立法(読み)リッポウ

デジタル大辞泉 「立法」の意味・読み・例文・類語

りっ‐ぽう〔‐パフ〕【立法】

[名](スル)法律を制定すること。特に、国会における法律の制定作用。
[類語]行政司法

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精選版 日本国語大辞典 「立法」の意味・読み・例文・類語

りっ‐ぽう‥パフ【立法】

  1. 〘 名詞 〙 法律を制定すること。司法・行政に対するもの。
    1. [初出の実例]「太政官の権力を分って立法行政司法の三権とす」(出典:第三三一‐明治元年(1868)閏四月二一日(法令全書))
    2. [その他の文献]〔荀子‐議兵〕

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改訂新版 世界大百科事典 「立法」の意味・わかりやすい解説

立法 (りっぽう)

公権力(おもに国家)が一般的・抽象的な準則を定めることをいう。一般的・抽象的準則とは,不特定多数の人の将来の行動を規律するものをさす。しかし,今日においては,具体的な問題を処理するための立法(ドイツでは処分法律Massnahmegesetzと呼ばれる)もみられるようになった。

 国家の活動がすべて法に基づかなければならないという原則(法治主義)より進んで,その法が国民の意思を反映していなければならないという原則(法の支配)が,国家機構の中に貫徹する近代以降の民主主義国家においては,国民の意思を選挙を通して反映する議会が,まず,一般的・抽象的な準則(法律)を定め,それに拠(よ)って行政が行われ,あるいは,人々がこの準則に拠って行動し,さらにこれら準則をめぐる争いを裁判所が解決するというしくみが通例のものとなっている。したがって,議会が立法機関となるのがふつうである。日本国憲法はこの点を強調して,国会は唯一の立法機関であるとしている(41条後段)が,後述のごとく例外はある。

 近代民主政治以前の君主制(絶対主義)の場合には,議会の立法は,君主の承認(裁可)を必要としていた。そのなごりがイギリスなどにみられるが,今では,この裁可権は周知のごとく名目化している。ところで,明治憲法は,立法権は天皇にあり,帝国議会は〈協賛〉するたてまえであったから,天皇の裁可権は強力であった。しかし日本国憲法における天皇の法律等の公布(7条1号)は,形式的なもので法律の成否にはかかわりがないと解せられている。なお,アメリカ合衆国では,議会の法律に対し,大統領は拒否権を発動できるが,議会が3分の2の多数意思でこれを克服できることになっている。

 国会は〈唯一の立法機関〉と定められていても,国会の立法形式である〈法律〉以外に,他の国家機関による法形式(後述)があり,また,〈法律〉の立法についても,その全過程が国会の作業で終始するとはかぎらないことに留意する必要がある。

まず,法律の立法手続であるが,発案→審議→議決→公布というプロセスを経る。発案が議員に認められることはもとよりである(議員立法)が,内閣にも発案権が認められるというのが通説で,かつ慣例であり(憲法72条参照),成立する法律のほとんどが内閣提出法案となっている。そこで審議・議決に国会の立法意思が集中的にあらわれることになるが,国会を構成する衆議院の意思と参議院のそれとの齟齬は,衆議院が優越するように調整される。すなわち,法律案は原則として両議院で可決したとき法律となるが,衆議院で可決し,参議院でこれと異なる議決をした場合は,衆議院が出席議員の3分の2以上の多数で再び可決したとき法律として成立する(59条2項)。もっとも両議院の意思の調整を協議会(両院協議会)ではかったり,参議院が法律案について態度を明らかにしない場合の措置も定められている(同条3,4項)。

 法律であっても,国会の意思のみで成立しない例外は特定の地方公共団体のみに適用される法律で,その地方公共団体の住民投票で,その過半数の同意を必要とする場合である(95条)。これは,地方自治の観点からの国会の立法権に対する制約である。また,法律ではないが,国会の立法意思にその成立がかかわる法形式として〈条約〉がある。もっとも条約は,外国との取決めであるから国内立法と異なるうえ,条約締結権は内閣にあり,それに,国会の立法意思が条約に十分生かされる保障があるわけではない。

 国会の立法に影響を与える社会勢力としていわゆる圧力団体の存在を閑却することはできない。圧力団体はさまざまの社会領域にわたっており,内閣が提出する法案の場合は,官庁レベルでの働きかけから始まって,一般的には,与党に重点を置いた政党への工作を試みることによって,立案とその推進あるいは,原案修正,それに法案の成立阻止とさまざまの方向で活動する。おもな圧力団体としては,農業,経済,労働,教育等の各団体があり,国民生活に対する国の配慮を示す立法の動きが目だつようになる昭和30年代以降は,福祉団体,市民団体の活動もきわだっている。

国会以外の公的機関も,一般的には法律の範囲内で立法が認められている。両議院はそれぞれ議院規則を定めうる(憲法58条2項)し,内閣は政令(73条6号),大臣は命令について(国家行政組織法12条)それぞれ立法権を有する。また,最高裁判所は,裁判に関連した事務処理,裁判所の内部規律等について規則を定めることができる(裁判所規則。憲法77条1項)。さらに,地方公共団体も条例を制定しうる(94条)。政令,命令,条例は法律に反しえないことは規定上明らかであるが,議院規則,最高裁判所規則についても,法律の下にあるとの解釈が支配的である。

 とりわけ,行政権が法律の委任を受けて行う委任立法の数の増大は,社会のしくみが複雑になり,産業規制,福祉等,国家の行政領域が拡大深化している現代国家においては,不可避的である。政令には,法律の委任がなければ罰則を設けたり,または義務を課しもしくは権利を制限する規定を置くことができない(憲法73条6号,内閣法11条)のみならず,法律で定めるべき事項(国の組織・作用に関する事項,国民の権利義務にかかわる事項一般)を,白紙委任的に行政府にゆだねることは許されない。

 最後に国民による立法について述べると,憲法改正手続における国民投票憲法96条)はその一例であり,すでにふれた憲法95条(特別法の住民投票)も,地方住民による例である。地方自治法は住民による条例制定改廃の直接請求権を定めている(地方自治法74条以下)が,法律についての,国民による発案(イタリア憲法71条2項)や,国民投票(フランス憲法11条)の制度は,日本ではまだ認められていない。
議会 →権力分立 →国会
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「立法」の意味・わかりやすい解説

立法
りっぽう

公(主として国)権力による法律の制定作用。広義には、国会による法律の制定(制定法statute)に限らず、行政官庁たとえば、内閣の発する政令、大臣の命令、最高裁判所による裁判所規則、地方公共団体による条例の制定なども立法の概念に含まれる。狭義には、憲法第41条に「国会は……唯一の立法機関である」と規定されているように、国会における法律制定の作用をさす。

[田中 浩]

立法と法の支配

12、13世紀末ごろまでは、ヨーロッパにおいても立法Law-makingという観念はなく、「国王も官吏も神の法、自然法、この国の慣習法に従って統治しなければならない」ということばにみられるように、「法は発見するもの」と考えられていた。このため、「法の支配」といっても、結局は為政者の善意や自己抑制に頼るほかなく、もしも法を無視する専制君主や暴君が出現したときには、法によって抑制することができず、封建貴族たちは暴力によって君主の行為を制限する以外に方法がなかった。しかし、13世紀末のイギリスに議会が設立され、14世紀中ごろまでに下院の立法権が確立されるようになって、議会において制定された法律を守って政治を行うことが「法の支配」であるという観念が定着していった。この意味で、立法という観念は近代的性格をもつものであったことがわかる。もっとも、17、18世紀の市民革命によって近代国家が成立するまでは、各国の絶対君主はなお強大な立法権をもっていたから、そこでは真の意味での「法の支配」はまだ実現していなかった。したがって、近代国家において議会が国民代表的な性格をもつようになって初めて、立法の概念と近代的・民主的な「法の支配」観念とが合致するようになった。第二次世界大戦前の日本では、天皇は勅令その他の立法権をもち、帝国議会は天皇の立法権を協賛する地位にあり、また唯一の立法機関でもなかったから、そこでの立法観念は真に民主的なものとはいえなかった。

[田中 浩]

立法過程

国会における立法過程は、発案→審議→議決→公布という順序をとる。発案は、議員はもとより内閣にも認められている。法案には議員提出の法案(Private Bill)と内閣提出の法案(Public Bill)があるが、後者のほうが圧倒的に多くかつ質的に重要なものが多い。内閣は、諸官庁の官僚を動員し、全国家的な視野から法案を作成することができるからである。

 法案の審議は衆・参両院に設けられた各種常任・特別委員会などで行われるが、重要法案については公聴会が開かれ、学識経験者や利害関係者の意見を聴取する。各種委員会において出席議員の過半数で可決された法案は、衆・参両院の本会議に提出される。法案はどちらの院に先に提出してもよいが、予算はかならず衆議院に先に提出しなければならない。本会議はおのおの総議員の3分の1以上の出席をもって開かれ、出席議員の過半数の賛成で法案は議決される。衆・参両院において議決されたとき、その法案は法律となる。もっとも、両院の意見が一致しない場合には、両院協議会を開いて意見調整を図るが、調整がつかないときには、法案に関しては、衆議院で出席議員の3分の2以上の多数をもって可決(再議決)すれば、その法案は法律となる。なお予算・条約に関しては、両院の意見が不一致の場合、衆議院の絶対的優越が認められている。

 国会において成立した法律は、主任の国務大臣が署名し、内閣総理大臣が連署し、天皇の名において公布される。

[田中 浩]

立法をめぐる問題点

現代国家は福祉国家とよばれ、経済・労働・社会政策などに関する政府の取り扱う行政事務の範囲が著しく拡大し、いわゆる行政部の肥大化を招き、行政機関による委任立法の数もきわめて増大している。政令には法律の委任がなければ罰則を設けたり、義務を課しもしくは権利を制限する規定を設けることができない(憲法73条6号、内閣法11条)とされているが、このような委任立法の著しい増大は、本来、国民代表機関たる国会においてなされるべき法律の制定作用を軽視し、とかく行政府にゆだねることになりはしないかという問題点が指摘されている。もう一つは、行政府の肥大化とともに、立法過程における官僚の果たす役割が増大し、官僚と議員との癒着がますます深まることによって、国民の意志が十分に立法作用に反映されないのではないか、という批判がある。さらに、国民生活が多様化し、国民相互間の利害がますます複雑化しつつある現代国家の状況下で登場した各種圧力団体の活動が、特殊利益の実現を目ざして、国会における正常な運営をゆがめ、そのことが一般国民の利益を実現すべき立法の機能を妨げている、という危険性を指摘する声もある。ところで2009年(平成21)9月に民主党政権が成立すると、従来の官僚主導型の立法過程を排し、政権政党による政治主導型立法過程へと変更する方向が打ち出されつつある。

[田中 浩]

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百科事典マイペディア 「立法」の意味・わかりやすい解説

立法【りっぽう】

を制定すること。行政,司法に対する。狭義では法律と呼ばれる法規を制定する国会の作用をいう。広義では,抽象的・一般的法規を制定する作用をいい,法律のほか行政機関による命令,地方議会による条例,最高裁判所による規則(規則制定権を参照)などの制定を含む。→立法機関
→関連項目議会

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「立法」の意味・わかりやすい解説

立法
りっぽう
legislation; law making

一般的,抽象的な規範の定立作用。具体的には議会における成文の法規範の制定作用をさす。狭義の立法は具体的な法律制定を意味し,以前は国王など行政部もこの権限を有していたが,議会制民主主義の定着とともに議会固有の権限として確立された。今日,立法が立法部の専権事項であることについては,非常事態など一部の場合を除いて,各国ともに憲法などにより保障されている。しかし広義に立法を解釈した場合,司法が行う判決による法解釈や行政が行う委任立法や具体的法規の適用なども一種の立法作用と理解され,さらには地方公共団体の有する条例や規則の制定も立法のなかに包含される。現実には法の社会的存在のあり方や行政国家化の進行に伴う委任立法の増大などにより,実質的には立法部による立法の専権性はくずれ,今日では立法部以外がなす法解釈や決定が事実上の立法作用をもつにいたり,立法そのもののもつ意味が変質すると同時に立法部の地位も相対的に低下してきている。また,近年では立法の補完的作用として,国民投票などが利用される場合もある。

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