生薬(読み)いくくすり

精選版 日本国語大辞典 「生薬」の意味・読み・例文・類語

いく‐くすり【生薬】

〘名〙 (「いく」は、四段動詞「いく(生)」の連体形) 起死回生の薬。不老不死の薬。いきぐすり。
拾遺(1005‐07頃か)別・三三一「かめ山にいくくすりのみ有りければとがむる方もなき別れ哉〈戒秀〉」
[補注]近世語源を誤って「いく」を「幾」と解し、幾種類かの薬、いろいろの薬の意とした例として、「好色一代男‐七」の「田舎大じん印籠あけて、いく薬かあたえけるを」などがある。

しょう‐やく シャウ‥【生薬】

〘名〙 根茎木皮果実種子または犀角(さいかく)麝香(じゃこう)熊胆(くまのい)などの、動植物鉱物全体あるいは一部を、原形のままで、もしくは人工をあまり加えずに用いる医薬品。きぐすり。〔現代術語辞典(1931)〕

き‐ぐすり【生薬】

〘名〙 漢方で、まだ調剤してない材料のままの薬。しょうやく。
※俳諧・独吟一日千句(1675)第四「砂糖一桶雪のむら消 木薬の上りまたるる鶯も」

いき‐ぐすり【生薬】

せい‐やく【生薬】

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デジタル大辞泉 「生薬」の意味・読み・例文・類語

しょう‐やく〔シヤウ‐〕【生薬】

植物動物・鉱物などを、そのまま、または簡単な処理をして医薬品あるいは医薬原料に供するもの。西欧生薬・和漢薬民間薬などに分けられる。きぐすり。せいやく。

き‐ぐすり【生薬】

しょうやく(生薬)」に同じ。

せい‐やく【生薬】

しょうやく(生薬)

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「生薬」の意味・わかりやすい解説

生薬
しょうやく

自然界に産する物質のなかで、ヒトあるいは他の動物に対してなんらかの薬効を有するもの、あるいは有するとの考えから使用されているものをいう。生薬は植物性生薬、動物性生薬、鉱物性生薬に3大別することができる。

[難波恒雄・御影雅幸]

植物性生薬

俗に草根木皮とよばれているように、いろいろな植物のさまざまな部位が薬用に供される。

(1)全草類生薬 植物体の全体、あるいは地上部全体を1種類の薬物として用いるもので、その種類は非常に多く、とくに民間薬の大半は全草類生薬である。一般に花期のものを採集して用いるが、まれに果実期、あるいは幼少期のものも用いられる。通常、漢方ではそのまま乾燥し、他の生薬と配合して用いられるが、インド医学では新鮮なものも多く利用される。また、民間療法では生(なま)のまま用いられることが多く、絞り汁を内服したり、すりつぶして外用したりすることが多い。

 菌類の場合は、子実体、あるいは地下の菌核を薬用として利用することが多いが、なかには、セミタケ類のように寄生宿主をも含めて使用することがある。

(2)葉類(ようるい)生薬 葉のみを薬用とするもので、利用方法は全草類生薬と同様であるが、熟艾(じゅくがい)(もぐさ)のようにヨモギなどの葉に生える毛を集めて利用するものもある。市販品のなかにはしばしば茎や枝、また長い葉柄などの混入するものがあるが、品質的には劣品とされる。なお、ときには葉柄のみが薬用とされる場合もある。

(3)根および根茎類生薬 植物体の地中にある部分を薬用とするもので、根茎と根の区別がはっきりしたものでは、それぞれ単独に用いられることが多い。区別がはっきりしないものは地下部全体が用いられる。これに含まれる生薬は漢薬のなかでも種類が多く、しばしば修治(加工)して用いられる。

(4)果実および種子類生薬 これらの生薬では一般に成熟品が用いられるが、未熟品が使用されることもある。果実の場合は果皮のみの場合もある。また、大形の種子では、通常、破砕あるいは切断したのち、乾燥して用いるが、小形のものでは、そのまま煎(せん)じるか、あるいは粉末化して用いる。まれに花托(かたく)や萼(がく)、果柄があわせて利用されるほか、萼のみ(カキ)、へたのみ(ウリ)が独立した生薬として使用される場合もある。

(5)花類(かるい)生薬 つぼみあるいは咲き始めの花全体を用いるのが一般的である。特殊なものとしては、雌蕊(しずい)(雌しべ)の柱頭のみを用いるもの(サフラン、トウモロコシ)、雄(ゆう)蕊(雄しべ)のみを用いるもの(ハス)、花粉のみを用いるもの(ガマ)などがある。

(6)皮類(ひるい)生薬 樹木や根の皮層部(形成層の外側)を薬用とするもので、通常はコルク層を除去して用いる。

(7)茎類(けいるい)生薬 木質の茎、つるなどを薬用とするもので、通常は皮層とともに用いるが、木部のみ、髄部のみが単独で使用されることもある。

(8)樹脂類生薬 植物体を傷つけたときに出る樹液や乳液を薬用とするもので、松脂(まつやに)のように自然に産するものと、アヘンのように人工的に得るものとがある。

(9)エキス類生薬 植物体の水性エキスを煮つめたもので、通常は乾固して用いるが、流体のものもあり、これはとくに流(りゅう)エキスとよばれる。

(10)その他 (9)までには含まれない特殊なもので、植物体に生じる刺状(しじょう)物、巻きひげ、虫こぶなどが含まれる。

[難波恒雄・御影雅幸]

動物性生薬

一般に大形動物の場合は体の一部のみ、小形動物の場合は全体を薬用とする。大形動物では角(つの)、皮、骨、内臓器、歯、舌、生殖器、排泄(はいせつ)物などのほか、特殊なものとしては、胎児、胎盤、病的に生じた結石、膠(にかわ)質などがある。また、昆虫の場合は、成虫、幼虫、蛹(さなぎ)、巣、抜け殻などの全型を薬用とするほか、排泄物やろう質が利用されることもある。そのほか貝殻、サンゴなども薬用とされる。動物性生薬は、しばしば黒焼きとして利用される。

[難波恒雄・御影雅幸]

鉱物性生薬

岩石類のほか、水(雨水、井戸水、泉水など)、動植物の化石化したものなどがある。特殊なものに、かまどの土、溶岩などがある。服用に際しては、粉末にしてそのまま服用するか、あるいは煎用される。また、修治法としては熱や酸を加える方法が行われる。

[難波恒雄・御影雅幸]

生薬の品質

生薬は、合成された純粋な化学薬品とは異なり、同一名の薬物でもその産地や採集時期などによって、含有される成分組成が異なるのが常である。また、多くの生薬には異物同名品があるほか、いくつかの等級に分けられるものもあるため、その品質は複雑なものとなっている。したがって、生薬の正しい基源については、現在の市場調査、あるいは過去における市場調査の結果などを踏まえたうえで、さらに本草(ほんぞう)学的な考察を加える必要がある。なお、民間薬の場合には、こうした文献が存在していないので、研究は困難となっている。また、多くの生薬においては、その有効成分がまだ解明されていないため、成分化学的に品質を評価することも現段階では問題が多い。しかし、最近は各分野において精力的な研究が進められており、薬理、臨床医学的な研究とあわせて、今後の発展的な成果が期待されている。

[難波恒雄・御影雅幸]

『大塚敬節著『漢方と民間薬百科』(1966・主婦の友社)』『N・テーラー著、難波恒雄・難波洋子訳注『世界を変えた薬用植物』(1972・創元社)』『三橋博著『生薬の世界』(1978・講談社)』『難波恒雄著『原色和漢薬図鑑』上下(1980・保育社)』『高木敬次郎他編『和漢薬物学』(1982・南山堂)』

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百科事典マイペディア 「生薬」の意味・わかりやすい解説

生薬【しょうやく】

和漢薬や世界各地で古くから用いられた民間薬のうち,基源,品質など理化学的性質が明らかにされ,薬理作用も研究された薬用天然物の総称。麦角(ばっかく),ベラドンナダイオウキナ皮,ジギタリスサフラン,ホミカ,ウイキョウアヘン麝香(じゃこう),蜂蜜(はちみつ)などがあり,直接医薬品としてだけでなく生薬製剤,薬品工業の原料に利用され,家庭薬原料や香料,香辛料などにも広く用いられる。
→関連項目エキス剤オウバク(黄柏)漢方薬健胃薬ゲンチアナ煎剤チンキ薬酒薬用植物

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世界大百科事典 第2版 「生薬」の意味・わかりやすい解説

しょうやく【生薬】

植物,動物および鉱物の天産物をそのままか,またはその一部,あるいは動植物のエキス,分泌物,細胞内含有物を乾燥など簡単に加工を施し,薬用に供するものである。しかし,直接医薬品となるものばかりでなく,生薬製剤,成分製剤の原料となるもの,ならびに香辛料,香粧品,工業薬品などの原料をも含む。生薬は乾燥などによって腐敗やカビなどの繁殖を防ぎ,動植物自体の酵素反応を妨げ,化学的,生化学的に経時変化の少ないものが常時利用できるようになった。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「生薬」の意味・わかりやすい解説

生薬
しょうやく

薬用にする目的をもって植物,鉱物,動物,昆虫,カビ,細菌などの全体,あるいは一部,分泌物などをそのまま,あるいは乾燥,またはこれに簡単な加工を施したもの。生薬のなかで大部分を占めるのは植物性生薬であり,医薬品の歴史は生薬で始った。産地,原料の種別,生長度,湿度,光線などにより有効成分が異なるので,使用する際には保存に注意を要する。

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世界大百科事典内の生薬の言及

【医薬品】より

…その代表的なものが,後漢(1~3世紀)のころの《神農本草》と,《傷寒論(雑病論)》である。前者は,西方山地に発達したとされる〈薬効ある自然物〉に関する知識をまとめたもので,中国医学における薬学(本草学)の基礎となったものであり,後者は,身のまわりに存在するありふれた薬物(生薬)を適宜に組み合わせて,その総合的効果が十分に発揮できる特定の条件の疾病に用いるという,当時の江南地方の医術における経験が整理され,一定の薬物を配合した処方に適応する条件(これを証という)という根本概念を把握し,体系化したものである。 漢方医学は,高度な臨床治療体系をもち,非常に実用的なものであり,観念的,神秘的な色彩のまったく認められない実践的医学体系であった。…

【薬】より

…その他臨床検査に使用される試薬類,化学薬品の定性試験や定量試験に用いられる試薬類も化学薬品の一つである。 一方,医薬品という点からみれば,上記のような化学薬品のほかに,動植物など天然産のものをそのまま,あるいは若干加工して用いる生薬が含まれる。また西洋医学で用いられる種々の医薬品のほかに,東洋医学で用いられてきた漢方薬がある。…

【中国医学】より

…これを漢方医学というが,この言葉は中国医学とほとんど同義に使われることもあるから注意を要する(東洋医学)。
[特徴]
 中国医学で用いている薬品は,生薬(しようやく)つまり乾燥とか細切などの簡単な加工を施しただけの天産品である。生薬の使用は高度に発達した近代の西洋医学を除けば普通に見られることで,珍しい現象ではないが,中国医学の場合にはその性質や使用法を含めて,独特の理論体系に従っている点が他に例のない特徴である。…

【民間薬】より


[日本の民間薬]
 日本では民間薬に対比されるものに漢方薬がある。ともに生薬であり,人類の長い歴史を経て,植物,動物,鉱物界の多彩な天産品を病気の治療に用いる点では共通するが,漢方薬は独自の医学体系の理論を習得した医師が,特定の診断基準に基づいて用いるものである。また,漢方薬は通常,複数の薬物を配合した漢方方剤として用いられるのに対し,民間薬は大部分,単味で用いられる。…

【薬用植物】より

…これらはそれぞれ既知の薬効成分や新しい生理作用を有する成分,あるいは薬物への化学転換の容易な物質の発見の結果,ふつうの植物が薬用植物として認識され利用されるようになったものである。新鮮な植物の葉をもんで傷口に貼ったり,1種類あるいは数種類の生薬を煎じて服用したりした時代とは異なり,化学的な成分の分析,有効成分の検索により,新しい薬用植物,用途が開発されつつある。
[薬用植物とその利用形態]
 薬用植物は下等植物から高等植物まで,小は細菌から大は樹木まで幅広くみられる。…

※「生薬」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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