硫黄と鉄の化合物の総称として「薬品名彙〈伊藤謙〉」に「Ferri sulphuretum 硫化鉄」、「五国対照兵語字書〈西周〉」に「Sulfure de fer 〈略〉硫化鉄」とある。
鉄と硫黄の化合物の総称。
化学式FeS。天然に磁硫鉄鉱およびトロイライト(隕石鉱物)として産する。Fe(Ⅱ)塩溶液に硫化アンモニウム(NH4)2Sを加えるか,Fe2O3を約1000℃に加熱し硫化水素H2Sと過剰の水素の混合気体を通すと得られる。純粋なものは鉄と硫黄とを真空にした封管中で長時間高温に加熱して得られる。硫化水素発生用に使われる市販品は鉄と硫黄とをるつぼ中で溶融してつくる。純粋なFeSは淡褐色の結晶。上記市販品は灰黒色片または板状塊。沈殿として得られるものは緑黒色。鉱物は黒色。六方晶系。ヒ化ニッケル型構造。通常は典型的な不定比化合物で,Fe1-xSの組成をもつ(磁硫鉄鉱ではx=0~0.2)。比重4.5~5.0。融点1193℃。真空中で加熱すると,1100℃からFeとSとに解離が始まり,1600℃で完全に終わる。湿った状態では空気中で容易に酸化されてSを析出する。この際多量の熱を発生し発火することがあるので注意する必要がある。空気中で加熱すると約200℃で酸化二鉄(Ⅲ)鉄(Ⅱ) Fe3O4になり,赤熱で酸化鉄(Ⅲ)Fe2O3になる。水に対する溶解度0.00062g/100g(18℃)で,ほとんど溶けない。水と煮沸すると水素を発生し硫酸を生ずる。硫黄とともに加熱すると約200℃で二硫化鉄FeS2になり,約400℃で硫化鉄(Ⅲ) Fe2S3になり,650℃以上で磁硫鉄鉱になる。一般に無機酸にH2Sを発生して溶ける。濃アルカリと煮沸すると水酸化鉄(Ⅱ) Fe(OH)2になる。硫化水素発生用に使われる。
化学式Fe3S4。モール塩と硫化ナトリウムNa2Sの水溶液からFeSの沈殿をつくり,これを真空にしたガラス管中で190℃に加熱し,急冷すると得られる。スピネル型構造の結晶。
化学式Fe2S3。天然には硫化銅(Ⅰ)Cu2Sと結合して黄銅鉱,斑銅鉱などとして産する。Fe(Ⅲ)塩溶液に(NH4)2Sを加えると得られる。緑黒色の粉末。比重4.3。結晶構造はγ-Al2O3型。強磁性。湿った空気中で容易に酸化されて酸化鉄(Ⅲ)水和物と硫黄とになる。空気を断って加熱するとFeSとFeS2との混合物を生ずる。水に不溶。塩酸には硫黄を析出し,H2Sを発生して溶ける。
Fe2S3+4HCl─→2FeCl2+2H2S+S
化学式FeS2。立方晶系と斜方晶系の2変態があり,それぞれ天然に黄鉄鉱および白鉄鉱として産する。黄鉄鉱の英語名pyriteは火を意味するギリシア語pyrに由来し,この鉱物が古く摩擦により火をおこすのに使われたことによる。鉄と硫黄との混合物に少量のヨウ素を加え,真空にした封管中で620℃で長時間熱するか,硫酸鉄(Ⅱ)FeSO4と硫黄との混合物にH2Sで飽和した65℃のNaOH水溶液を加え,長時間この温度に保つと得られる。立方晶系変態は黄金色の輝く結晶で,格子は黄鉄鉱型構造(図)。すなわち塩化ナトリウム型構造においてNa⁺の代りにFe2⁺があり,Cl⁻の代りにS22⁻が位置している。比重5.0。融点642℃。斜方晶系変態は黄色の結晶で,その格子構造は立方晶系変態に類似しているが,つめこみがややゆるい。
比重4.88。立方晶系変態のほうがすべての温度で安定で,斜方晶系のものを加熱すると前者になる。反応性も立方晶系変態が劣り室温で不活性である。空気中で加熱するとFe2O3とSO2とになる。真空中,水素気流中または硫黄蒸気中で強熱するとFeSになる。冷水に対する溶解度0.0005g/100g。硝酸および硫酸に可溶。希塩酸には溶けないが,塩化スズ(Ⅱ) SnCl2のような還元剤があるとH2Sを発生して溶ける。濃塩酸にはやや溶ける。硫化鉄鉱はいずれも燃焼させると二酸化硫黄SO2を発生するので,かつては硫酸製造原料として重要であったが,最近では非鉄金属硫化物の製錬ガスや石油からの回収硫黄が用いられている。
執筆者:近藤 幸夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
【Ⅰ】硫化鉄(Ⅱ):FeS(87.91).天然には,磁硫鉄鉱として存在する.いん石中にもトロイライトとして見いだされる.磁硫鉄鉱は鉄不足の不定比化合物Fe1-xSであることが多い.鉄に硫黄を加えて熱するか,鉄(Ⅱ)塩の水溶液にアルカリ金属硫化物を加えると得られる.六方晶系,ヒ化ニッケル型構造.灰色.密度約4.7 g cm-3.融点1170 ℃.反強磁性でネール点は325 ℃.水には溶けないが,酸に溶けて硫化水素を発生する.真空中で加熱すれば1100 ℃ 以上で硫黄を発生し,1600 ℃ で鉄のみが残る.硫化水素の発生源,硫酸の原料,陶器の製造,触媒に用いられる.[CAS 1317-37-9]【Ⅱ】硫化鉄(Ⅲ):Fe2S3(207.89).天然には,硫化銅(Ⅰ)と結合して黄銅鉱,ハン銅鉱などとして産出する.鉄(Ⅲ)塩水溶液に硫化アンモニウムを加えると得られる.黒色の粉末.密度4.3 g cm-3.湿った空気中で酸化されて,酸化鉄(Ⅲ)と硫黄を生じる.水に不溶.[CAS 12063-27-3]【Ⅲ】二硫化鉄(Ⅱ):FeS2(119.98).天然には,立方晶系の黄鉄鉱と斜方晶系の白鉄鉱として産出する.鉄を亜硫酸アルカリと封管中で加熱して得られる.立方晶系のほうが熱的に安定で,斜方晶系を450 ℃ 以上に加熱すると立方晶系に転移する.両者とも空気中,室温では安定であるが,熱すると酸化鉄(Ⅲ)とSO2になる.真空中で加熱すると600 ℃ 以上でFeSとSに分解する.水,希塩酸に不溶,硝酸,硫酸に可溶.[CAS 12068-85-8]
硫化鉄鉱物はいずれも鉄や硫酸の原料に用いられる.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
鉄と硫黄(いおう)の化合物の総称。次のものが知られている。
(1)硫化鉄(Ⅱ) 硫化水素の鉄(Ⅱ)塩に相当する。硫化第一鉄ともいう。天然には磁硫鉄鉱として産出するほか、隕石(いんせき)中にトロイライトとして含まれる。いずれもFeの割合がやや少ないベルトライド化合物である。鉄(Ⅱ)塩の水溶液に中性で硫化水素を通じるか、硫化アンモニウムや硫化アルカリを加えると、黒緑色の沈殿として生成する。工業的には鉄粉と硫黄をるつぼ中で融解して製造する。純粋なものは、還元鉄と蒸留硫黄を封管中、真空下で1000℃に熱すると得られる。無色または淡褐色の結晶。市販品は灰黒色のかたまり。湿った状態では空気中で容易に酸化され、硫黄を析出する。水に難溶。無機酸には溶けて硫化水素を発生するので、硫化水素発生源に用いられる。
(2)硫化鉄(Ⅲ) 硫化水素の鉄(Ⅲ)塩に相当する。硫化第二鉄ともいう。鉄(Ⅲ)塩水溶液に十分量の硫化アンモニウムを加えると沈殿として得られる。黄緑色の固体。湿った空気中で容易に酸化され、酸化水酸化鉄(Ⅲ)と硫黄に分解する。水に不溶。酸に溶けて硫化水素を発生する。
(3)二硫化鉄 鉄(Ⅱ)の硫化物で二硫化物イオンS22-を含むことがわかっている。天然に黄鉄鉱(等軸晶系)、白鉄鉱(斜方晶系)として産出する。硫酸鉄(Ⅱ)とポリ硫化アルカリを封管中で165~180℃に加熱すると得られる。真鍮(しんちゅう)に似た光沢をもつ黄色の結晶。水に不溶であるが硝酸および硫酸には溶ける。鉄および硫酸の原料となる。
[鳥居泰男]
硫化鉄(Ⅱ)
FeS
式量 87.9
融点 1193℃
沸点 ―
比重 4.5~5.0
結晶系 六方
溶解度 0.00062g/100g(水18℃)
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
…鉄と硫黄の化合物の総称。
[硫化鉄(II)]
化学式FeS。天然に磁硫鉄鉱およびトロイライト(隕石鉱物)として産する。…
…鉄と硫黄の化合物の総称。
[硫化鉄(II)]
化学式FeS。天然に磁硫鉄鉱およびトロイライト(隕石鉱物)として産する。…
※「硫化鉄」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
宇宙事業会社スペースワンが開発した小型ロケット。固体燃料の3段式で、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が開発を進めるイプシロンSよりもさらに小さい。スペースワンは契約から打ち上げまでの期間で世界最短を...
12/17 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新
11/21 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新
10/29 小学館の図鑑NEO[新版]動物を追加
10/22 デジタル大辞泉を更新
10/22 デジタル大辞泉プラスを更新