江戸後期の国学者。飛騨(ひだ)(岐阜県)高山の人。本居宣長(もとおりのりなが)の門下。ただし直接学んだのは宣長の没した年(1801)だけで、のちに松坂(三重県)に赴いて遺著を写し取り著しく傾倒した。『竹取翁(たけとりのおきな)物語解』(1816)に、宣長の「もののあはれ」論を『竹取物語』に当てはめたりもしているが、主として中古の物語日記文学の本文措定と注釈に、宣長の合理主義的な解釈学を祖述し進展させて、前記のほか、『土佐日記解』(1829)、『蜻蛉(かげろう)日記紀行解』(1830)などや、『落窪(おちくぼ)物語』刊本、『かげろふの日記解環(かいかん)』(坂徴著)への書き入れに、その業績を残す。
[木村正中]
『松室会編・刊『田中大秀』(1954)』▽『高山市教育委員会編・刊、大野政雄校訂『田中大秀翁伝記』(1996)』▽『中田武司編『田中大秀1~6』(2001~2004・勉誠出版)』
(飯倉洋一)
出典 朝日日本歴史人物事典:(株)朝日新聞出版朝日日本歴史人物事典について 情報
江戸後期の国学者。通称弥次郎。前名は紀文。香木園(かつらのその),荏野翁(えなおう)などと号する。飛驒高山の薬商。国学を粟田知周,伴蒿蹊に学んだのち,本居宣長に入門。堅実な学風をもって知られ,中古の物語の注釈に顕著な業績を残すとともに,歌もよくし,その門下に橘曙覧(たちばなあけみ)を出した。また飛驒大野郡の式内社荏名(えな)神社を再興するなどして,神道の振興にも尽力した。主著は《竹取翁物語解》《土佐日記解》《落窪物語解》《荏野冊子》など。
執筆者:鈴木 淳
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