世界全体を意味づける根拠にかかわる統一的な知をいう。それはすべてのものをその根拠から知る単一の知であり、神がもつにふさわしい知とされた。それゆえ、特殊なさまざまな領域について成立する特殊なさまざまな知識epistēmē(ギリシア語)、scientia(ラテン語)、science(英語、フランス語)、Wissenschaft(ドイツ語)とも、また、人間が行動を通じてかかわる特殊なさまざまなものについてこれを処理するための特殊なさまざまな技術technē(ギリシア語)、ars(ラテン語)、art(英語、フランス語)、Technik(ドイツ語)とも区別される。人間は世界における多様なものにかかわりながらも、一なる自己である限り、この一なる自己を根拠づけ、意味づける一なる知(=知恵)にかかわらざるをえない。したがって、科学と区別される哲学の存否は人間にとっての知恵の存否にかかわり、人間にとってどのような知恵が許容されうるかにかかっている。
古代ギリシアでは、知恵(ソピア)の語は広く事を処する技術的知を意味した(笛吹きの知、大工の知)。法律制定の知、詩作の知が知恵とされるとき、知恵は万物にかかわる普遍の知となり、すべてのことについて論ずることを教える弁論術の教師(プロタゴラス、ゴルギアス)は最高の知恵者とみなされた。人間にとって、このような万物の知がはたしてありうるかというソクラテスの問いとともに、哲学の知は神の知恵とは区別されつつ、知恵とのかかわりのなかで人間における知恵のあり方を問う批判的な知として成立した。たいせつなことは何ひとつ知らないので、そのとおり知らないと思うことが人間にとって唯一可能な知恵であるとする、ソクラテスの愛知philosophiaの営みがこれである。爾来(じらい)、哲学は知恵とのあいだの緊張において、人間に可能な知恵の存立を問い続ける営みとなった。
[加藤信朗]
宗教学的にみれば、知恵とは、宇宙・自然の原秩序を洞察することによって、人間の生活を秩序づける精神的能力を意味する。また、古代ギリシア思想では一般に、知恵とは、「ものをあるがままの相において眺める純粋の知のこと」とされる。ユダヤ教においては、知恵とは、神の計画に対する信仰的洞察を意味する。キリスト教においては、知恵とは知識を超えた最高の知恵、上智とされる。古代インド思想においては、サンスクリット語のプラジュニャーprajñā、パーリ語のパンニャーpaññāの語がこれに相当する。仏教の智慧(ちえ)は般若(はんにゃ)と訳し、菩薩(ぼさつ)の修行道である六波羅蜜(ろくはらみつ)、ないし十波羅蜜(じっぱらみつ)においては、般若波羅蜜としてもっとも主要な修行道とされている。それはいっさいの現象や、現象の背後にある理法を知る心作用で、存在全体の真実相を一瞬のうちに把握する直観知をいう。分析判断能力とは異なり、もっとも深い意味での理性と考えてよい。
[坂部 明]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 株式会社平凡社世界大百科事典 第2版について 情報
固定翼機でありながら、垂直に離着陸できるアメリカ軍の主力輸送機V-22の愛称。主翼両端についたローターとエンジン部を、水平方向から垂直方向に動かすことで、ヘリコプターのような垂直離着陸やホバリング機能...
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