かん‐ろ【甘露】
〘名〙
① 天から与えられる甘い
不老不死の
霊薬。
中国古来の伝説では、
天子が
仁政を行なうめでたい前兆として天から降るといわれている。
※
書紀(720)天武七年一〇月(北野本訓)「則ち風に随ひて
松林と葦原とに飄
(ひひ)る。時の人、曰はく、『甘露
(カムロ)なり』といふ」 〔論衡‐講瑞〕
② (
amṛta の
訳語。阿蜜㗚多と音訳。
不死、神酒などとも訳す)
インドで天の神々が不死を得るための
飲料をいう。これを飲むと苦悩を去り、長寿になり、死者をもよみがえらせるという。転じて、仏の教え、仏の悟りなどにたとえる。
※栄花(1028‐92頃)もとのしづく「曼陀枳尼の殊勝の池に沐浴し、四種の甘露を嘗(な)め」
※
今昔(1120頃か)一「我、甘露
(かんろ)の法門を開て彼
(かの)阿羅邏仙を先づ度せむ」
③ (形動) おいしいこと。また、そのさま。美味を表わす語。
※新撰類聚往来(1492‐1521頃)上「於二甘露(カンロ)之乳水醍醐之上味一、難レ及二料棟(れうけん)一候」
④ 瓜の異称。
※蔭凉軒日録‐文明一九年(1487)六月二八日「喫二梵天一啜二甘露一」
出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報
デジタル大辞泉
「甘露」の意味・読み・例文・類語
出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例
甘露
かんろ
古代に、不老不死になるとされた神の飲食物。『老子』によると、中国では天下太平のときに天より降るという。サンスクリット語アムリタam
ta(不死の意)の漢訳で、インドでは飢渇をいやし不死を得る天人の食物をいう。ベーダではソーマ酒をさす。仏教では、須弥山(しゅみせん)頂上にある三十三天の不死の霊液であり、また仏の教法や涅槃(ねはん)をもいう。なお、ギリシア神話のアンブロシアambrosiaも不死の意で、不老不死になるという神の食物である。
[小川 宏]
出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例
かんろ【甘露 honey‐dew】
アブラムシ(アリマキ)の排出物。植物の葉や枝に微小な液状となってついており,甘いので甘露と呼ばれる。アリはこれを利用するためにアブラムシを守る(共生)ことがある。よく似た現象に露玉(つゆだま)(草の露のこと)がある。これは植物体から蒸散などで排出された水分が液状の粒となって草や木の葉につくもので,空気中の水蒸気が凝結してできる露とは異なる現象である。【内田 英治】
かんろ【甘露】
古代のインド,中国の伝承の霊薬。インドでは,もとサンスクリットのamṛtaで〈死なない〉ことを意味することばであるが,インド最古の古典《リグ・ベーダ》では転じて不死なること,神を意味し,そこから神々の食物や飲料をも意味するようになった。したがって,本来どのようなものであったかは明らかでないが,古代インドの伝承では,しばしばソーマ酒(ソーマなる植物より造った飲料,酒で神に供えられる)と同一視され,みつのように甘く,万病の薬とされている。
出典 株式会社平凡社世界大百科事典 第2版について 情報
甘露
かんろ
(1) サンスクリット語アムリタ amṛtaの訳語で,不死,天酒とも訳される。インド神話では,諸神の常用する飲物で,蜜のように甘く,飲むと不老不死になるという。酒あるいは美味な飲物に対しても用い,仏教の教法にもたとえる。 (2) 中国伝説では,王が仁政を行うと,天がその祥瑞として降らすという甘味の液体。
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
普及版 字通
「甘露」の読み・字形・画数・意味
【甘露】かんろ
甘い露。太平の象。〔老子、三十二〕天地相ひ合し、以て甘露を
す。字通「甘」の項目を見る。
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
世界大百科事典内の甘露の言及
【アブラムシ(蚜虫)】より
…師管の液はアブラムシが必要とするアミノ酸に乏しいので,十分なアミノ酸を摂取するためには,糖分の摂取量が過剰となる。アブラムシの排出物はこの余分な糖を含んでいるので甘く,甘露(かんろ)と呼ばれる。中近東などの乾燥した気候の地方では,甘露が乾いて塊状となったものを集めて食用に供することがある。…
【インド神話】より
…ブラフマー(梵天)はそのへそに生えた蓮花から生じたという。太古,ビシュヌが音頭をとり,神々とアスラ(阿修羅)たちは,アムリタamṛta(甘露)を得ようとして,大海を攪拌した。その際,海中から次々と珍宝が出現し,ビシュヌの妃となったシュリー・ラクシュミーŚrī‐Lakṣmī(吉祥天女)もそのときに海中から現れた。…
【ビシュヌ】より
…シバが山岳と関係あるのに対し,ビシュヌは海洋と縁が深い。太古,ビシュヌが音頭をとり,神々は大海をかくはんして不死の飲料アムリタ(甘露)を得ようとした。ビシュヌはその際に海中から生じたシュリー・ラクシュミー(吉祥天女)を妻とし,宝珠カウストゥバkaustubhaを首に懸けた。…
※「甘露」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社世界大百科事典 第2版について | 情報