界面活性剤(読み)かいめんかっせいざい(英語表記)surface active agent

精選版 日本国語大辞典 「界面活性剤」の意味・読み・例文・類語

かいめん‐かっせいざい ‥クヮッセイザイ【界面活性剤】

〘名〙 界面張力をいちじるしく低下させる性質をもった物質表面活性剤

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デジタル大辞泉 「界面活性剤」の意味・読み・例文・類語

かいめん‐かっせいざい〔‐クワツセイザイ〕【界面活性剤】

界面張力を著しく低下させる物質。水に対しては、せっけん・油・アルコールなど。表面活性剤。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「界面活性剤」の意味・わかりやすい解説

界面活性剤
かいめんかっせいざい
surface active agent
surfactant

水溶液中で表面に吸着し、その表面張力を大幅に低下させる物質で、表面活性剤ともいう。親水基と疎水基から成り立っている化合物で、その分子量は数百から1000程度の大きさである。このような構造上の特徴の結果として、界面活性剤は、通常は相反する性質である水と油との両者親和性をもっている(両親媒性という)。せっけんは界面活性剤の代表的なものである。界面活性剤は通常1%の濃度で水の表面張力72mN/mを30mN/m以下にまで下げる。水溶液中の界面活性剤の濃度がある濃度まで高くなると、それまでは単分散状態であった界面活性剤が集合体(ミセル)を形成する。ミセルが形成されたときの濃度を臨界ミセル濃度critical micelle concentration ; CMC)とよぶ。

[早野茂夫]

分類

界面活性剤には、水溶液にしたときにイオン解離するものとしないものがある。解離するものは、界面活性を示す部分のイオンの性質に従って陰イオン界面活性剤あるいは陽イオン界面活性剤にさらに分けられる。また、溶液の水素イオン濃度pH)が高いときには界面活性を示す部分が陰イオンとなり、pHが低くなるとそれが陽イオンになるものがある。これは両性イオン界面活性剤とよばれる。水溶液にした場合、解離をしない界面活性剤は非イオン界面活性剤と名づけられている。

[早野茂夫]

特性と応用

界面活性剤には、湿潤、浸透、乳化、分散、吸着、起泡化、可溶化などの性質があり、これらを利用して広い用途をもつ。

(1)ぬれ 界面活性剤により水の表面張力が大きく低下するのは、界面活性剤が空気と水の界面に吸着し、表面張力に逆らって、表面を広げようとする力が働くからである。これと同様に、界面活性剤水溶液が固体と接するときには、水と固体の界面に界面活性剤が吸着し、固体表面の性質を大きく変える。たとえばプラスチックの表面は普通は疎水性で水にぬれにくい。しかしこれを界面活性剤溶液に浸すと水にぬれやすくなる。このときはプラスチックの表面には界面活性剤の疎水基が整列し、外側は親水基の衣が覆うので、水にぬれるのである。また、油で汚れたガラスの表面は水をはじきやすいが、これを界面活性剤の溶液で洗うと、油の薄膜が洗い取られて表面が清浄になることは日常生活でよく知られている。これらの例は、いずれも界面活性剤が表面に働いて水にぬれやすくする場合である。

 その反対に、界面活性剤が水にぬれやすい表面に働いて、これを水にぬれにくくする場合もある。このような性質は印刷インキ、油絵の具または塗料の色素である顔料を製造する際に応用される。

(2)ミセルmicelle 界面活性剤の集合体であるミセルは、水溶液中では親水基が外側に並び、疎水基が内側に集められて、ある濃度の範囲では球形をしている。一つのミセルをつくるのに、イオン性の界面活性剤では数十分子の界面活性剤が必要である。親水基としてイオンに解離した部分が外側を向き、ミセルの周囲には強い電場がつくられている。水溶液中でミセルは熱力学的に安定であり、コロイド粒子として取り扱われる。ミセルの内部は疎水基が密集した領域であるが、もし界面活性剤ミセル水溶液にベンゼンのように水に溶けにくい物質が加えられると、ベンゼンはミセルに取り込まれ、内部の疎水基部分に収められる。このときは溶液は透明であり、あたかもベンゼンが溶解したようにみえるので、このような現象を可溶化という。可溶化は、ポリエステル、アクリルなどの化学繊維を水に難溶性の染料によって染色する場合や、油溶性のビタミンを水に分散させる場合に利用される。また油田に残存している石油を徹底的に回収利用する場合の技術にも応用されている。

(3)乳化 界面活性剤の助けを借りて、水中に油を分散させると油は乳濁し、いわゆるエマルジョンができる。この現象を乳化という。乳化は油滴の周囲に界面活性剤が吸着し、油滴を安定化させるものであるが、分散粒子が液体でなく固体の場合には、その分散液を懸濁液(サスペンション)とよぶ。乳化や懸濁は界面活性剤の重要な実用上の性質の一つであり、化粧品、高分子、マーガリン、道路舗装などに広く利用されている。乳化の目的に使用される界面活性剤を乳化剤とよぶ。

(4)洗浄 界面活性剤のもっとも重要な性質は、繊維や金属表面の汚れを落とし、清浄にする作用、すなわち洗浄作用である。洗浄には、吸着、ぬれ、可溶化、分散などの諸性質が複雑に関係していると考えられる。洗剤は界面活性剤の洗浄作用を効果的に高めた商品であるが、現在では単に優れた洗浄力をもつだけでは不十分である。たとえば家庭用洗剤には、洗浄力以外に、良好な溶解性、汚れの保持性、適度の泡立ち、湿潤性、無臭、無色であることなどが望まれている。また、当然のことながら毒性はできるだけ少なく、皮膚に対して無刺激であり、微生物により分解され、魚類に対する毒性が少ないことなどが必要な性質とされている。

 家庭用洗剤では、主として繊維が洗浄の対象となっており、工業用洗剤では、金属表面処理、染色工業における精練、食品工場での脱脂、滅菌などがその対象になる。界面活性剤は洗剤の主成分であるが、洗浄力を増強する目的でリン酸塩、ケイ酸塩などの無機塩がさらに加えられる。

(5)帯電防止 合成繊維やプラスチックは静電気を帯びやすく、冬季の乾燥時には衣料による静電気障害が発生しやすい。界面活性剤を化学繊維に添加すると、静電気の発生が大幅に防止できる。これは繊維の表面に存在する界面活性剤が空気中の微量の水分を吸着し、繊維表面の通電性を増加させるためであると考えられている。

(6)殺菌 第4級アンモニウム化合物が殺菌作用をもっていることは20世紀の初めに発見されていたが、これを一般に紹介した人は、スルホンアミドの抗菌作用の発見者としてノーベル生理学医学賞を受賞したドイツの化学者ドーマクであった。陽イオン界面活性剤は第4級アンモニウム基を分子の中に含んでおり、水溶液にした場合にはこの部分が陽イオン性を示す。通常の界面活性剤は陰イオン性を示すのに対し、第4級アンモニウム基を含む界面活性剤はそれと反対の陽イオン性を示していることに基づいて、それらを逆性せっけんとよぶことがある。逆性せっけんはグラム陰性菌やグラム陽性菌に対して殺菌作用をもっているので、殺菌剤として病院において広く利用されている。

[早野茂夫]

『北原文雄・玉井康勝・早野茂夫・原一郎編『界面活性剤――物性・応用・化学生態学』(1979・講談社)』


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百科事典マイペディア 「界面活性剤」の意味・わかりやすい解説

界面活性剤【かいめんかっせいざい】

溶媒に少量溶かした時,その溶液の表面張力を大きく低下させる作用をもつ物質。分子中に親水基と疎水基(親油基)を含み,気体−液体,油−水,固体−液体等の界面に吸着して,この作用を示す。セッケン,合成洗剤などはその顕著な例。水溶液中での電気的性質により陰イオン界面活性剤陽イオン界面活性剤非イオン界面活性剤,両性界面活性剤に分類される。洗浄剤,起泡(きほう)剤,乳化剤,浸透剤,分散剤などとして家庭用,工業用に広く使用。
→関連項目合成洗剤磁性流体消毒薬洗剤乳化剤

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化学辞典 第2版 「界面活性剤」の解説

界面活性剤
カイメンカッセイザイ
surface active agent, surfactant

表面活性剤ともいう.溶液にしたとき,気-液,液-液または固-液界面に吸着して,界面の性質をいちじるしく変化する性質,すなわち界面活性の大きい物質で,分子中に親水性および親油性原子団を有する両親媒性物質である.一般に,界面活性剤は,洗浄力,分散力,乳化力,可溶化力,浸潤力,殺菌力,起泡力,浸透力などにすぐれ,種類,目的によって,広い方面に応用されている.また,界面活性剤は水溶液にした場合に,ある濃度(臨界ミセル濃度)以上で,ミセルを形成し,この濃度において,表面張力,粘度,電気伝導率などがいちじるしく変化する.界面活性剤は大別して,カチオン界面活性剤アニオン界面活性剤非イオン界面活性剤,両性イオン界面活性剤に分類される.

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「界面活性剤」の意味・わかりやすい解説

界面活性剤
かいめんかっせいざい
surface active agent

表面活性剤とも呼ばれる。溶液中で溶質が気体/液体,液体/液体,または固体/液体の界面に吸着されて,その界面の性質を著しく変える性質を界面活性または表面活性といい,この性質を示す化合物を界面活性剤という。界面活性剤は,その分子中に親水性基と親油性基をもっていて,相互に混り合わない物質の界面への強い吸着と分子の配向によって,界面張力を低下させる。ある濃度以上では分子が会合してミセルを形成し,ミセルコロイドとなる。界面活性剤は,家庭用洗剤として,また工業用では洗浄剤,起泡剤,乳化剤,浸透剤,湿潤剤,分散剤,懸濁剤,可溶化剤,帯電防止剤などとして,その用途は非常に広い。 (→洗剤汚染 )  

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世界大百科事典 第2版 「界面活性剤」の意味・わかりやすい解説

かいめんかっせいざい【界面活性剤 surface active agent】

気体,液体,固体の界面に存在して,その界面エネルギーを大きく変化させ,その結果,界面の物性に大きな変化をもたらす物質の総称。一般に濃度の低い溶液では溶質は単分子の状態で溶解するが,濃度が大きくなると,溶質分子は会合した状態となって存在することがある。高級脂肪酸セッケンの場合は,たとえばメチルアルコール,酢酸などと異なり,水に単分子的に溶解する量はきわめて少なく,ある溶存量以上ではミセルとよばれる分子が会合した状態をつくり,それとともに水溶液の表面に吸着,配位して溶液層よりも高濃度の吸着層を形成する。

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栄養・生化学辞典 「界面活性剤」の解説

界面活性剤

 界面活性物質ともいう.一つの分子内に親水性領域と疎水性領域をもつ比較的低分子の化合物で,溶媒に少量溶かすことにより表面張力を著しく変化させる物質.天然物では,セッケン,リン脂質(例えばリゾレシチン)など.溶媒に溶けにくい物質を分散させる目的で広く使われている.

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世界大百科事典内の界面活性剤の言及

【コロイド】より

… セッケンの溶液がコロイドの一種であることはかなり以前から知られていたが,アメリカのマクベインJ.W.McBain(1913)はこれがセッケン分子の会合によると考え,その会合体をミセルと呼んだ。界面活性剤分子が水溶液中でコロイド次元の会合体を形成することは,その後多くの研究により明らかにされ,これらは会合コロイドと呼ばれる。デンプンやタンパク質など高分子物質は巨大分子からなるので,媒質中に分散して分子コロイドをつくる。…

※「界面活性剤」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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