精選版 日本国語大辞典 「神秘主義」の意味・読み・例文・類語
しんぴ‐しゅぎ【神秘主義】
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神、最高実在、宇宙の根本理法など、それぞれの宗教でたてられる究極的・絶対的なるものへ自己が直接に合一、透入する体験を「神秘体験」という。神秘体験に至上の救済価値を認め、これを中心として独特の思想や行動を展開させるような、宗教の体系ないし形態が「神秘主義」とよばれる。
[脇本平也]
神秘体験は、尋常普通の経験とは類を異にした特別な宗教体験である。英語のmysticismはギリシア語myein(目または口を閉じるの意)からきたといわれるように、この体験は、主観―客観の対立において見たり述べたりする日常的・合理的認識の領域を超えている。そのゆえに神秘と称される。たとえば、キリスト教では神との合一、霊的結婚、見神(けんしん)などといわれ、禅仏教では豁然大悟(かつぜんたいご)、身心(しんじん)脱落、見性(けんしょう)などといわれる体験がそれである。
通常のことばでもっては言い表しがたく、その意味で秘密に満ちている。しかし体験者自身にとっては、直観的にきわめて確実なできごとであり、持って回った論証を必要としない。自己は直接に、なにか無限の大きさと力とをもつ確かなものに触れる。それによって従来の小さな自己の殻は融(と)け去り、脱我すなわちエクスタシーに導かれる。魅力に満ちた鮮烈な感銘のなかで、いまだかつて知らなかった、より高く、かつより深い生命の境地が開けてくる。魂の根底が揺り動かされて、世界は新しい光に照らされ、この体験を契機として人生の意味は一変する。存在の奥義(おうぎ)がここに初めて開示されるのである。個々の神秘体験は、宗教により、時代により、人によって、それぞれ異なった具体相を示すが、他方、おおよそ以上のような基本的特徴が、神秘体験一般に共通してみられる。W・ジェームズはそれを、(1)言い表しようがないということ=その性質は自分で直接に経験しなければわからない、(2)認識的性質=真理の深みを洞察する、(3)暫時性=神秘的状態は長い時間続くことはできない、(4)受動性=自分の意志は働くことをやめてしまって、ある高い力によってつかまれるかのように感じる、の4項に整理して説明している。
神秘体験を当事者が自覚的に反省して、ことばによって表現し、解釈説明しようとする努力から「神秘思想」が形成されてくる。これはもともと言語を絶する体験であるが、これをなんとか言い表そうとするために、神秘主義に特徴的な表現形式が用いられることになる。古代インドの聖典『ウパニシャッド』の「然(しか)らず、然らず」に代表されるような否定的表現、「光り輝く闇(やみ)」「いっさいを含んだ無」などの矛盾逆説による表現、「魂の火花」「霊の水晶宮」といった詩的象徴的表現などである。こうした表現上のくふうを通して体験が説明され、独自の論理によって組織的に体系化されていく。そこに神秘思想、神秘神学、神秘哲学などが、神秘主義の重要な構成要素の一つとして成立する。
神秘思想は、体験の当事者の反省的自己理解を出発点として形成され始めるが、いったん形成された思想は、ついで、人々を神秘体験に導くための指針としての役割を果たすものとなる。体験を待望する者に対して、あらかじめその内容や進むべき方向を指示し、内的に準備の状況を整えさせる。しかし、神秘体験それ自体は、各自が自ら自証するほかない性質のものである。そこで、思想による体験への接近と並行して、さまざまな形での「神秘修行」が試みられることになる。繰り返して身心に一定の規整を加える、いわゆる行(ぎょう)のくふうである。行が進み、境地が展開していく過程は「神秘階梯(かいてい)」とよばれて、段階的に示されるのが一般である。浄化、集中、瞑想(めいそう)、合一、脱我、寂静(じゃくじょう)などがそれぞれの宗教によっていくつか組み合わされて構成される。こうした行の体系もまた神秘主義の重要な一要素をなしている。
[脇本平也]
神秘主義は、世界中の諸宗教のうちに、それぞれの特徴をもって位置を占めている。原始宗教におけるシャーマニズムなども、神秘主義的エクスタシーの一つに数えることができるであろう。『ウパニシャッド』における梵我一如(ぼんがいちにょ)の思想は、東洋神秘主義の華ともいわれる。ここに伝統を引くヒンドゥー教にも、仏教にも、神秘主義の色彩はきわめて濃厚で、ヨーガ、禅定(ぜんじょう)、密教の修法などにその特色をみることができる。
ユダヤ教にも、カバラKabbālāとよばれる口伝(くでん)教義のうちに神秘主義の流れがあり、これにつながるハシディズムHasidism(敬虔(けいけん)主義)はM・ブーバーを通して現代の思想界にも影響を及ぼしている。
キリスト教神秘主義の源泉は、『新約聖書』におけるパウロやヨハネのキリスト体験にあるともいわれる。さらに、新プラトン主義から決定的な影響を受けて成立した偽ディオニシウス・アレオパギタ以来、いわゆる否定神学の伝統のうちに多彩な神秘家を輩出している。イスラムではスーフィズムSūfismが神秘主義の主流をなし、最大のイスラム神学者といわれるアル・ガザーリー(1058/59―1111)は、一面この流れに属する神秘家でもあった。さらには、文学者や科学者の自然観や宇宙観のうちにも、宗教的伝統とは別の神秘主義的な傾向を読み取りうる場合がある。
古今東西にわたるこうした神秘主義の諸相を相互に比較研究しようとする学問上の動向も、20世紀に入ってから顕著になってきている。インドのベーダーンタ哲学のシャンカラ(700ころ―750ころ)とドイツのキリスト教神秘主義のエックハルト(1260ころ―1327/28)との、R・オットーによる比較研究などがその一例をなしている。
[脇本平也]
『岸本英夫著『宗教神秘主義』(1958・大明堂)』▽『W・ジェイムズ著、桝田啓三郎訳『宗教的経験の諸相』(岩波文庫)』▽『H・セルーヤ著、深谷哲訳『神秘主義』(1974・白水社・文庫クセジュ)』▽『西谷啓治著『神と絶対無』(1971・創文社)』
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…ウィクリフによる聖職者の身分的特権に対する攻撃と聖書の英語訳,フス派による両種聖餐,つまり俗人信徒にもパンと並んでブドウ酒を授けよ,との要求などは,信徒の共同体としての教会の理念を示している点で,宗教改革とより深くつながるものをもっていた。 第3は,信徒個々人の魂と神との直接的な交わりを求める,内面化された信仰としての神秘主義の流れである。ドイツのエックハルトやタウラー,《イミタティオ・クリスティ》で知られるフランドルのトマス・ア・ケンピスなどに代表されるこの神秘主義は,都市の発達に支えられつつ,中世末期には広く各国の俗人社会に広まり,体制の中で形骸化した信仰生活に新しいいぶきを与えた。…
…また,動詞を派生する‐ierenをはじめ,今日でも用いられる種々の接尾辞もフランス語から借用された。一方,13~14世紀にかけて,神秘主義者たちは,本来言葉で表現することが不可能な神との一体化の体験を言葉で言い表すことを試み,その目的のために新しい語や表現を創り出した。このようにして,多くの抽象名詞が成立し,これらは,今日の哲学などの術語の基礎をなしている。…
※「神秘主義」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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