直腸癌(読み)チョクチョウガン(その他表記)Rectal Cancer

デジタル大辞泉 「直腸癌」の意味・読み・例文・類語

ちょくちょう‐がん〔チヨクチヤウ‐〕【直腸×癌】

直腸に発生する癌。早期には下痢げり傾向となり、やがて血液が付着した便がみられる。

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精選版 日本国語大辞典 「直腸癌」の意味・読み・例文・類語

ちょくちょう‐がんチョクチャウ‥【直腸癌】

  1. 〘 名詞 〙 直腸にできた癌。便が細くなったり、兎糞様になったりして便の様子が変わり、排便出血を初期の主症状とする。中年以後に多くみられるが、若年者にもまれでない。

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家庭医学館 「直腸癌」の解説

ちょくちょうがん【直腸がん Rectal Cancer】

良性腫瘍(りょうせいしゅよう)のがん化が大部分
[どんな病気か]
 直腸にできる腫瘍のなかで悪性のものを直腸がんといいます。近年、増加する傾向にありますが、これは健康診断で行なわれる検便(便潜血(べんせんけつ)検査)の普及、注腸X線検査、内視鏡検査の進歩により発見されることが多くなったことも、その背景にあります。
 直腸がんは大腸がんの約半分を占めています。年齢は50~60歳代が多く、女性より男性のほうに少し多くみられます。
 直腸がんができる原因はわかっていませんが、一般的には腺腫(せんしゅ)というポリープ状の良性腫瘍ががん化しておこると考えられています。また、直腸の正常粘膜(ねんまく)から小さいがんが直接できることがあるともいわれています。
◎早期から現われる出血症状
[症状]
 もっとも多くみられる症状は出血です。盲腸(もうちょう)や上行結腸(じょうこうけっちょう)のがんとはちがい、直腸がんは肛門(こうもん)に近いところにできるため、早い時期から出血症状が現われます。ポリープ状の腫瘍ががん化すると、血が出やすくなり、ちり紙に血がつくようになります。腫瘍の中央がくずれて潰瘍(かいよう)ができると、便の表面に筋状に血がつきます。
 また、痔核(じかく)や裂肛(れっこう)などの肛門の病気でも肛門からの出血がありますから、肛門の病気と直腸がんとの区別が必要になります。この区別は簡単ではありませんから、自己判断は禁物です。
 下痢(げり)や便秘も生じます。直腸がんが初期のうちは、炎症がおきたり、軽い閉塞(へいそく)によって腸の運動が盛んになることで下痢がおこるのですが、がんが大きくなってくると、便の通過が妨げられるために、便秘がちになるのです。
 こうして、それまで規則正しかった排便習慣が乱れてきます。
 さらに残便感(ざんべんかん)も現われます。これは便意があってトイレにいっても、ほんの少ししか便が出ず、少ししてからまたトイレに行くような状態のことで、これを1日に数回くり返すようになります。
[検査と診断]
 健康診断あるいは人間ドックなどで、肛門から指を挿入して肛門や直腸にがんの有無をみる直腸肛門指診(ししん)検査がもっとも簡単です。少し大きくなった直腸がんなら、この検査でほとんど見つけられるといってもおおげさではありません。
 小さい直腸がんを発見するには、肛門からバリウムを入れ、X線撮影を行なう注腸造影(ちゅうちょうぞうえい)検査を実施します。苦痛もなく、簡単な検査です。
 より確実な診断のためには内視鏡検査を行ないます。これによって、直接ポリープ状のがんを見つけることができますし、さらに目で見ただけでは診断がつかない場合、組織を少し採取して、その細胞を顕微鏡で見て診断することができます。この方法は生検法(せいけんほう)と呼ばれ、内視鏡で行なう場合は痛みはありません。
◎治療法は部位と程度で異なる
[治療]
 直腸というのは、肛門から約15cmまでの部分をいいますが、この部分にできたがん(図「直腸がん」)の治療法は、その進行の程度と、肛門からの位置(距離)によって、以下に述べるようにさまざまです。
 小さいポリープ状の早期がんが疑われるときは内視鏡的ポリープ切除術が行なわれます。これは大腸ファイバースコープを用いて、内視鏡的にポリープを切除する方法です。
 なお、切除されたポリープは必ず顕微鏡で検査され、がんの深さを確認して、内視鏡的治療で十分か、追加治療が必要かどうかが判断されます。
 肛門に近い部分のがんには経肛門的局所切除術(けいこうもんてききょくしょせつじょじゅつ)が簡単でよい方法です。これは、肛門から直接がんのできた部分を切除するもので、切除されたがんを顕微鏡で調べるのは内視鏡的ポリープ切除術と同様です。
 進行した直腸がんに対しては、開腹(かいふく)手術を行なわなければなりません。これは、直腸のがんのほかに、リンパ節をも含めて広く切除する方法です。
 最近、器械を用いて腸をつなぐ技術がたいへん進歩したため、直腸がんの部位が肛門から約6cm以上奥にある場合は、肛門温存直腸切除術(こうもんおんぞんちょくちょうせつじょじゅつ)ができるようになりました。これは、直腸がんを切除し、肛門は残してS状結腸と肛門をつなぐ方法です。
 肛門に近いところにできたがんの場合は、やむをえず直腸切断術と永久人工肛門造設術(えいきゅうじんこうこうもんぞうせつじゅつ)が行なわれます。これはがんとともに肛門を切除し、人工肛門を左下腹部につくるものです。
 このようないろいろの手術によって、直腸がんの治療成績は向上しています。さらに最近は、自律神経温存手術が可能になったため、従来のように手術による排尿障害や性機能障害の心配がなくなりました。これによって、手術を受けた後も、ほとんどふつうどおりの生活が送れるようになりました。
◎早期発見のためには健診を
 健康診断や人間ドックで検便および肛門指診を定期的に受けることをお勧めします。また、適切な食生活、十分な睡眠、適度な運動をして規則正しい排便を心がけましょう。
 さらに、いぼ痔(じ)(痔核(じかく))、切れ痔(裂肛(れっこう))など、肛門から出血する病気をきちんと治療しておき、直腸がんにともなっておこる出血や排便異常などの症状を見逃さないようにしましょう。

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改訂新版 世界大百科事典 「直腸癌」の意味・わかりやすい解説

直腸癌 (ちょくちょうがん)
carcinoma of the rectum
rectal cancer

直腸癌は大腸癌のほぼ過半数を占め,年齢的には40~60歳代の男子に多いとされているが,他の部位の癌にくらべて若年者にもまれではない。直腸に癌が発生して進行すると,腸壁を貫いて直接周囲の組織を侵していく。すなわち男子では膀胱や前立腺へ,女子では子宮あるいは腟へ浸潤していく。そのほかリンパ管や血管を介して癌が転移する。とくに血行性の転移は門脈を通って肝臓へ転移する。さらに肺や脳へも転移するが,これらを癌の遠隔転移という。肝臓転移は大腸癌の場合特徴的で,手術時すでに10~15%に肝臓転移がみられるとの報告がある。転移があれば根治手術は不可能である。

症状としては直腸出血,便通の変化,不完全な排便感(残便感),会陰部痛などがおもなものである。直腸出血をみた場合,たとえ痔核があっても直腸癌の有無について検査をすべきである。癌の出血は通常持続性である。そのほか全身的にやせ(体重減少)や貧血がある。

確定診断は,直腸指診による硬い腫瘤の触知と注腸X線検査,直腸鏡検査の所見と生検材料の組織学的検査によって行う。直腸鏡は長さ25ないし30cmの硬性の直達鏡で,直接癌の観察が可能であり,さらに組織の一部を切除して病理組織学的検査を行うことができる。癌の形は通常限局型で,中央に大きな潰瘍をもっており,大部分は腺癌である。注腸X線検査では典型的な場合,リンゴの芯状の陰影欠損像(apple core像)を示すので,診断は容易である。一方直腸癌は,その約4割がはじめ痔核として治療されている現実からみると,肛門出血あるいは直腸出血があった場合,迷わず専門医を訪ねて正しい診断をしてもらうことがたいせつである。

治療は外科的治療以外にはない。癌のできた部位によって多少手術方法が異なる。癌が上部直腸に発生している場合には直腸切除術(前方切除術)が行われる。癌を含めて直腸切除後,残存した肛門側の直腸とS状結腸とを吻合(ふんごう)する。これに対して腹腔外の下部直腸の癌では,癌を含めて直腸および肛門を大きく切断し(この場合は切除とは呼ばず切断という言葉を使う),自然肛門部は縫合閉鎖する。そして健常部分のS状結腸の切断端を用いて,左下腹部に人工肛門を作成する(腹会陰式直腸切断術,マイルズ手術)。人工肛門は患者にとっていかにも不都合なことであるため,最近では前方切除術のような自然肛門からの排便を考慮する肛門括約筋温存手術や,術後の機能障害を防止する自律神経温存手術に努力がはらわれている。しかし一方,人工肛門に対する洗腸技術(1~2日に1回500~1000mlの微温湯で大腸を洗浄する方法)が進歩し,その管理も容易になっている。予後は食道癌や胃癌にくらべて良好であるが,大腸癌の現在の問題は血行性転移であり,その治療と予防が大きな課題である。術後の局所再発予防には術前放射線照射療法が有効である。
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百科事典マイペディア 「直腸癌」の意味・わかりやすい解説

直腸癌【ちょくちょうがん】

直腸に生じる癌。40〜60歳に多く,直腸膨大部に好発する。初期には無症状のことも多い。便が細くなり,粘血便,血便,しぶり腹などの症状がある。進行すると体重減少,貧血などが起こる。比較的早期に肝臓に転移することがある。直腸鏡で診断。根治手術は直腸切除で,肛門温存手術が広く行われるようになり,直腸下部の癌で肛門切除した場合は人工肛門を造設する。
→関連項目塩酸イリノテカン痔瘻前癌状態腸癌

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「直腸癌」の意味・わかりやすい解説

直腸癌
ちょくちょうがん
cancer of the rectum

直腸膨大部に最も多く発生し,続いて直腸上部にもよく発生する癌。大部分は腺癌で扁平上皮癌はまれ。排便の残留感,血便や粘液便,便形の異常,便秘,ときに疼痛などの症状によって発見される。肛門指診と直腸鏡で容易に診断される。最近,発生の増加傾向が認められる。

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世界大百科事典(旧版)内の直腸癌の言及

【肛門癌】より

直腸癌のうち,肛門管の領域にできた悪性腫瘍をいい,全直腸癌の2~3%の頻度でみられる。肛門管とは,下方は会陰部の毛の生え際に一致する肛門下縁から,上方は肛門粘膜が直腸粘膜に移行するところまでの長さ平均約3cmの部分をいう。…

【大腸癌】より

…大腸の癌腫。発生の部位によって直腸癌と結腸癌に大別される。原因は不明であるが,重視されているのは大腸ポリープのうちの大腸腺腫の癌化で,腺腫の性別頻度,年齢別頻度,部位別分布が大腸癌のそれに一致し,かつ腺腫の一部に癌が見つかることがあるからである。…

※「直腸癌」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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