(読み)はりつけ

精選版 日本国語大辞典 「磔」の意味・読み・例文・類語

はり‐つけ【磔】

〘名〙
① (「張り付け」の意) 刑罰一つ。平安末から中世にかけては、体を板または地上に張りひろげ、釘で打ちつけて殺した。江戸時代には罪木(ざいき)に縛りつけて槍で突き殺した。磔刑(たっけい)。はっつけ。はつけ。
※九条家本平治(1220頃か)下「よのつねのはりつけにはあらず、義朝の墓の前に板を敷て、左右の足手を大釘にて板に打付
② (磔になるような人間の意から) 人をののしっていう語。はりつけばしら。はっつけ。
滑稽本浮世床(1813‐23)初「此磔(ハリツケ)め」

たく【磔】

〘名〙
罪人のからだを引き裂く刑。車裂きなどの類。〔荀子正論
② 罪人のからだをはりつけにしてさらす刑。磔刑。はりつけ。〔漢書‐景帝紀〕
書法で、永字八法の一つ。「永」字の第五画の波のうねりのような筆勢の筆づかいをいう。〔崔瑗‐永字八法歌〕

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デジタル大辞泉 「磔」の意味・読み・例文・類語

はっ‐つけ【×磔】

《「はりつけ」の音変化》
はりつけ」に同じ。
堀頸ほりくびにせらるるか、―になるか」〈平治・下〉
磔野郎はっつけやろう」に同じ。
「何のこんだ、―め」〈浄・矢口渡

たく【磔】[漢字項目]

[音]タク(漢) [訓]はりつけ
罪人のからだを張りつけて市中にさらすこと。また、罪人を柱にしばって刺し殺す刑。「磔刑磔殺

はり‐つけ【×磔】

《張り付けの意》昔の刑罰の一。板や柱にからだを縛りつけ、釘・槍で突き殺すもの。はっつけ。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「磔」の意味・わかりやすい解説


はりつけ

罪人を柱に縛り付けて槍(やり)で刺し殺す刑罰。磔は西洋でもユダヤ、古代ギリシア、ローマなどで古くから行われた。おもにキリスト教迫害に用いられ、イエスキリストの磔が有名である。313年キリスト教を公認したコンスタンティヌス帝はこれを廃止し、この後は架柱絞殺用に使用された。

 日本では、戦国時代に盛んであったが、江戸時代にも行われた。幕府の制度では、磔の刑場は浅草(千住(せんじゅ)の小塚原(こづかっぱら))と品川(鈴ヶ森)であったが、在方で悪事をした場合には、その場所で行うこともあり、また関所破りの場合には、その場所で磔に処する定めであった。引廻(ひきまわ)しは付加するときと、しないときがあった。科人(とがにん)が刑場に到着すると、馬から降ろし、罪木にあおむけに寝かせ、両足と両腕を横木に結び付け、罪木をおこし、根を穴の中に埋めた。初めに科人の面前で左右から槍先を交える。いわゆる見せ槍である。そして左右から「アリャアリャ」と声をかけて、見せ槍を引き、ただちに科人の左脇腹(わきばら)から肩先に、槍の穂先一尺余を突き出し、一つひねって槍を抜き、そのあと左右から、かわるがわる20から30本ぐらい突き、最後にのどに左から「止(とど)めの槍」を突いた。死体はそのまま三日二夜晒(さら)された。

[石井良助]


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百科事典マイペディア 「磔」の意味・わかりやすい解説

磔【はりつけ】

死刑の一方法。西洋ではローマ法の磔がキリストの処刑で名高いが,4世紀には絞殺に代わった。受刑者を裸体にし手足を広げて刑柱に打ちつけるか縛り,むち打ち,放置した。侮辱的意味をもつ。日本では平安時代から現れ,江戸時代には主殺し,親殺しなどに対する最重の死刑とされ,受刑者の手足を柱に縛りつけて,槍(やり)で突いた。
→関連項目縁坐梟首死刑引廻し

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「磔」の意味・わかりやすい解説


はりつけ

昔の死刑の一方法。イエス・キリストの磔刑 (たっけい) が有名。日本では戦国~明治初期に行われた。江戸時代の刑罰としては,死刑のなかで鋸挽 (のこぎりびき) に次いで重く受刑者を罪木に縛りつけ,見せ槍をしたのち,左右より二,三十回突いて死にいたらしめるものであった。『公事方御定書』によると,原則として小塚原 (千住) と鈴ヶ森 (品川) で執行されることになっている。ただし,在方の場合は悪事を働いた場所へ連れていって行うこともありうるとし,また関所破りの場合はそこでもって執行するとある。なお,これには田畑,家屋敷,家財の闕所が付加されるが,引廻がつくかつかないかは罪科による。明治初頭の『仮刑律』では磔の適用が君父殺に限定され,続く明治3 (1870) 年の『新律綱領』で廃止された。

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世界大百科事典 第2版 「磔」の意味・わかりやすい解説

はりつけ【磔】

死刑の一方法。西洋ではローマ法の磔が,イエス・キリストの処刑によって名高い。ローマにおいて磔は,はじめ奴隷に対する刑であったが,しだいに下層の人民,属領の人民,およびローマに対する反逆者に拡張された。受刑者を裸体にして顔をおおい,腕をひろげ,紐または釘で刑柱に打ちつけて刑柱を地上に立てる。足は両足あるいは片足ずつ釘で刑柱に打ちつけるか,紐で結びつける。身体をささえるために丸太を両脚の間にはさみ,また足の下に板をとりつけた。

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「磔」の解説


はりつけ

死刑の一種で,罪人の体を木に「張り付け」て殺害することに由来する名称。古代末期から武家の刑罰として史料にみえる。江戸幕府の刑制(「公事方御定書」)では,主人や親に対する殺害・傷害の罪に対する刑罰とされ,罪人の両手両足を1本の柱,2本の横木に縛りつけ,槍で突いて絶命させる方式がとられた。

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世界大百科事典内のの言及

【イヌ(犬)】より

…《老子》,《荘子》天運篇などに見える〈芻狗(すうく)〉は快気祈願や厄払いのために神前に供えるわら細工の犬のことで,周代から三国時代ころまで行われたらしく,犠牲の代用品といえる。雨乞いに犬を殺して井戸や泉に投じたり,犬を城門にはりつけて邪気を防ぐ〈磔(たく)〉も行われた。古代人は狩猟時代からのよき伴侶であったこの獣を霊獣視し,水界の精霊,あるいは冥界の使者,案内者とも信じていたらしい。…

【刑罰】より

… 第2は団体法的刑罰の発達であって,村落などの地縁団体,武士の一族結合などに見られる血縁団体,さらには15世紀以降に発展する大名領での団体的結合(家中)等において,団体内部の闘諍をなるべく小規模に収めることで団体の平和と安全を維持しようとの要請から,仇討(敵討)を親子の間に限り,また第一次の仇討のみを認める法慣習,個人対個人の争いで一方が殺された場合,他方も殺害されるか,相手方に引き渡されるとする下手人の法慣習や喧嘩両成敗法が生まれたこと,犯罪者を団体外,領域外に放逐して,団体の保護の外に置く追放刑が,武家法,本所法で盛行したことなどが注目される。 第3は原始刑罰思想の表出であって,これを律令前の刑罰の再生とみるか,律令制下にも潜在的に生き続けたものの露頭とみるかは,なお確定しがたいとしても,(1)罪を穢(けがれ)とする観念に基づき,穢=禍いを除去する意味をもつ犯罪者の家屋検封や破却,焼却など,(2)死者の霊に対する加罰を意味する,犯罪者の死骸処刑(死骸の(はりつけ)や梟首(きようしゆ)),(3)刑罰の目的を,被害者の苦痛の回復とする観念に基づく,博奕者の指とか盗犯の指や手を切るなどの肉刑が,中世の刑事現象の特異な一面を示していることは疑いない。【佐藤 進一】
[日本近世]
 中世末~戦国時代にかけて地方政権の相対的弱さと戦時期の緊張から刑罰はきわめて残虐になった。…

【闕所】より

…私的に所持する財産を官没するもので,公的な支配権の召上げは改易(かいえき)と呼び区別した。《公事方御定書》によれば,鋸挽(のこぎりびき),磔(はりつけ),獄門,火罪,斬罪,死罪,遠島および重追放の諸刑には田畑,家屋敷,家財の取上げが,中追放には田畑,家屋敷の取り上げが,軽追放には田畑の取上げがそれぞれ付加される。これを欠所と称し,武士,庶民を通じて適用したが,扶持人の軽追放においてはとくに家屋敷のみの欠所とする。…

【磔刑】より

…キリスト教を初めて公認したローマ皇帝コンスタンティヌス1世(大帝)は,337年これを禁止した。 イエスの磔刑は新約聖書によれば,エルサレム郊外ゴルゴタの丘で行われた。ピラトに死刑を宣告されたあと,イエスは紫の衣を着せられ,茨の冠をかぶせられ,〈ユダヤ人の王,ばんざい〉と嘲笑された。…

【引廻し(引回し)】より

… 中世(おそらく室町時代)に入ると,引廻し(〈大路を渡す〉)はいっそう盛んに行われるようになり,死罪犯も引き廻したのちに刑を執行する方式が主流となったほか,死一等を減ぜられた者を車や刑架に縛して引き廻す〈はりつけ〉の刑も行われた。【佐藤 進一】 江戸幕府では死罪獄門,火罪(火焙(ひあぶり)),(はりつけ)にこれが付加されることがあった。江戸では町中引廻しと5ヵ所引廻しの2種があり,前者は牢屋裏門から出て大伝馬町,室町,日本橋,元四日市町,荒和布(あらめ)橋,堀江町,堀留を経て牢屋に戻り,後者は牢屋裏門から大伝馬町,日本橋,京橋,新橋,久保町,溜池端,赤坂御門外,四谷御門外,市ヶ谷御門外,小石川御門外,壱岐坂,本郷弓町,湯島切通町,上野山下から浅草を経て牢に帰るか,あるいは御仕置場に直行する。…

※「磔」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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