短甲(読み)タンコウ

デジタル大辞泉 「短甲」の意味・読み・例文・類語

たん‐こう〔‐カフ〕【短甲】

古代に使用されたよろい一種鉄板びょうで留めたり、革紐かわひもでとじたりして胴部を覆ったもの。胴丸どうまるなどより丈が短い。

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精選版 日本国語大辞典 「短甲」の意味・読み・例文・類語

たん‐こう‥カフ【短甲】

  1. 〘 名詞 〙 古代の鎧(よろい)の一つ。鉄板または金銅板を、鋲(びょう)で留めたり革でつなぎ合わせて、胴部を包むもの。衝角付兜(しょうかくつきのかぶと)頸鎧(あかのへのよろい)草摺(くさずり)・籠手(こて)臑当(すねあて)などとともに着装する。中期以降の古墳から多く出土。
    1. 短甲〈埼玉県熊谷市上中条出土〉
      短甲〈埼玉県熊谷市上中条出土〉
    2. [初出の実例]「短甲 十具〈略〉挂甲 九十領」(出典:正倉院文書‐天平勝宝八年(756)六月二一日・東大寺献物帳)

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改訂新版 世界大百科事典 「短甲」の意味・わかりやすい解説

短甲 (たんこう)

〈よろい〉の形式名。756年(天平勝宝8)の《東大寺献物帳》に短甲と挂甲(けいこう)とを区別した記載がある。古墳出土の〈よろい〉にも2種があるので,一方を挂甲とし,他方を短甲と呼ぶことになった。その短甲は,後胴は広く高く肩を覆うが,前胴は狭く低くて肩に達せず,下端は腰の上部に届く程度の,短い胴甲である。すべて前胴の中央部が縦に分かれて,少し重なる。左右の前胴を後胴に連続して組み立てた胴一連の構造と,右前胴を分離して組み立てた右脇開きの構造とが多いが,まれに左前胴も分離した両脇開きの構造のものもある。前胴を分離した場合には,脇に上下2段に蝶番を取り付けて,着脱しやすくしている。着用は上部の左右に革または布の綿嚙(わたがみ)をつけ,肩で支える。

 古墳時代の短甲として実物の遺存するもののほとんどは,鉄板を組み合わせて作り,まれに金銅板を併用している。鉄板の組合せの原理によって,竪矧(たてはぎ)式と横矧式とに大別し,組合せに革紐を用いるか,鉄鋲を用いるかによって,革綴(かわとじ)式と鋲留(びようどめ)式とに分ける。日本では竪矧式は革綴に限り,横矧式には革綴と鋲留との両者があるが,韓国では鋲留の竪矧式短甲も出土している。短甲を組み立てる個々の鉄板の形は,使用する場所によって複雑に相違するほか,組合せの方法によって変化を示すので,特徴的な鉄板の形によって,長方板,三角板,菱形板などと呼び分けている。短甲の特殊型式として,後胴の上部に頸(くび)の背面を保護する襟を設けた襟付短甲は,日本では三角板革綴と三角板鋲留との両者に遺品があり,韓国では竪矧式鋲留短甲の1例が出土している。

 なお完備した短甲には,頸のまわりから肩を覆う付属具を用い,裾に草摺(くさずり)を垂下する。前者は頸まわりの部品を頸甲(あかべよろい),頸甲の両側から肩に垂下する部品を肩甲(かたよろい)と呼ぶ習慣があるが,一連のもので二つに分離すべきではない。後者の草摺は革あるいは鉄で作った帯状板を革紐で上下に威(おど)したものを用いた。
甲冑(かっちゅう)
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「短甲」の意味・わかりやすい解説

短甲
たんこう

鎧(よろい)の一種。腰の上部から上、前は胸まで、後ろは肩までを覆う防御具で、前の中央であわせ、前後に取り付けた布などを肩の上で結んで支える。日本では現在のところ、弥生(やよい)時代後期の木製漆塗(うるしぬり)短甲がもっとも古い。古墳時代にも、革や植物繊維を素材とし、それに漆を塗った短甲がある。しかし、現存する短甲は、まれに金銅装(こんどうそう)の例がみられるほかは、ほとんどが鉄製で、なかには黒漆を塗っていたことがわかるものもある。短甲の主要部を構成する鉄板の形は、長方形、三角形などから幅の広い横長の鉄板へと変化する。また、鉄板をつなぐにあたり、初めは革紐(かわひも)でとじていたが、5世紀中葉以降には鉄鋲(てつびょう)で留めるようになる。短甲は、冑(かぶと)のほかに、付属具として、頸鎧(あかべよろい)、肩鎧、籠手(こて)、草摺(くさずり)、臑当(すねあて)などがあり、主として歩兵用の武具であった。4世紀代の古墳からも出土するが、盛行するのは5世紀代で、6世紀以降は挂甲(けいこう)にとってかわられた。なお、埴輪(はにわ)や石製模造品などに短甲をかたどったものがあるが、武人埴輪で、短甲を着装している例は少ない。

[小林謙一]


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山川 日本史小辞典 改訂新版 「短甲」の解説

短甲
たんこう

古墳時代の鎧(よろい)の一種。上半身を保護するための防御用武具で,前胴と後胴が一連で作られ,左右の前胴を押し広げて着用する胴一連(胴丸式),右前胴のみ後胴と蝶番(ちょうつがい)でつながり開閉する2枚胴式(右胴開閉式),左右の前胴が後胴と蝶番でつながり開閉する3枚胴式(左右開閉式)の別がある。4世紀後半に竪矧板革綴(たてはぎいたかわとじ)式が現れ,5世紀になると三角板鋲留(びょうどめ)式や横矧板鋲留式が出現する。実物以外にも5~6世紀の埴輪や石人(せきじん)に短甲を表現したものがみられる。金属製の出現以前にも存在し,弥生後期に木製短甲が,古墳前期には革製漆塗やツヅラフジを編んだ短甲がみられる。

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百科事典マイペディア 「短甲」の意味・わかりやすい解説

短甲【たんこう】

挂甲(けいこう)とともに古墳時代から平安時代まで用いられたよろい。鉄または金銅の板金をはぎ合わせ,鋲(びょう)どめまたは革綴(かわとじ)にしたもので,胸から腰をおおう。→大鎧
→関連項目甲冑挂甲

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「短甲」の意味・わかりやすい解説

短甲
たんこう

上古時代の古墳出土の鎧に,鉄板状横板金や三角形板金,あるいは縦長板金を上下にはぎ合せ,鋲留めもしくは革綴りにして形成したものがあり,『東大寺献物帳』や『延喜式』に記載の「短甲」の名称と符合するところからこう呼ばれている。形状は胸腹部と背面をおおい,腹部が引締って胴尻が反転している。草摺 (くさずり。甲冑の腰に垂れ,下半身を防御する部分) は湾曲した帯状板金,あるいは円頭形の小札 (こざね) を数段威 (おど) して垂下したものなどがあり,これを胴尻のまわりに鋲留めした 鉸具 (かこ) で懸垂している。 (→甲冑 )  

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旺文社日本史事典 三訂版 「短甲」の解説

短甲
たんこう

古墳時代前期から用いられた甲冑の一形式
上半身を防ぐための短いよろいで,鉄板または金銅板を革紐あるいは鋲 (びよう) で組み合わせている。

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世界大百科事典(旧版)内の短甲の言及

【甲冑】より


【日本】
 日本の場合,古墳時代の遺存例の大半は,鉄製甲冑であるが,まれに,鉄地金銅張り製,金銅製のものがある。また,弥生時代後期には木製短甲,古墳時代においても革製甲冑が確認されている。さらに,諸民族の例にみられた樹皮や皮革などでつくった胴甲の存在も考えれば,遺存しにくい有機質の甲冑が普及していた可能性を否定することはできない。…

【冑∥兜】より

…頭にかぶる鉄製の武具。古墳から出土する甲(よろい)には短甲挂甲(けいこう)の2種があり,冑にも衝角付冑(しようかくつきかぶと)と眉庇付冑(まびさしつきかぶと)の二つがある。形の上で衝角付冑は短甲に,眉庇付冑は挂甲に属するものと思われる。…

【金属工芸】より

…鉄器も弥生時代以降日本で生産されたが,古墳時代に入って甲冑や刀剣,馬具が盛んに作られた。とくに短甲は鉄板を打ち出して曲面を作り,これらを何枚も組み合わせ,鋲留めまたは革綴じしたもので,進んだ鍛造技術を示している。
[飛鳥・奈良時代]
 飛鳥時代は百済から仏教が渡来するとともに工人も来朝し,造寺,造仏が盛んに行われた。…

【古墳文化】より

…各方面にわたる鉄器の製作は,すべて前代からの鍛造の方法により,鋳鉄の技術はまだ知られなかった。しかし,鍛鉄の技術の進歩は著しく,長大な直刀の製作に応じえたほか,複雑な曲面をもった鉄板を集めて,短甲を組み立てることもできたのである。ただ,短甲の鉄板のつづりあわせには,すべて革紐を用いていて,鋲留めの手法は前期には現れていない。…

※「短甲」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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