生物の種類、細胞の種類を問わず、細胞はすべてその最外表面に糖が結合しており、この種の層を細胞外被とよぶ。糖は単糖、少糖の場合もあるが、多糖質となっている場合もある。とくに細菌類、粘菌類を除く大部分の菌類、藻類、および陸上植物(コケ植物、シダ植物、種子植物の総称)では、数種類の多糖質が形成されて、よく発達した細胞外被の層となっている。このように多糖質を主成分としてよく発達している細胞外被をとくに細胞壁とよぶ。細胞壁は、古くは細胞膜とよばれていたが、現在では、細胞外被の発達の程度にかかわらず、すべての細胞の細胞外被のすぐ内側に、厚さ10ナノメートルのごく薄い膜のあることがわかったため、これを細胞膜とよび、細胞壁とは区別するようになった。人為的に原形質分離をおこさせたり、酵素で細胞壁を溶解して取り除いたりすると、細胞壁の内側に、それとは独立に細胞膜のあることが確かめられる。
細胞壁はいろいろの多糖質からできているが、大きく分けると、酸性の多糖質と中性の多糖質とになる。酸性多糖質は、陸上植物と緑藻植物ではペクチン(ポリガラクトウロン酸)、褐藻植物ではアルギン酸、紅藻植物ではキシラン、マンナン、ガラクタンの硫酸エステルなどであり、菌類ではマンナンのリン酸エステルが知られている。細菌類ではムラミン酸が代表的な酸性多糖質である。なお、酸性多糖質は、細胞外被が細胞壁として発達していない動物細胞の細胞外被にもかならず含まれているため、一般に細胞外被の本質的な物質であるということができる。細胞壁ではこれらの酸性多糖質のほかに、セルロース、キチンのような比較的単純な組成の多糖質、一括してヘミセルロースと総称されるさまざまの六炭糖、五炭糖からなる混成多糖質、およびタンパク質が付加されている(いずれも中性多糖質)。
多糖質はすべて枝分れの少ない鎖状の高分子であるが、細胞壁の中ではセルロース以外はすべて互いに結合しあって大型の籠(かご)状の超高分子の状態になっている。なお、タンパク質も糖タンパク質であり、これには酵素も含まれている。
以上は一次壁の性質であるが、維管束の道管、仮道管、厚膜細胞などでは、さらにリグニン、スベリン、クチンなどが沈着して二次壁となっている。これらはきわめて安定な高分子化合物である。リグニンの沈着は植物組織のいわゆる木化の原因となっている。
[佐藤七郎]
植物細胞の原形質膜(細胞膜)の外側を囲む被膜で,この構造をコルク組織の中に見いだしたR.フック(1665)は,はじめて生物学的な意味で細胞cellの語を用いた。細胞壁は植物細胞および組織の形態上重要な役割を果たし,また個体の支持強度を高めている。組織を構成する場合,その構造は組織分化の初期には隣接する細胞間の中層とセルロースを主成分とする一次細胞壁からなるが,成熟するにしたがって,その内側に他の成分が加わった二次細胞壁,さらに,ある組織ではセルロースよりもキシラン(キシロースを主体とする多糖の総称)が多い三次細胞壁が形成される。これら細胞壁の構造は,その化学組成や染色反応の違いとともに植物の系統分類の基準にもなっている。高等植物にみられる一次細胞壁の構成成分はセルロース(25~60%),ヘミセルロース(30~70%),ペクチン(5~25%)と少量のグリコペプチドである。セルロース細繊維(直径約25nm)の配列様式は細胞の種類や成熟段階によってさまざまで,細繊維構造の間を埋める他の成分を含む親水性ゲルとともに,細胞壁の力学的性質を決めている。また,セルロース細繊維構造の配列様式によって組織の生長のしかたが決まってくる。
細胞分裂に際して,娘細胞間を仕切る新しい細胞壁は,ゴルジ装置によってつくられ,分離してくるゴルジ小胞が,細胞を仕切る線上に配列し,融合してゴルジ小胞の内容(セルロースその他成分)を細胞間の隔壁とする新しい細胞壁を形成する。
→細胞
執筆者:腰原 英利
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[動物における形態形成]
動物の形態形成は植物のそれと基本的に異なるといってよい。植物細胞のようなじょうぶで厚い細胞壁cell wallのない動物細胞は,容易に形を変えたり運動して位置を変えたりすることができるからである。胚葉形成は動物個体の発生過程で最初におとずれる動的変化である。…
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[動物における形態形成]
動物の形態形成は植物のそれと基本的に異なるといってよい。植物細胞のようなじょうぶで厚い細胞壁cell wallのない動物細胞は,容易に形を変えたり運動して位置を変えたりすることができるからである。胚葉形成は動物個体の発生過程で最初におとずれる動的変化である。…
※「細胞壁」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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