日本大百科全書(ニッポニカ) 「私有財産制」の意味・わかりやすい解説
私有財産制
しゆうざいさんせい
Privateigentum System ドイツ語
財産の私的所有が制度的・法律的に確認されていること。資本主義社会ではそれが全面的に発展していき、その矛盾も激化する。財産制度は、人間の外界的自然に対する支配の仕方によって、さまざまな形をとる。資本主義社会以前における社会にあっては、主要な財産は土地であり、財産制度は土地所有のあり方によっていた。
[河村 望]
土地の私的所有と共同体所有
原始共同体にあっては、自然に働きかける前提としての血縁集団(部族・氏族)があり、土地の共同所有は、むしろ集団的労働の結果であった。このなかから家族が形成されるということは、それまですべて共同所有であった土地のうち、宅地と庭地が家族によって私的に所有され、男系の男子たちによって相続されることを意味した。耕地を含めて残りの土地のすべては依然として共同所有であったが、このような変化に伴って、部族・氏族という血縁集団にかわって、共同の土地所有のうえに成り立つ農業共同体という地縁集団が、連合の基本単位となるに至ったのである。
その後、家族による土地の私的所有は耕地にまで及ぶが、土地の共同体的所有は、なんらかの形で資本主義社会の成立以前には存続する。たとえば、ギリシア・ローマの都市国家では、耕地の私的所有と共同体所有が並存し、共有地からの収穫は共同体の公共の事業をまかなうのに用いられた。また、封建的土地所有のもとでも生き続けたゲルマンの村落共同体、すなわちマルク共同体Markgenossenschaft(ドイツ語)にあっては、耕地は家族によって私的に占有されていたが、放牧地、森林、採草地などは共同体によって占有されていた。なお、奴隷制や農奴制は、奴隷主や農奴主・領主の私的土地所有の付属的結果として生ずるもので、奴隷や農奴は、家畜と並んで土地の付属物とみなされていたのである。
[河村 望]
資本主義的所有
資本主義的生産は、それまで土地に縛り付けられていた労働者が二重の意味で自由な(これまでの古い束縛から自由であると同時に、生産手段の所有から自由な)賃労働者になることによって可能となるが、このことはまた、共同体的土地所有と、それを基礎に成り立つ共同体的諸関係の終極的解体をも意味していた。こうして、資本主義的生産様式は、もっとも純粋な私有財産の形態をつくりだすのである。資本主義社会のもとでは、すべての財貨は個人的、私的に所有される。と同時に、資本主義的私有は、所有における人間と財貨の関係を逆転させる。本源的には、所有は対象的自然に対する意思関係行為であり、われわれのものとして対象と関係をもつことであった。ところが、資本主義的所有は、資本の所有にみられるように、所有者である人間は、単に所有の対象である物の人格化にすぎないのである。
[河村 望]
『K・マルクス著、手島正毅訳『資本主義的生産に先行する諸形態』(大月書店・国民文庫)』▽『F・エンゲルス著、村井康男・村田陽一訳『家族、私有財産および国家の起源』(大月書店・国民文庫)』