甲骨文(読み)こうこつぶん

精選版 日本国語大辞典 「甲骨文」の意味・読み・例文・類語

こうこつ‐ぶん カフコツ‥【甲骨文】

〘名〙 (「文」は文字の意) 亀甲獣骨に刻まれた文字。中国、殷代の占い記録で、漢字最古の形を示す。一八九九年に殷墟(いんきょ)(=河南省安陽県小屯村一帯)から多数出土し、以後収集、解読整理が進んで殷代史、文字史研究の重要な資料となっている。甲骨文字亀甲獣骨文字殷墟文字卜辞(ぼくじ)

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デジタル大辞泉 「甲骨文」の意味・読み・例文・類語

こうこつ‐ぶん〔カフコツ‐〕【甲骨文】

《「文」は文字の意》占いの記録のためにカメの甲や獣類の骨に刻まれた中国最古の文字。多く殷墟いんきょから出土。図像的要素の強い原始文字で、漢字原形となる。甲骨文字。殷墟文字。
[類語]文字文字もんじ鳥跡ちょうせき鳥の跡用字表記点画てんかくレター邦字ローマ字アルファベットハングル梵字ぼんじ大文字小文字頭文字イニシャル英字数字漢字仮名真名片仮名平仮名万葉仮名字母表音文字表意文字音字意字象形文字楔形くさびがた文字

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百科事典マイペディア 「甲骨文」の意味・わかりやすい解説

甲骨文【こうこつぶん】

おもに古代中国の(いん)で占いに使った亀甲(きっこう)や獣骨に刻まれた文字。平らに削った亀甲・獣骨に鋭利な刀子(とうす)で彫られている。殷墟から出土するものが多く,これらには殷の歴代の王名が記され,その順位は文献の世系とほぼ一致する。記事は,亀甲・獣骨に裏面から火を当てて入ったひび(兆)を見て,卜師(ぼくし)が,占いの言葉を書いたもので,祭祀,戦争,田猟,疾病,生死,雨乞,豊凶などに関する。清末の羅振玉,王国維などによって研究・解読され,革命後董作賓を中心とする中央研究院の発掘によって甲骨学はさらに発展した。また近年,西周時代初年の卜甲・卜骨がいくつかの地点で発見され,注目されている。
→関連項目貝塚茂樹白川静

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世界大百科事典 第2版 「甲骨文」の意味・わかりやすい解説

こうこつぶん【甲骨文 Jiǎ gǔ wén】

亀甲や獣骨(主として牛の肩甲骨)の上に刻された文字。その背後に確立した文字体系をそなえている点からいえば,現在知りうる中国最古の文字。獣骨を焼いて卜占(うらない)を行う法はずっと古い時期から存在したが,そこに文字を刻するのはほとんど殷代の安陽期に限られ,他に少数ではあるが,西周時代前半期の遺物も発見されている。卜占の手続の大略を述べれば,整形された亀甲や獣骨の裏面に鑽(さん)・鑿(さく)と呼ばれるくぼみを掘りこみ,その鑽の部分に焼けた木片などを押しつけて,表面に卜字形の割れ目(卜兆)を作らせる。

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世界大百科事典内の甲骨文の言及

【殷】より

…後の周の人びとが殷とよぶようになるが,その理由は明らかではない。
[歴史]
 殷王朝は,《史記》によると成湯天乙(いわゆる湯王,甲骨文では唐,大乙とよぶ)が,王朝の桀(けつ)王を倒して滅ぼし,創設したといわれる。夏王朝の存在は確認されないが,甲骨文の発見によって殷の存在は確認され,王系による逆算と,考古学的年代測定とにより,大乙による王朝の創立は前17世紀末もしくは前16世紀初と推定されるに至った。…

【王国維】より

…従来,研究の対象としてはあまり顧みられなかった劇文学の研究を開拓し(《宋元劇曲史》),また詞の批評《人間(じんかん)詞話》は人口に膾炙(かいしや)している。しかし亡命後は羅振玉の勧めによって中国古典の学問に精進し,羅振玉を助けて甲骨文,金文,敦煌出土の簡牘(かんとく)など,当時はじめて世に現れた史料の整理と研究に専念した。彼は古典を駆使し,清朝考証学の流れをくむ精密な分析と抜群の着想によってこれらの新史料を解読し,史学をはじめとするあらゆる分野で多くの新知見を発表したが,なかでも注目されるのは殷墟出土の甲骨文に関する一連の研究である。…

【甲骨学】より

…甲骨文を研究する学問のこと。甲骨文とは,中国の殷代に亀甲や牛の肩甲骨に文字を彫って記録した文。…

【古文書学】より

…ところが20世紀に入って,膨大な古文書群があいついで発見された。すなわち(1)殷代で占いに使われた甲骨文,(2)漢・晋の木簡,とくに西北辺境の居延から出土した居延漢簡,(3)4~11世紀初の敦煌文書および西域文書,なかでも6~8世紀のトゥルファン文書,(4)清朝宮廷に保管されていた公文書類,いわゆる明清檔案(とうあん)である。いずれも発見されるごとに学界の注目を集め,多数の学者が研究を行い,甲骨学,簡牘(かんどく)学,敦煌学という名称も生まれた。…

【書】より

…そのなかで前5000年ないし前4000年の新石器文化に属する西安半坡(はんぱ)遺跡から見つかったものが最も古いとされている。しかし,これがはたして後の甲骨文字に直接結びつくものであるかどうかについては,まだ資料が少ないので確認することができない。 今日,われわれが確認することのできる最古の漢字は殷代の甲骨文である。…

【董作賓】より

…字は彦堂。北京大学卒業後,1928年に中央研究院歴史語言研究所研究員となって李済とともに安陽殷墟の発掘を主宰,甲骨文の研究にとりくむ。《大亀四版考釈》(1931),《甲骨文断代研究例》(1932)で甲骨文編年の基礎をつくり,これを発展して殷代の暦法を復元した大著《殷暦譜》(1945年)の画期的な業績をはじめ,30余年間に発表した論文,著書は数多く,甲骨学の開拓者として大きな足跡を残した。…

※「甲骨文」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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