1949年(昭和24)に制定された私立学校法(昭和24年法律第270号)の定める学校法人が設置する学校をいう。ただし、私立の盲・聾(ろう)・養護学校および幼稚園については、当分の間、学校法人以外の法人または個人も設置することができる(学校教育法102条)。国公立学校に対して、私設教育機関を総称するものであり、伝統的に、官学に対して私学ともいわれる。
[津布楽喜代治]
私立学校の設置ないし存在の理由は次のように整理できる。
(1)教育上の特別な主義・主張を実現するための学校。
(2)宗教的理由から設立された学校。
(3)国公立学校の補完的、代行的な目的のための学校。
(4)その他(営利性の強いもの)。
いずれにしても、国公立学校のなしえない特色ある教育を進めることが私立学校の本旨であり、明治期には法律や政治を教える私立学校や宗教関係の私立学校が設立された。すなわち、近代私学の原型ともいえる福沢諭吉(ゆきち)の慶応義塾、新島襄(にいじまじょう)の同志社英学校、大隈重信(おおくましげのぶ)の東京専門学校(早稲田(わせだ)大学の前身)などであり、大正期には独自の新教育を実践する成城小学校、自由学園、明星(みょうじょう)学園などの私立小学校が設けられた。今日では前述の四つのタイプのうち、第一のものは少なく、第三がもっとも多い状況にある。そして、国公立学校の単なる補完・代行にとどまらず、それぞれの独自性を出そうとしている。また、学校段階でみると、義務教育とりわけ小学校段階では私立はきわめて少なく、ほとんどが公立である。一方、大学および幼稚園段階では私立学校が多く、幼稚園については県ないし地域によってはほとんどが私立である。これに対して、欧米諸国では義務教育段階でも私立学校が多くみられる。つまり、この段階でも親の教育選択権が広く認められ、教育の画一化を防いでいる。それは、宗教的・人種的多様性のなかで独自の教育を施そうと意図することであり、その根底には、個性を重んずる姿勢が存在している。
[津布楽喜代治]
今日、学校の設置が、国および地方公共団体以外は学校法人のみに限られているのは、学校が「公の性質をもつもの」(教育基本法6条)とされるからである。いいかえれば、学校教育の公共性を高め、同時にその自主性を尊重することを目的として私立学校の設置が考えられているのである。私立学校法はこの精神に基づいて制定されているが、その特徴は次のようである。
(1)経営の自主性と教育理念の独自性の保障 このために、所轄庁(大学・高等専門学校は文部科学大臣、それ以外の学校は都道府県知事)の監督権限を大幅に限定するとともに、さらにその権限を民主的に執行させるべく大学設置・学校法人審議会、私立学校審議会を設けている。
(2)学校法人の公共性と運営の民主性の確保 学校法人の役員として、一定数以上の理事・監事を置いて少数専断を排するとともに、校長1人以上を加えて教育現場の意思を反映させ、また特定同族による役員独占を禁じ、さらに評議員会を設けて、重要事項についてはその意見を聞くことを理事長に義務づけている。
(3)私立学校に対する国公費の助成 憲法はすべての者が教育を受ける権利を有することを明確にし(26条)、教育基本法はこれを受けてすべての者の修学を保障する条件を整えることを国に義務づけている(3条)。このような基本的な考え方にたって、私立学校振興助成法(昭和50年法律第61号)により、私立学校に対する国公費の補助がなされる。
[津布楽喜代治]
以上のような私立学校法のもとで、第二次世界大戦後の私立学校は設立され、その後国民の教育需要に促されて急速に拡大した。短期大学を含めると、大学教育の約80%は私立に依存している状況である(2002年5月現在、私立は大学数で約80%、学生数で約82%を占めている)。しかし、そこには多くの問題がある。施設、設備、スタッフなどの面で国立大学との間に格差がみられる。学生1人当りの校舎面積、図書館の蔵書数は少なく、教員は兼務者や高齢者が多い。一方、入学金、授業料など学生の納入する経費は依然として高額である。これでは、独自の教育理念に基づき特色ある教育を行うという私立学校の本質を発揮することはできにくい。
このような教育研究条件を改善するために、次のようなことが課題とされる。
(1)私立学校政策の確立 国公立学校中心の考えを改めて、学校教育体系のなかに私立学校を明確に位置づけ、独自性と自主性をもった高度の教育研究、あるいは教育と経営の両立を可能にする私立学校政策を確立することである。
(2)私立学校内部の改革努力 一方、私立学校側においても、入学者選抜方法、経営偏重、多額の納付金などの問題解決に向けていっそうの内部努力を続け、その独自性をもった教育をすべての国民に開放していくことである。なお、2003年度(平成15)からは大半の私立大学において、入学辞退した場合は前納金のうち授業料・施設設備費等は返還する方向にある。
(3)国公費助成の拡充・強化 前述のように、憲法・教育基本法の定める国民の教育権とこれを保障する国の責任という観点にたって、国民の学費負担を軽減すべく、学生個人に対する補助を拡大・強化することである。
以上のことは、ひとり大学のみの問題ではない。高等学校、幼稚園においても、公立高等学校の普及や幼児・生徒数の減少などの状況に当面して問題は深刻なものがある。一方、大都市部の私立有名校における進学偏重の教育については、生きる力をはぐくむ人間性豊かな教育の観点から検討される必要があろう。なお、公立学校における中高一貫教育、国立大学の独立行政法人化等が進行している今日、国公私立学校の連携協力による教育の多様化・活性化が期待される。
[津布楽喜代治]
『大沢勝著『日本の私立大学』(1981・青木書店)』▽『小野元之著『私立学校法講座』平成10年改訂版(1998・学校法人経理研究会)』▽『私学法令研究会監修『私学必携』第11次改訂版(2002・第一法規出版)』▽『丸山文裕著『私立大学の経営と教育』(2002・東信堂)』
一般的には私人が私財をもって設立した教育機関の総称。私学ともいう。現行学校制度では,私立学校法(1949)に基づく学校法人が設置した学校を指す。
空海の綜芸種智院(しゆげいしゆちいん)(828)は日本の私学の原点とみられる。貴族社会の中で庶民に門戸を開放した画期的な教育機関であった。鎌倉時代から江戸時代に至る500年間の文化と教育は宗教系私学(仏教各宗派の学問所やF. ザビエルのキリシタン学校など)によって支えられた。江戸時代に普及した寺子(小)屋と私塾(緒方洪庵の適塾など)は,日本の近代化に重要な役割を果たした。明治維新以降では,近代私学の原型とされる福沢諭吉の慶応義塾に代表される外国語系私学,新島襄の同志社英学校などのキリスト教系私学,大隈重信の東京専門学校など多数の法律・政治系私学などが相次いで開設された。また〈大正デモクラシー〉期に児童の個性尊重をうたう新教育運動を支えた私学(自由学園や成城小学校など)の存在も大きい。しかし,明治以降の急速な国家主義体制への移行にともない,官学中心の学校制度が整備された。大学を国家の学問所とした帝国大学令(1886),私学を学校制度として初めて認めるとともに国の監督下に置いた私立学校令(1889)や専門学校令(1903),初めて私立学校を公認した大学令(1918)などがそれである。自由・自治・自立を生命とする教育の源流であった私学は,官学の補助的機関に位置づけられた。
ルネサンス以後,私人による学問・教育集団が相次いで誕生し近代ヨーロッパ文化の発展を支えてきた。大学の始祖といわれるイタリアのボローニャ大学(11世紀)なども自由で私的な学徒組合(ユニバーシティ,カレッジ)を基礎としている。この伝統は,イギリスのオックスフォード,ケンブリッジ両大学,アメリカのハーバード大学などアイビー・リーグIvy Leagueと呼ばれる著名私学などに継承され,政治・社会・文化の諸分野に指導的役割を果たしている。また,欧米先進諸国では,初・中等教育段階でも,近代市民思想の原理(個人の自由と権利)を学校法制上の基礎としている。イギリス,フランス,西ドイツなどの憲法や諸法令は,〈教育の自由〉に基づき,親の学校選択権と私学開設の自由を承認し,公教育機関の重要な一環として私学を積極的に位置づけている。日本の私学が,これらヨーロッパ近代公教育の原理に基づいて学校制度に位置づけられたのは,第2次大戦後のことである。
戦後の新学制により私学の地位と役割も見直された。すなわち(1)私立学校は国公立学校と制度上も平等である。(2)私立学校の自主性を尊重して,国等の権限(認可・監督)を制限し私立学校審議会等の意見を尊重する。(3)私立学校の公共性を高めるため,戦前の財団法人制度を改め,親族経営等を制限した学校法人をその設置母体とする。(4)私立学校の公共性に基づき,教育を受ける権利(憲法26条),教育の機会均等(教育基本法3条)などを保障する立場から,国および都道府県の私学助成を認める(私立学校法59条,私立学校振興助成法(1975)など)である。
このような制度改革と国民の教育機会の拡大にともなって,私立学校は急激に増加しその重みを増すとともに,以下のように多くの問題もかかえることになった。(1)私立学校の割合の大きさ (a)私立学校の比重は,短大,幼稚園,大学の順に高くいずれも7割を超える。約130万人の生徒をもつ私立高校の存在も大きい。(b)戦後1952-82年の大学の増加傾向をみると,その9割が私学である。また,全大学・短大生に占める私学生の割合も,1950年の62.2%から82年の76.6%と増大している。(2)私立学校と国公立学校の格差の大きさ(学生等1人当り数) (a)入学時学費では,幼稚園で私立が公立の9倍,高校で12倍,大学(医歯学部を除く)で4倍弱の負担増となっている。とくに,私立大学の学費はアメリカをしのぐ世界一の水準といわれる。(b)逆に,学生・生徒1人当りにかけた学校教育費は,幼稚園,高校では公立の7~8割程度,大学では1/3以下と少ない(1978会計年度)。(c)教育条件(大学)をみても,校舎等面積,蔵書冊数,本務教員数のいずれも国立の1/3にすぎない。(3)私学助成への期待と私学の責任 (a)私学への国等の公費補助制度は1970年度から軌道にのった。国民の教育費負担の軽減,研究・教育水準の向上,私学経営の健全化が私学助成の目的となっている。こうした補助制度の拡充整備が望まれる。(b)私学の研究・教育条件改善への努力は80年代に入って急速に進んでいる。他方,私学の経営乱脈が社会問題化している。私学関係者には,私学の自由の伝統を発展させるとともに,その公共性を自覚し,私的経営の体質を一掃して国民の信頼にこたえる責任がある。
執筆者:大沢 勝
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…特別法による財団法人では,通常これらを必要機関としている。例えば,私立学校法によって設立される学校法人である私立学校は,学校経営を目的として提供された資産を構成要素とする財団法人であり,その設立にあたっては,私立学校法30条1項5号で役員に関する規定を,6号で評議員会および評議員に関する規定を寄付行為に定めなければならないとしている。そして35条で,役員として理事5人以上および監事2人以上を置くこととし,理事のうち1人を理事長とすべき旨を定めている。…
※「私立学校」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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