第三帝国(読み)だいさんていこく(英語表記)Drittes Reich ドイツ語

精選版 日本国語大辞典 「第三帝国」の意味・読み・例文・類語

だいさん‐ていこく【第三帝国】

[1] 〘名〙 ギリシアの古代精神と、ガリラヤ人キリストの精神を統一融合した第三の世界。肉の世界(第一帝国)、霊の世界(第二帝国)に対して、霊肉一致の世界。イプセン戯曲皇帝とガリラヤ人」で用いた語。〔欧米印象記(1910)〕
[2] (Das Dritte Reich の訳語) 神聖ローマ帝国を第一、ビスマルク時代のドイツ帝国を第二の帝国とみて、ナチス統治下のドイツをいう。一九三三年一月に成立ワイマール憲法を無視して、ナチスによる国家と党の一体化を強行第二次世界大戦をひきおこして敗北、一九四五年に解体した。ナチスドイツ

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デジタル大辞泉 「第三帝国」の意味・読み・例文・類語

だいさん‐ていこく【第三帝国】

《〈ドイツ〉das Dritte Reichナチス統治時代のドイツの異称神聖ローマ帝国ホーエンツォレルン家ドイツ帝国に続く第3の帝国の意。

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山川 世界史小辞典 改訂新版 「第三帝国」の解説

第三帝国(だいさんていこく)
Drittes Reich

ナチスの支配体制をいう。1933年1月成立。国会議事堂放火事件によってナチスの独裁体制が確立し,3月の全権委任法によって,ヴァイマル憲法は無効となった。34年6月末にはレーム以下が粛清されてエス・アー(SA)の大衆的組織が無力となり,代わってエス・エス(SS)が台頭した。ナチス独裁によって国民は画一化され,指導者原理によって「上部に対する服従,下部に対する権威」の体制がとられ,地方分権制は廃止され,ナチ党幹部がドイツ国家機構を独占して国家と党を画一化した。経済上では土木事業によって失業者を救い,ついで軍需生産と軍備の大拡張が始まった。農業上では世襲農場法が発布されて中農と大農の農地と生活が保護され,農産物価格の安定が図られ,工業上でも合成ゴム,人造石油その他の生産が進められて自給自足経済が進展した。しかし戦争準備体制であったから,有能な経済人の協力を得て生産力は急増したものの,しだいに生活の窮乏の危険が迫った。反ナチス派を大量に捕えて強制収容所に送り,拷問したり殺害した。外交イギリス支持を得たので成功し,35年に軍備を数倍にし,36年ロカルノ条約を破棄し,38年オーストリアとズデーテンを併合,39年には東欧諸国を征服してヨーロッパを制覇するために第二次世界大戦を引き起こし,45年滅びた。なお「第三帝国」の呼称は,第一帝国(神聖ローマ帝国)と第二帝制(ドイツ帝国)を超える,ドイツ民族の新しい「第三帝国」の意味で一般化したが,ナチ当局は39年以後公式には「大ドイツ帝国」の呼称を用いている。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「第三帝国」の意味・わかりやすい解説

第三帝国
だいさんていこく
Drittes Reich ドイツ語

ナチスの支配体制。一般的に、キリスト教神学では、キリスト以前の『旧約聖書』の時代を第一帝国、キリスト降誕以後の『新約聖書』の時代を第二帝国、紀元後1000年ころから始まる時代を第三帝国といった。哲学上では、物質的な世界を第一帝国、精神的な世界を第二帝国、両者を統合した理想の世界を第三帝国と称するが、「第三帝国」とは要するに理想的な人間社会をさすことばである。このためドイツ保守派の政治家や学者はナチス国家をドイツ民族の優れた性格が十分に発揮され、その世界的使命が達成される帝国と考えた。すなわち、中世の神聖ローマ帝国(962~1806)を第一帝国、ビスマルクの建てた帝制ドイツ(1871~1918)を第二帝国とし、ナチス支配体制下の国家(1933~45)を第三帝国とよんだ。この「第三帝国」は、いまではナチス・ドイツそのものをさす歴史的呼称となった。

[村瀬興雄]

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世界大百科事典 第2版 「第三帝国」の意味・わかりやすい解説

だいさんていこく【第三帝国 Drittes Reich】

1933年1月のヒトラー内閣の成立で始まり,45年5月の第2次世界大戦におけるドイツの敗北によって崩壊した,ナチズム体制の公式の名称。ヒトラーは彼の帝国を,962年に始まる神聖ローマ帝国,および1871年にビスマルクの強力な指導力のもとに成立した第二帝制の後を継ぐドイツ民族による3度目の帝国とみなしたのである。ヒトラーがこのシンボルに飛びついて,宣伝の中心にすえたのは,1923年にメラー・ファン・デン・ブルックArthur Moeller van den Bruck(1876‐1925)という右翼ナショナリストの思想家が同名の書を刊行したときからであったが,このシンボルが中世の神秘主義的な〈千年王国〉思想につながるところがあったこともまたヒトラーを魅惑したといわれる。

だいさんていこく【第三帝国 Drittes Reich[ドイツ]】

この語は最初,12世紀の神学者ヨアキム・デ・フローリスによる《ヨハネの黙示録釈義》のうちに現れた。それによると世界史においては,三位一体に従って三つの秩序(または国)があり,それが三つの時代となって展開するとされる。すなわち第1は父の秩序で,律法のもとに束縛されたユダヤ教の時代。第2は子の秩序で,新約聖書とキリスト教(教皇と司祭)の時代。ここでは自由は部分的にしか実現していない。第3は聖霊の秩序で,全き知識と自由にみちた時代である。

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百科事典マイペディア 「第三帝国」の意味・わかりやすい解説

第三帝国【だいさんていこく】

1933年―1945年のドイツにおけるナチス支配体制の公式名称。Drittes Reich。神聖ローマ帝国,ドイツ帝国を引き継ぐと称して自ら名付けた。その背景には,中世の神秘主義につながる千年王国的思想があるといわれる。
→関連項目ゲシュタポヒトラー

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「第三帝国」の意味・わかりやすい解説

第三帝国
だいさんていこく
Drittes Reich

通常はナチスの支配体制をさす。ナチスは 1933年政権を獲得すると,962~1806年の神聖ローマ帝国 (第一帝国) ,1871~1918年のドイツ帝国 (第二帝国) を引継ぐものであると主張して,自己の支配体制を第三帝国と称した。その契機はメーラー・ファン・デン・ブルックが『第三帝国』 Das dritte Reich (1923) を著わし,ヒトラーがそれを積極的に用いたことによる。

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旺文社世界史事典 三訂版 「第三帝国」の解説

第三帝国
だいさんていこく

ドイツ帝国

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世界大百科事典内の第三帝国の言及

【ドイツ】より

…この統一問題は,革命を通じて現れてきた社会問題とともにその解決はこの後の政治の大きな課題として残されたのである。【坂井 栄八郎】
[近代と伝統]
 48年革命から第三帝国の崩壊にいたるドイツ近・現代史の1世紀は,〈ナショナリズム〉と〈社会主義〉を二つの軸として展開したといっても過言ではない。しかもこれら二つの問題は,ナチズムNationalsozialismusのドイツ征覇に端的に示されているように,相互に深くかかわるものであった。…

【ファシズム】より

…しかし,今日では,そうした全体主義支配はファシストの夢ではあっても,必ずしも十分には実現されなかったことが明らかにされてきている。厳密にいえば,このモデルにいちばん近いナチス〈第三帝国〉の場合でも,ヒトラーとナチ党による全体主義支配が成立したのは1938年以降の後半期であり,イタリアのムッソリーニの場合は,そもそもその成立自体を否定する研究者が多い。〈ヒトラー体制〉といわれるものも,実際には,H.G.H.シャハト(国立銀行総裁。…

【ヨアキム・デ・フローリス】より

…三位一体論と聖書解釈をもとに世界史を3期に分け,第1期は律法の下に俗人の生きる〈父の国〉の時代,第2期はキリストの下に聖職者が霊肉の間を生きる〈子の国〉の時代,第3期は自由な精神の下にヌルシアのベネディクトゥス以来の修道士が生きる〈聖霊の国〉の時代とした。この第3期(第三帝国)には〈山上の垂訓〉が厳格に守られなければならないとされる。ヨアキムはさらに,1260年には《ヨハネの黙示録》14章6節にいう〈永遠の福音〉がなり,教会制は終わって完全な霊的教会が誕生すると預言した。…

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