特定の堆積環境を示す化石。一般に古生物の種ないし属についていうが,古動物群についていうこともある。適応力のすぐれた,すなわち耐性toleranceの広い種は不利な条件下でも生息できるのに対し,狭い種はごく限られた環境にしか生息できない。種々の環境条件に対して耐えうる範囲の大きさにより,生態の広性・狭性が区別される。示相化石はすべて限られた環境に適応した古生物の現地性の化石であるために,それを産出した地層の堆積環境を特定したり,あるいは環境条件を推定する有力な手がかりとなる。たとえば熱帯から亜熱帯にかけて現生する造礁サンゴは,冬季の表層水温が18℃を下回ることのない温暖な海域で,しかも水深がほぼ50m以浅という透明度の高い浅海部に限って生息し,サンゴ礁を形成している。このような狭環境性stenokousのために,サンゴ礁の化石が産出することによって,これらを含む地層が堆積した古環境が温暖な浅海であり,そのような海域がどのように広がっていたかが推定される。このように狭環境性の古生物ほど,その化石により古環境を細かく限定することができる。しかしその反面,示相化石に対しては示準化石のような役割を期待できない。たとえば仮に浅海であった地域が海進により深海化し,その後,海退により再び浅海にもどった場合を想定してみると,浅海にすむ古動物群は海面の上昇につれて内陸方向に移動し,下降によってまた元の場所にもどってくる。その結果,浅海の示相化石はその地域に累重する一連の地層中で上部と下部に分かれて産出するだけでなく,他の地域ではこれらと異なった時代に堆積した地層中から産出することになる。このように示相化石は,生態が時代とともに変化しない古生物の化石であって,時空的な変化にかかわりなく特定の古環境の指示者としての意義を持っている。
執筆者:高柳 洋吉
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
過去の環境を具体的に知るうえで役だつ化石。地質時代の地球表層の環境は、地層を構成する堆積(たいせき)物の物理的・化学的特徴によって推定される。しかし、堆積盆地の古地理、古気候、水塊の深度や温度あるいは古海流などは地層の性質だけからは判断できないことが多く、示相化石の助けを必要とする。個々の生物種はその生理的、行動的な適応範囲が限定されるため、一定の環境にしか生存できない。同様なことは古生物にもいえるため、環境に対する適応の範囲が限られる類は示相化石として重視される。たとえば、造礁性のサンゴは藻類と共生するため、年間平均水温が17℃以上で太陽光の到達できる澄んだ浅海に分布する。したがって、礁性サンゴを含む地層は、このような環境であったといえる。示相化石としては、生息場で堆積した現地性化石が望ましい。しかし、花粉や胞子など遠くまで運ばれるものでも、定量的に分析すれば古気候や古植生などの推定に役だつ。
[棚部一成]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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…生痕化石はその多くが現地性であるため,古環境を知るのに重視されている。このような古環境を指示する化石を示相化石という。これと反対に,遺骸が水や大気によって生活地外へ運搬され堆積したものを異地性ないしは他生的化石という。…
※「示相化石」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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