されていた甘味料は、蜂蜜(はちみつ)、飴および甘葛煎(あまづらせん)である。甘葛煎は日本固有の甘味料と考えられているが、現存しない。2010年代に古文献を参考にブドウ科のツタの樹液を煮つめて甘葛煎を再現する試みが行われ話題となったが、生産効率が悪く実用化はむずかしい。砂糖は奈良時代には渡来していたが、貴重な薬として扱われていた。甘味料として普及したのは明治時代以降である。
砂糖の主成分はショ糖である。カンショ(サトウキビ)、テンサイ(サトウダイコン)などの植物中に蓄えられたショ糖を工業的に取り出して結晶化したものが砂糖である。
ブドウ糖、麦芽糖は、デンプンを原料として酸または酵素で加水分解することで人工的に製造される。ブドウ糖の甘味の強さは砂糖の0.6~0.8倍で、飲料や菓子に使用される。
異性化糖は、デンプンの糖化により生成したブドウ糖液に酵素を作用させて、ブドウ糖の一部を果糖に変換したもので、ブドウ糖と果糖の混合糖液である。異性化糖の甘味は低温ほど強く感じられるため、清涼飲料水や冷菓などに利用される。異性化糖を添加した加工食品の原材料欄には「ぶどう糖果糖液糖」「果糖ぶどう糖液糖」と表示される。
異性化糖やショ糖から果糖が得られる。果糖は清涼感があり、低温で甘味が強くなる(砂糖の1.2~1.7倍)ため、冷菓に利用される。保湿性があり、カステラやスポンジケーキ、羊かんなどにも用いられる。
オリゴ糖類や糖アルコール類は、果実、野菜、海藻類などに含まれているものもあるが、一般的には工業的に酵素反応などを利用して製造される。砂糖やブドウ糖などの糖質を摂取すると、エネルギーは1グラム当り4キロカロリーを生じるが、オリゴ糖や糖アルコールのなかには、生体内では分解・吸収されにくいために低カロリーのものがある。これらを多量摂取すると一時的にお腹が緩くなることがある。
天然に存在する代表的なオリゴ糖は、ダイズやテンサイに含まれるラフィノースやスタキオースである。各種の糖を原料として酵素処理などによりイソマルトオリゴ糖、フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖など、さまざまなオリゴ糖が工業的に合成されている。甘味料として利用されているオリゴ糖は、砂糖と比較すると甘味は弱いが、腸内細菌であるビフィズス菌の増殖促進効果(整腸作用)や低う蝕性などの生理機能を有している。
糖アルコールは、ブドウ糖や麦芽糖などの糖類のアルデヒド基が水酸基に還元された構造をもつ化合物で、人工甘味料の一種である。ソルビトール、マルチトール、エリスリトール、キシリトールなどがある。砂糖に比べて甘味は弱いものが多いが、さわやかな甘味、冷涼感、低う蝕性、吸湿性などの特長があり、菓子や飲料などの多くの加工食品に利用される。摂取しても糖代謝に影響しにくいため、糖尿病患者用の砂糖代替甘味料として利用されている。
[藤原しのぶ 2024年8月16日]
由来の違いから、天然甘味料と合成甘味料に分類される。安全性と有効性が確認され、厚生労働大臣が食品添加物として指定したもののみ食品への使用が認められている。必要に応じて、成分規格や使用基準(対象食品、使用できる最大限度の濃度など)が定められている。
非糖質系甘味料は砂糖と比較して非常に甘味が強く、少量の使用で満足感が得られるため、摂取カロリーを抑えることができる。合成甘味料のなかには、摂取しても代謝されずそのまま排泄(はいせつ)されるため、エネルギーはノンカロリーとなるものもある。砂糖代替甘味料として糖尿病患者や肥満の人に利用されるが、健康意識の高まりを背景に、一般の人が摂取する加工食品にも利用が広がっている。それぞれの味質や特性を生かし、砂糖の味質に近づけるために2~3種類を併用する例も多い。
天然甘味料は、植物の果実や葉などに含まれる甘味成分を抽出して製造される甘味料で、ステビア(アマハステビア)の葉の抽出物、カンゾウの根の抽出物、羅漢果(らかんか)の果実の抽出物などがある。甘味の強さは、砂糖の200~400倍で、飲料、菓子類、調味料、漬物、佃煮(つくだに)など加工食品全般に使用されている。このほか、クズウコン科の植物の種子から得られる甘味料のタウマチン(ソーマチン)がある。甘味の強さは砂糖の2000~3000倍で、ガム、乳製品などに利用されている。天然甘味料には、食品添加物としての使用基準は定められていない。
合成甘味料は、人工的に化学合成により製造される甘味料(人工甘味料)である。代表的なものとして、サッカリンおよびサッカリンナトリウム(甘味の強さは砂糖の200~700倍。以下同じ)、アスパルテーム(200倍)、アセスルファムカリウム(200倍)、スクラロース(600倍)などがある。これらの甘味料は水に溶けやすく、飲料、ガムなどの菓子、冷菓など幅広い分野で利用されている。ただし、サッカリンは水に溶けにくいため、溶けやすくしたサッカリンナトリウムが使用される。
アミノ酸を原料とするアスパルテームには使用基準はないが、アセスルファムカリウムやスクラロースなどは、使用できる対象食品や食品ごとの使用量などの使用基準が定められている。
[藤原しのぶ 2024年8月16日]
『吉積智司他著『光琳テクノブックス4 甘味の系譜とその科学』(1986・光琳)』▽『橋本仁・高田明和編『シリーズ〈食品の科学〉 砂糖の科学』(2006・朝倉書店)』▽『伊藤汎・小林幹彦・早川幸男編著『光琳選書7 食品と甘味料』(2008・光琳)』▽『山辺規子編著『甘葛煎再現プロジェクト“よみがえる古代の甘味料”』(2018・かもがわ出版)』▽『『新訂版 食品添加物の使用基準便覧 第51版』(2023・公益社団法人日本食品衛生協会)』
食品に甘みをつけるために用いられる調味料。甘みは食物の味の一種だが最も好まれる。昔から人々は甘みを求めたが,天然の甘味料として最も味にすぐれたものである砂糖は,現在でも日本はその大部分を輸入に頼っている。この低い自給率を改善するために,またカロリーの低い甘味料の需要の増大から,砂糖以外の甘味料が種々開発されている。大別すると天然甘味料と合成甘味料に分けられるが,ここでは前者について述べ,後者については〈合成甘味料〉の項目を参照されたい。天然甘味料の主要なものは糖類であり,このほかにアマチャ(甘茶),カンゾウ(甘草),アミノ酸類,ステビア,糖アルコールなどがある。(1)糖類 代表的なものはショ糖で,サトウキビから精製して作るカンショ(甘蔗)糖と,テンサイの根から精製して作るテンサイ糖とがある。脱色の程度により上白,中白などの種類があり,結晶の大きさの違いによりざらめ,グラニュ糖,車糖などの種類がある。ブドウ糖はほとんどの食物に含まれるが,工業的にデンプンを酸で糖化して作られる。精製して結晶化させた結晶ブドウ糖と,粗製の粉末ブドウ糖がある。果糖は果物の甘味成分であり,また,はちみつの甘味成分である。ショ糖の約2倍甘く,さわやかな甘みなので,現在はブドウ糖を異性化酵素という特殊な酵素で果糖に転換する工業が発展している。清涼飲料の甘みに広く使われている。(2)アミノ酸類 グリシンなど一部のアミノ酸は甘い。アミノ酸が3個つながったアスパルテームというペプチドがひじょうに甘いが,合成甘味料に属する。(3)糖アルコール 糖のアルデヒド基がアルコール基となったもので,マルチトール,ソルビットなどがよく用いられる。消化吸収されないので低カロリー甘味料として利用されている。
執筆者:田島 真
人類が最も古くから知っていた甘味料ははちみつや果実であろうと思われるが,日本では奈良時代の記録にあめ,甘葛煎(あまずらせん),はちみつ,ショ糖が見られる。あめは甘いものの意の〈あま〉から転じたとされ,糖の字をあてることが多い。《日本書紀》神武即位前紀に〈水なくして飴(たがね)を造る〉と出ており,平安京の西市には〈糖〉があって売買されていた。甘葛煎はアマズラと呼ぶ植物からとった汁で,たんに甘葛ともいい,味煎(みせん)ともいった。砂糖の使用が一般化するまでは最も重要な甘味料だったもので,《延喜式》には伊賀,遠江以下の諸国から貢納されたことが見え,また室町期までの文学作品などに名を見ることが多い。はちみつは《日本書紀》皇極紀に百済の太子余豊が大和の三輪山で養蜂して失敗したという記事があり,《延喜式》にはわずかながら甲斐,信濃などの7ヵ国から貢納されていたことが見える。ショ糖は正倉院に納められた聖武帝の遺品の中に見られるが,はちみつとともに当時も以後もほとんど薬用とされ,食用としたのはごく一部の貴族に限られていたようである。
→砂糖
執筆者:鈴木 晋一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…また辛味料は,辛みが味というよりは物理的刺激に近いため,香気を付与する香料とともに香辛料として区別されており,苦味料はカクテルに使うビターやビール醸造におけるホップなどのほかはまず使用されない。すなわち狭義の調味料とは以上を除外したあとの鹹味料,酸味料,甘味料を指すことになる。鹹味料では塩,みそ,しょうゆがおもなもので,ウースターソースなどもこれに含まれる。…
※「甘味料」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
10/29 小学館の図鑑NEO[新版]動物を追加
10/22 デジタル大辞泉を更新
10/22 デジタル大辞泉プラスを更新
10/1 共同通信ニュース用語解説を追加
9/20 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新
7/22 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新