改訂新版 世界大百科事典 「生江東人」の意味・わかりやすい解説
生江東人 (いくえのあずまひと)
奈良時代の豪族,官人。生没年不詳。越前国足羽郡の人か。749年(天平勝宝1)5月大初位上,造東大寺司の史生として,東大寺の野占寺使となり越前に赴き同寺領荘園の占定を行った。のち754年2月には寺家の田使曾禰乙麻呂らとともに同国坂井郡桑原荘の経営に参画するなど,東大寺領諸荘園の経営に大きな役割を果たした。時に足羽郡大領の地位にあったが,同郡では749年当時の大領として生江安麻呂がいたので,生江氏は同郡の伝統的豪族であったと考えられる。彼は大領に任ぜられる以前から足羽郡道守(ちもり)村に墾田100町をみずから開墾し東大寺功徳料として寄進して経営にあたっていた。その後768年(神護景雲2)に外従五位下に叙せられた。彼は在地豪族として墾田開発に見られるような大きな勢力を有し,造東大寺司史生から足羽郡郡司に転じた背景には,越前国にある同寺領荘園の経営に彼の有する勢力を利用しようとした律令政府,造東大寺司の意図があった。
→道守荘
執筆者:館野 和己
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報