翻訳|rectum
直腸は大腸の最下部にあたり,長さは約15cmであるが,女子では男子よりやや短い。上部の直腸は腹膜におおわれている。後方は仙骨と尾骨がつくる曲面に向かって湾曲し,あたかもこれに腰かけたような形をとっている。直腸には結腸ひもはない。直腸の粘膜面には三つの横ひだ(一種の弁)があり,下方は長さ約3cmの肛門管に移行する。直腸は腸内容の貯留と便の排出をつかさどり,消化吸収は行わない。直腸には癌の発生(直腸癌)以外に直腸炎や直腸脱という疾患がある。
原因はわからないが,直腸の粘膜および粘膜の下層までを侵す非特異性の炎症である。粘膜は肥厚し,顆粒状となる。著しく赤変した粘膜は出血しやすく,便に血液が付着したり,粘液が混じったりする。そのほか,しぶり腹や下痢のこともある。特殊なものとして,子宮癌に対する放射線治療後の放射線性直腸炎や淋菌性あるいは梅毒性の直腸炎もある。これらは炎症の結果,直腸狭窄を起こす。
原因は明らかでないことが多いが,脱肛の一種である内痔核の脱出もこの病気の一つの形である。粘膜と粘膜下層の組織とが脱出したものを不完全直腸脱あるいは直腸粘膜脱といっている。正常の小児でも排便時にしばしばみられ,親が心配することがあるが,これは長ずるにしたがい自然になおる。直腸全層が筋肉を含めて全部脱出するものを完全直腸脱あるいは直腸脱と呼んでいる。骨盤底の支持組織の発育不良や弱化が原因と考えられている。直腸の脱出部は長く10cmから15cmに及び,粘膜のひだは円周状に見える。これに対して直腸粘膜脱では脱出部分が小さく,粘膜ひだは放射状である。脱出した粘膜に感染,浮腫,潰瘍が認められることが多い。成人では外科的治療を行う。手術は開腹して直腸をつり上げて仙骨前面に落ちないように縫い付けて固定する。またテフロンメッシュで固定する方法もある。
執筆者:立川 勲
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
大腸のうち、S状結腸に続く部分で、腸管では最下部となる。第3仙椎(せんつい)から始まり、その前面を下り、肛門(こうもん)によって外部に開いている。直腸は約20センチメートルの長さで、前後方向に多少S状彎曲(わんきょく)している。しかし、小児の場合では、成人に比べてまっすぐに下行する。直腸の上部には、わずかに直腸間膜がある。直腸前方には、男性では膀胱(ぼうこう)、精嚢(せいのう)、前立腺(せん)があり、女性では膀胱、子宮、腟(ちつ)がある。直腸子宮窩(か)はダグラス窩ともよび、腹膜腔(くう)の最底部にあたる。腹膜炎などで、よくダグラス窩膿瘍(のうよう)をおこすことがある。直腸前方の諸器官は、直腸内から触診できるため、直腸は臨床上重要な部分である。直腸の下部、すなわち肛門のすぐ上の部分を直腸肛門部(肛門管)とよぶが、この上には直腸膨大部がある。この部分に内容物がたまると、紡錘状に拡張する。しかし、直腸に便塊がとどまるのは排便の直前だけである。肛門部には外肛門括約筋が輪状に走り、肛門を締めている。直腸とその後ろの仙骨との間には結合組織があり、血管、リンパ管および仙骨神経叢(そう)が分布している。直腸腫瘍(しゅよう)などにかかると、この神経叢も侵されることとなる。
[嶋井和世]
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…【玉手 英夫】
【ヒトの大腸】
大腸は小腸につづく消化管の最終の部分であって,小腸に比べ太いためこの名がある。大腸は盲腸cecum,結腸colon(上行結腸,横行結腸,下行結腸,S状結腸),直腸rectumに分けられる(図1)。その長さは個体差はあるが成人では約1.5mである。…
…小腸の終りから肛門までの腸の部分を大腸という。その最初の部分は袋状の盲腸で,結腸,直腸とつづく。大腸は哺乳類で最も発達し,とくに草食性のものでは大型で複雑な走行を示し,粘膜にひだや突起などの構造物が多い。…
※「直腸」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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