精選版 日本国語大辞典 「精子」の意味・読み・例文・類語
せい‐し【精子】
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多細胞生物の雄性配偶子で、運動性をもつものをいう。精虫ともよぶ。1667年にレーウェンフックによって初めて記載され、当時、精子の中に極微動物が組み込まれていると考える前成説を生じた。
[雨宮昭南]
精子の基本的な形態は、受精時における卵への侵入のための機能をもつ部分(先体)、遺伝のための機能をもつ部分(核)、呼吸器官として働く部分(ミトコンドリア)、および運動器官として働く部分(鞭毛(べんもう))からなり、先体および核は頭部を、ミトコンドリアは中片を、鞭毛は尾部を形成する。哺乳(ほにゅう)類の精子などでは、頭部と中片の間がくびれて、頸(けい)部を形成するものも多い。甲殻類の精子のなかには、このような構造をとらずに、三脚型やアメーバ型になるものも知られている。精子は1個の細胞であるが、細胞としてはきわめて特殊化したもので、核がその主要部分を占めており、細胞質の大部分は失われている。先体は、受精時に卵表面物質と反応して先体反応をおこし、先体中に含まれる卵膜溶解物質を放出する。この物質は卵膜を溶かして、精子が卵に侵入するための穴をあける。精子核中には半数体(n)の染色体が含まれ、したがって、DNA(デオキシリボ核酸)の量も体細胞核に含まれるDNA量の半分である。多くの精子では、核内の塩基性タンパク質としてヒストンのかわりにプロタミンを含んでいる。染色体は、精子核中では非常に密な状態で存在しており、電子顕微鏡などを用いて、その存在様式を観察するのはむずかしい。受精時に、卵の中に入った精子核は、卵核と融合することによって、倍数体(2n)の染色体をもつようになる。中片に含まれるミトコンドリアは、精子が運動するためのエネルギーを供給する。精子ミトコンドリアの形態は、ドーナツ形や螺旋(らせん)形をとるものが多い。精子鞭毛は、他の鞭毛や繊毛と同様に9+2の軸糸(円形に配列した9組の軸糸の中央に2本の軸糸がある)としての基本構造をもち、ミトコンドリアを経て供給されるATP(アデノシン三リン酸)のエネルギーを用いて鞭毛運動を行い、精子を動かす。分離した鞭毛を界面活性剤で処理して膜を破壊したあと、ATPを加えれば、分離した状態でも鞭毛運動を行うことが知られている。
[雨宮昭南]
将来、精子に分化する始原生殖細胞は、発生のかなり早い時期に生じたあとに移動して、別の場所で分化している精巣中に入って精原細胞となる。この精原細胞は有糸分裂によって増殖したのち、分裂をやめて成長し、第1次精母細胞になる。第1次精母細胞は、減数分裂を行って第2次精母細胞となり、さらにもう1回分裂して精細胞になる。この結果、1個の精母細胞から、4個の精細胞が生じることになる。この減数分裂の過程で、染色体数は半減して半数体(n)になっている。精細胞から精子が形成される過程は、精子完成、または精子変態という。この過程で、精細胞中の核は、著しく凝縮して染色体が詰め込まれ、ゴルジ装置から先体が、中心粒から鞭毛が生じ、ミトコンドリアが中片に位置するようになる。その他の細胞質の大部分は放出されて精子が完成する。
[雨宮昭南]
哺乳類などでは、精漿(せいしょう)(精液から精子を除いた部分)中に含まれる糖から解糖によって精子運動のエネルギーを得るが、水中に放精される海産動物の精子などでは、精子中に含まれるグリコーゲン、リン脂質、硫黄(いおう)を含む脂質であるスルホリピドなどを基質としてATPを生ずる。精子と卵の会合は、一般には無作為におこるとされているが、ある種の精子では、走化性の認められるものもある。
[雨宮昭南]
植物の多くは精子をつくらないが、緑藻類、褐藻類、車軸藻類、藍藻(らんそう)類などには精子をつくるものがあり、シダ植物やコケ植物も精子をつくる。種子植物ではイチョウ(平瀬作五郎・1898)、ソテツ(池野成一郎・1898)での精子の発見が有名である。植物精子の形態は種によってさまざまであるが、いずれも運動器官として鞭毛または繊毛をもっている。これらの鞭毛や繊毛の基部には、中心体と相同の器官である毛生体が存在している。
[雨宮昭南]
精巣(睾丸(こうがん))の精細管上皮から精祖細胞→第1次精母細胞→第2次精母細胞→精子細胞→精子の順に分化してつくられる。この精祖細胞から精子に分化するまで約74日を要するといわれている。ヒトの精子はオタマジャクシ形で、全長がおよそ50~60マイクロメートルの大きさであり、頭部、頸(けい)部(結合部)、体部(中片、中間部)および尾部の四部からなる。頭部は楕円(だえん)球形に近く、頭部実質(核質部)と頭帽(先体)に大別される。精子の頭部先端にある頭帽には卵(らん)の表層を溶解させる酵素が含まれており、受精に重要な役割を演ずる。また、頭部実質は細胞の核よりなり、減数分裂の結果、体細胞の2分の1量のDNAタンパクを有している。精子にはX染色体を有する精子とY染色体を有する精子とがあり、卵にはX染色体しかなく、性の決定権は精子側にある。頸部は頭部に連続する部分で、中心体が存在する。中心体を構成する成分は微小管構造群で、これは中心にある1対の中心微小管とそれらを取り巻く9対の周辺微小管からなり、これらは精子の鞭毛運動に重要な働きをしている。
精子は、精巣上体(副睾丸)で成熟し、精巣上体の尾部に蓄えられる。性的興奮が高まると、精管の蠕動(ぜんどう)運動によって精管内を速やかに精管膨大部へと送られる。精子は射精されるまでは運動しない。一般に精子は酸に弱いが、弱アルカリ性の環境では活発に運動する。1回の射精量は1~6ccで、1cc中に精子が2000万以上あれば正常である。また、正常形態の精子が50%以上、運動している精子が50%以上あれば正常である(WHO基準)。
[白井將文]
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…ここではヒトの精巣について述べる。左右1対,陰囊の中にあって,精子を産生,男性ホルモンを分泌する。それぞれソラマメくらいの大きさの扁平な楕円体で,胎生初期には腹腔内にあるが胎生7ヵ月ごろに精管とともに鼠径管(そけいかん)を通って陰囊内へ下降する。…
…
[生活史]
明瞭な世代交代を行う。すなわち,配偶子(卵細胞と精子)をつくる有性世代の植物体(配偶体)と胞子をつくる無性世代の植物体(胞子体)とが交互に繰り返される(図2)。われわれが普通に見る緑色の植物体が配偶体であり,胞子体は小さくて目だたず終生配偶体に付着しているので配偶体の一部のように見える。…
…雄の動物が産生し体外に放出する,精子を含んだ液体を一般に精液というが,ヒトでは性交,手淫,夢精などの性的興奮のもとに男性尿道口から射出される液体で,射精液ともいわれる。ただし,死体にみられる精液の漏出は生前の性的興奮を意味するものではない。…
…紅藻と他の藻類の一部および多くの菌類の配偶子は雌雄とも鞭毛を欠くので,不動配偶子aplanogameteと呼ばれる。また陸上植物,藻類の一部および動物では,大型の雌性配偶子は鞭毛をもたないので卵,小型の雄性配偶子は精子と呼ばれる。19世紀末にそれぞれ平瀬作五郎,池野成一郎によって精子が発見されたイチョウとソテツ類以外の裸子植物および被子植物の雄性配偶子は,鞭毛のない精細胞である。…
※「精子」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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