石斧(読み)セキフ

デジタル大辞泉 「石斧」の意味・読み・例文・類語

せき‐ふ【石×斧】

おのの刃に用いた石器。打製と磨製とがある。日本では旧石器時代から弥生時代までみられる。いしおの。

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精選版 日本国語大辞典 「石斧」の意味・読み・例文・類語

せき‐ふ【石斧】

  1. 〘 名詞 〙 石器の一つ。石の一部または全部を打ち欠いて形を整えた打製石斧と、一部あるいは全体をみがき上げた磨製石斧の二種があり、用途に応じて形もさまざまである。
    1. 石斧〈左 東京多摩ニュータウン遺跡 右 沖縄県仲間第一貝塚〉
      石斧〈左 東京多摩ニュータウン遺跡 右 沖縄県仲間第一貝塚〉
    2. [初出の実例]「第一類に属するものを、打製石斧、石愴、石鏃、石錐、石匕、等とす」(出典:風俗画報‐九九号(1895)コロボックル風俗考)
    3. [その他の文献]〔新唐書‐五行志二〕

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改訂新版 世界大百科事典 「石斧」の意味・わかりやすい解説

石斧 (せきふ)

石の斧身(斧の本体)をそなえた斧。ただし,斧身のみを石斧と呼ぶのは世界の考古学に共通する。石斧には,作り,機能,形状などで多くの種類が区別できる。作りから見ると,打ち欠いただけで仕上げた打製石斧,磨いて仕上げた磨製石斧,自然の礫(れき)を利用した斧身か打ち欠いて整えた斧身に,磨製の刃を加えた刃部磨製石斧(局部磨製石斧ともいう)がある。石斧の主用途が木工用であることから,伐採斧(伐採・粗削り用)と加工斧(えぐり・削り用)が区別されることもある。しかし打製石斧と呼ばれるものには,木工用と土掘り用とがあり,北ヨーロッパの中石器時代のように,磨製石斧をもたない文化の打製石斧が木工用であるのに対して,イラク新石器時代のハッスナ文化や日本の縄文文化のように,磨製石斧が普及した文化の〈打製石斧〉は土掘り用である。また武器あるいは儀仗用の石斧には,ヨーロッパ新石器時代から青銅器時代にかけての闘斧や,中国新石器時代の有孔石斧の一部があげられる。環形の周縁を刃とし,中央の孔に柄をさしこむ環状石斧や,周縁にいくつもの突き出した刃を作り出した多頭石斧も,武器か儀仗用の棍棒頭mace headであって,世界各地の新石器時代から青銅器時代にかけて,また民族例に散見する。

 最も一般的な石斧の平面形は長方形,長円形を基本とし,刃の側が幅広く,逆の端は狭い。横断面形は,扁平な長方形,正方形,台形,三角形に近いもの,凸レンズ形から正円形に近いものまでさまざまあり,全体の形状も板状,方柱状,円棒状など多様である。石斧の平面観における刃は,直刃すなわち刃先が一直線をなすか,円刃すなわち円弧を描くかのいずれかが多い。側面観における刃は,左右相称の両刃(りようば)か,左右非相称の片刃かに区別される。ただし,両刃を〈もろは〉と読むと〈両刃(諸刃)の剣〉の例のごとく,剣のように長手の刃物の両辺に刃をもつ場合にも使われるので注意を要する。両刃・片刃の別は,石斧の分類基準として世界的に重視されてきた。この区別が斧の分類で第一義的な役割を果たさないことは,後述の通りである。側面観で刃の面が一直線をなす刃を切刃(きりば),まるみをもつ刃を蛤刃(はまぐりば)と称する。一方が蛤刃で,他方が切刃あるいはくぼんだ形状をなすものは,円鑿形石斧(まるのみがたせきふ)と呼ぶ。

 石斧の機能を考える上で最も重視すべきことは,刃先の線と柄の主軸がなす角度である。農具の鍬のように,刃線と柄の主軸とがほぼ直交するものは手斧((ちような))と呼ばれるが,ここでは横斧(よこおの)と呼ぶ。一方,まさかりのように,刃線と柄の主軸とがほぼ平行するもの,すなわち狭義の斧を,ここでは縦斧(たておの)と呼ぶ。先史時代の石斧も,まれには柄に着装されたまま出土することがある。この先史例および民族例ともに,横斧用には木の幹と枝が分かれる部分を利用し,幹側から斧身をとりつける部分を,枝側から使用者が握る部分を作り出したもの,すなわち膝柄(ひざえ)が多い。また縦斧用には,棒状の直柄(なおえ)を用い,その太い方の端近くに孔をあけ,ここに斧身を挿し入れる場合が多い。福井県鳥浜貝塚で多数見いだされている縦斧用の膝柄は,世界の先史・民族例にも類例をみない。なお柄から離れた状況で見いだされた石斧が,縦斧・横斧のいずれに属するかは,使用によって刃に生じた傷の正確な観察によってのみ判定できる。片刃石斧の絶対多数は横斧であるが,縦斧もまれにある。両刃石斧は縦斧に用いることが多い。しかし横斧の実例も少なくなく,日本の縄文文化の石斧にもごく一般に見られる。

 世界の先史時代の石斧を概観すると,横斧のみをもつ文化(例えば北ヨーロッパ中石器時代のマグレモーゼ文化,日本の先土器時代末~縄文時代前期初め)が先行し,縦斧・横斧をあわせもつ文化(例えば北ヨーロッパ中石器時代のエルテベレ文化,日本の縄文時代前期中ごろ以降)が後出らしい。民族例にも横斧のみをもつ文化(ニューギニアのクククク族など)と,縦斧・横斧を併用する文化が近代までアフリカ,アメリカ,オセアニアに残っていた。前者は縦斧・横斧の併用にいたらずに石器文化を終えたものとみることができる。横斧のみをもつ文化においては,横斧は万能の斧であって,伐採・粗削りから細部加工まで用いられる。縦斧・横斧をあわせもつ文化においては,縦斧は伐採斧,横斧は加工斧である。石斧は中石器時代に始まり,とくに新石器時代を特徴づける石器である。しかし,この系統的な発達に先立つ石斧の存在も知られるようになっている。旧石器時代のハンド・アックス(握斧)と呼ばれる石器の中にも,柄を着けたものがあるらしいのである。日本の先土器時代の関東地方にも,3万年前とされる局部磨製石斧があり,世界的にも古い実例に属する。

 北ヨーロッパにおいては,横斧のみの文化から縦斧をもつ文化への転換を,気候・植生の変化にともなう木の利用度の増加と関連づけて説明している。日本列島においても,縄文時代前期に大きな植生変化があり,縦斧の出現とのかかわりが考えられる。以後,縄文文化は大型の両刃石斧を伐採斧に,小型の両刃石斧を加工斧に使い分けている。弥生文化は大陸系の3種の石斧を用い,両刃石斧(太形蛤刃石斧)を伐採斧に,片刃石斧(扁平片刃石斧柱状片刃石斧)を加工斧に使い分けた。前者は閃緑岩,輝岩など緑色系の重い石の選材まで大陸系である。後者の2種類には,片刃と名づけられているものの,実物としては両刃のものも多類含まれている。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「石斧」の意味・わかりやすい解説

石斧
せきふ

石製の斧(おの)。石斧は、縄文時代を通じてもっとも一般的な道具として行き渡っていた。まず、磨製と打製に大別できる。断面が扁楕円(へんだえん)形、刃部が蛤刃(はまぐりば)を呈する磨製石斧は、おおむね縄文前期以降に普及する。いわゆる棒状斧もほぼ同様である。定角(ていかく)式とよばれるものは、北陸地方では中期末に出現するが、後晩期の代表的な石斧として発達をみせた。蛇紋岩、砂岩、閃緑(せんりょく)岩などの比較的軟らかい石材が選ばれている。関東地方の早期の撚糸文(よりいともん)土器群などに伴う礫斧(れきふ)は、おもに河原石の片面の先端を磨いただけのもので、一般の石斧とは異なり片刃である。磨製石斧は、樹木の伐採からその処理に至るまでの工程で使われた木工具である。近年、木製の石斧の柄(え)が鳥浜貝塚(福井県)、滋賀里(しがさと)遺跡(滋賀県)などの低湿地遺跡から出土しているが、ソケット状のものや、孔(あな)をうがったものなど、かなり精巧なつくりである。

 特殊な磨製石斧として、多頭石斧、環状石斧などの名でよばれるものがある。これらはその出現する時期・地域が限られている。棍棒(こんぼう)の頭に装着し、武器として用いられたと考えられている。北海道、東北地方に分布する。擦切磨製(すりきりませい)石斧は側面や体部に擦切の痕跡(こんせき)を残している。この製法はシベリア方面のものと共通である。

 粘板岩や頁岩(けつがん)などの石を打ち欠いてつくった打製石斧は、全国的にみれば磨製石斧ほど一般的ではないが、その発見はかなり目だつ。とくに中部・関東地方の中期の段階には、爆発的ともいえる増加をみせる。一つの遺跡から数百個以上が出土する例はまれではない。撥(ばち)形、短冊(たんざく)形、分銅(ふんどう)形などの形態が知られているが、これらは時期による差でもある。短冊形は中期に多く、分銅形は中期末から後期に発達する。打製石斧は土掘り具である。なお、愛知県以西の西日本の縄文晩期の遺跡からは、同じく土掘り具とみなされる打製石斧の出土が目だつ。

 弥生(やよい)時代にも、磨製と打製の双方がある。しかし、前者は縄文時代の磨製石斧とは系統的なつながりをまったくもたない。「大陸系石器」といわれてきたゆえんである。太(ふと)型蛤刃石斧は重量のあるもので、もっぱら閃緑岩系の石材でつくられている。両刃であり、アックスaxe(斧)として木材の伐採・打割などに使われた。柱状片刃石斧、扁平片刃石斧はともにアッズadze(手斧(ちょうな))であり、削る、えぐるなどの機能を果たした。これらの石器はいずれも木工具として相応の役割を担ったが、細部加工や仕上げの段階では鉄製利器が必要とされた。石の道具と鉄の道具は、いわばセットとして使用されていたと考えられる。しかし、後期の段階を迎えると、一群の磨製石斧は急激に消滅してゆく。鉄器の普及の結果である。

[岡本 勇]


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百科事典マイペディア 「石斧」の意味・わかりやすい解説

石斧【せきふ】

石器時代に世界的に用いられた石製の道具。打製と磨製がある。日本では,後期旧石器時代,局部磨製石斧が出現,世界最古の磨製石斧として知られる。縄文時代には土掘り具としての打製石斧が出現し,縄文中期の中部・関東,縄文後・晩期の西日本に多く分布する。磨製石斧は縄文前期に木工加工具として普及する。弥生(やよい)時代には,大陸から太形蛤刃石斧,扁平片刃石斧,柱状片刃石斧が伝わるが,やがて鉄斧の普及につれて衰退した。
→関連項目仰韶遺跡石器尖石遺跡バクソン文化磨製石器

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「石斧」の解説

石斧
せきふ

石製の斧で,打製と磨製のものがある。旧石器~弥生時代にみられる。旧石器終末期~縄文草創期には局部磨製石斧が,縄文時代には短冊(たんざく)形・撥(ばち)形・分銅形などの打製石斧と乳棒状石斧・定角(ていかく)式石斧・擦切(すりきり)石斧などの磨製石斧が,弥生時代には太型蛤刃(はまぐりば)石斧・扁平片刃石斧・柱状抉入(えぐりいり)石斧の大陸系の磨製石斧が使用された。打製石斧は土掘具として,磨製石斧は木材の伐採や加工用の工具として用いた。柄の装着方法から柄と刃の向きが同一の斧と,柄と刃が直交している手斧(ちょうな)の二つにわけられる。また前者を縦斧,後者を横斧とよぶこともある。

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山川 世界史小辞典 改訂新版 「石斧」の解説

石斧(せきふ)
stone ax

石材を用いてつくった斧(おの)で,斧頭の孔に柄を挿入する方法と,柄の孔に斧頭を挿入したり紐(ひも)でしばりつけたりする方法がある。ヨーロッパでは,斧はたんに木を切るばかりではなく,武器としても用いられ,東欧の闘斧などが好例である。石斧は地域,年代により,異なる形態を持つ傾向が多い。通例,斧頭の刃と柄とは,装着時に平行する形になるが,直交するものもあり,後者は手斧(ちょうな)の名で知られる。石斧と手斧によって森林の開墾,さまざまな木製品の製作が可能になり,技術革新の糸口となった。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「石斧」の意味・わかりやすい解説

石斧
せきふ

石器の一種。日本では先土器時代末から縄文時代,弥生時代を通じて存在し,斧状の形をしている。打製と磨製,局部磨製などがある。形のうえからは,短冊形,撥形,分銅形,定角式,乳棒状の石斧などがある。新石器時代以降のものを呼ぶが,同様に用いられたと思われるものは旧石器時代にも認められ,東アジア,特に日本では,局部磨製のものが3万年前から出現する。

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旺文社日本史事典 三訂版 「石斧」の解説

石斧
せきふ

石製の斧
「いしおの」とも読む。利器や農耕具として利用された。打製と局部磨製,磨製があり,縄文時代から存在するが,磨製石斧は弥生時代に用いられた。

石斧
いしおの

せきふ

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防府市歴史用語集 「石斧」の解説

石斧

 石のおのですが、木を倒す道具としてだけではなく、土を耕す道具としても使われました。

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世界大百科事典(旧版)内の石斧の言及

【斧】より

…本体としての斧身(斧頭)と,それを着装する柄とから成る。考古学では,柄から離れた状態の斧身を材質によって石斧,青銅斧,鉄斧,貝斧などとよぶ。 斧には,〈まさかり〉のように斧身の刃と柄とがほぼ平行する狭義の斧(中国語の〈斧〉,英語のaxe)と,鍬のように刃と柄とがほぼ直交する手斧((ちような)。…

【刃物】より

…しかし,ナイフ,鎌,鏃,錐としての打製の刃物は,磨製の刃物に勝るだけでなく,鉄の刃物に勝る威力をもつこともある。木を対象とする石斧の場合は,磨製刃は打製刃に比べ,深く打ち込むことができ,また抜き取りやすく,壊れにくい。土を対象とした効果では,打製刃・磨製刃の差は大きくない。…

※「石斧」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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