精選版 日本国語大辞典 「細胞」の意味・読み・例文・類語
さい‐ぼう ‥バウ【細胞】
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生物体を構成する形態上の基本単位で、生命現象を表す機能上の最小単位でもある。細菌、下等藻類、原生動物などの単細胞生物は、一個の生命そのものであり、多細胞動植物の体は、種々の分化した細胞集団の統制と調和ある有機体である。一般に、生命現象を表す生物体であると判断する理由には、(1)細胞分裂による増殖、(2)細胞の分化、(3)エネルギー産生と物質合成(物質代謝)、(4)外部環境や内部環境からの刺激や変化に対する反応(被刺激性)、(5)運動性、などがあげられる。
[小林靖夫]
1665年、イギリスの物理学者R・フックが、コルクの薄片を顕微鏡で見て、多数の小部屋からできていることを認め、これを細胞cellとよんだ。ついで1674年に生きた細胞を最初に顕微鏡で観察したのは、オランダのレンズ磨きの達人レーウェンフックである。彼は精子、原虫、細菌、横紋筋、赤血球などを観察し報告した。イタリアの解剖学者マルピーギは各種の動物組織を観察した。彼の名を冠した腎臓(じんぞう)のマルピーギ小体(腎小体)、脾臓(ひぞう)のマルピーギ小体(リンパ小節)、表皮のマルピーギ層(胚芽(はいが)層)、昆虫のマルピーギ管(排出器官)などは有名である。1682年にイギリスの医師N・グルーは植物解剖学の大著を著し、植物細胞のきわめて精密な図を出している。1801年にフランスの解剖学者ビシャは、顕微鏡を用いず肉眼観察によって体の組織を21に分類し、組織学の創始者とされている。ついでドイツの植物学者シュライデンにより1838年に、動物学者シュワンによって翌1839年に「細胞説」が確立された。すなわち、(1)生物体はすべて細胞または細胞の生産物によって構成されている、(2)個々の細胞は生命を有し、それぞれ一定の寿命をもっている、(3)個々の細胞の生命は、生物個体の生命の下に置かれている、というものである。1866年にドイツの動物学者E・H・ヘッケルは系統樹をつくり、個体発生と系統発生の関係について生物発生の原則をたてた。スイスの動物学者ケリカーは、精子は寄生虫ではないことを示し、精子と卵子はともに単細胞であることを明らかにした。また、神経繊維が神経細胞の突起であることを明確にし、ノイロン説を確立した。ドイツの病理学者ヘンレは、腎尿細管のヘンレの係蹄(けいてい)の発見、および大脳の灰白質が神経細胞体を含み白質が主として神経繊維からなることを示したことで知られる。細胞学説に基づいて細胞病理学の体系を樹立したドイツの病理学者ウィルヒョウは、「細胞は細胞から生ず」Omnis cellula e cellulaという有名なことばを残し、細胞の基本的な働きを栄養、機能(運動、分泌など)、形成の三つに分けた。生物の自然発生の考え方を根本的に否定したのは、フランスの微生物学者パスツールである。まさに19世紀は細胞学の開花期であった。
核分裂の詳細な研究は、ドイツの植物学者シュトラスブルガー、同じくドイツの解剖学者W・フレミングによってなされた。オーストリアの修道院の司祭メンデルは、修道院の庭でエンドウの遺伝実験を行い、1865年発表のその論文は、遺伝学の基礎を定めた古典的なものであるが、その当時は価値を認められなかった。しかし、彼の得た遺伝の法則は、1900年にオランダのド・フリース、ドイツのコレンス、オーストリアのE・S・チェルマクによってそれぞれ再発見されるに及んで世の光を浴びるようになった。20世紀に入ってアメリカのT・H・モーガンは、ショウジョウバエの染色体および遺伝の研究を行い、メンデルの推定した遺伝要素が、染色体上に線状配列する遺伝子であることを明らかにして遺伝子説を確立した。さらに、近年では電子顕微鏡の開発により、19世紀後半の細胞学が超微細構造のレベルでふたたび見直されるようになった。
[小林靖夫]
生きている細胞をつくっている物質を原形質という。原形質は、細胞質と核質とからできている。細胞質(広義)には細胞膜と細胞質(狭義)が含まれ、核質(広義)には核膜と核質(狭義)が含まれる。現在では、原形質を構成する細胞膜(形質膜)、細胞質、核という語が用いられることが多い。
(1)細胞膜(形質膜) 厚さが約8ナノメートルで、三層構造の単位膜からなる。膜の表面には多糖類の糖衣が付着している。植物細胞の細胞壁は糖衣の高度に分化したものである。細胞膜には、細胞の境界、物質の輸送、膜内受容体による情報の受容、および興奮性などの働きがある。細胞膜の局所的分化として、微絨毛(びじゅうもう)、繊毛、接着装置複合体、ギャップ結合および隣接細胞どうしのかみ合いなどがある。微絨毛は、直径が約0.2マイクロメートル、長さが約1マイクロメートルで、小腸上皮細胞や腎臓の近位尿細管上皮細胞の管腔(こう)に向かう表面上に密生しており、上皮細胞の吸収表面を広くしている。繊毛は、呼吸器の上皮細胞や原生動物の表面などにみられ、繊毛運動を行う。接着装置複合体は、隣接する上皮細胞の表面近くを帯状に取り囲む構造で、光学顕微鏡で見た場合に閉鎖堤とよばれるものである。これは単一の構造ではなく、閉鎖小帯、接着小帯、接着斑(はん)(デスモゾーム)の3種の構造要素からできている。ギャップ結合は、電気シナプスまたはネキサスともよばれ、隣接細胞間に電気的興奮の伝わる部分で、平滑筋細胞や心筋細胞にみられる。細胞のかみ合いとは、隣接する細胞が互いに指を組み合わせたように細胞膜のひだを絡ませて接着する結合様式で、心筋細胞の介在板や小腸上皮細胞にみられる。
(2)細胞質 この中には小胞体、ゴルジ装置、リソゾーム(水解小体)、ミクロボディ(ペルオキシゾーム、過酸化酵素小体)、ミトコンドリア、中心子、被覆小胞などが含まれる。小胞体は、小管または袋の形をした膜構造が互いに連絡して網目状をしており、形や大きさは細胞の機能状態によって異なる。植物細胞の液胞や原生動物の収縮胞も小胞体に由来する。小胞体にリボゾーム(リボ核タンパク質顆粒(かりゅう))が付着しているものを粗面小胞体、リボゾームが付着していないものを滑面小胞体とよぶ。核膜と粗面小胞体が連続していることがあるが、これは粗面小胞体が核膜由来であることを示す。また、滑面小胞体は粗面小胞体が変化してできるといわれている。粗面小胞体は、タンパク性分泌物を合成する細胞によく発達しており、小胞体に付着していない遊離リボゾームは、細胞自身によって利用される構造タンパク質の合成を行う。グリコーゲン顆粒や脂肪滴は滑面小胞体の発達した細胞に多くみられる。すなわち、滑面小胞体は、コレステロール代謝、グリコーゲン分解、脂溶性物質の分解・解毒などの働きがある。ゴルジ装置は、扁平(へんぺい)な袋状の膜が数層に積み重なったゴルジ層板と、ゴルジ空胞およびゴルジ小胞の3要素からできており、主として分泌顆粒の形成、多糖類の合成、リソゾームの形成などの働きがある。ミクロボディは、過酸化に関係した小体という意味でペルオキシゾームともよばれる。動物だけでなく植物にも存在することが知られ、植物ではグリオキシゾームともよばれる。大きさは約0.5マイクロメートルで、ほぼ球形をしており、過酸化水素の産生と分解がおもな働きである。ミトコンドリアは、内外2枚の膜と二つの腔からできている。外側の膜は外周を包み、内側の膜は内腔に向けてクリスタとよばれる板状の落ち込みをつくる。ミトコンドリアの外形やクリスタの形状は細胞の種類によって異なる。ミトコンドリアの内膜には電子伝達系とATP(アデノシン三リン酸)合成を行う酵素系が存在し、ミトコンドリアの基質にはクエン酸回路の酵素系が存在する。緑色植物と藻類に存在する葉緑体は、光合成を行う小器官で、内外2枚の膜と、扁平な袋の重なりである内膜系からできている。また、白色体は根、地下茎、胚細胞にみられ、デンプン粒を含んでいる。中心子は、有糸核分裂のときに相対する細胞極に移動して紡錘糸をつくる。植物細胞では、中心子はコケ、シダ、ソテツなどの鞭毛(べんもう)をもった精細胞に認められる。繊毛は、細胞表面に集まった中心子からできたもので、繊毛の基底部にある中心子は基底小体とよばれる。被覆小胞は、細胞の取り込みに関係する。
微小管は直径約25ナノメートルで、ほとんどの細胞に存在し、とくに細胞分裂の際は紡錘糸として多量に認められる。微小管は細胞内物質の移動に関係し、細胞内骨格としての働きもある。細胞内繊維には、筋原繊維、神経原繊維、上皮原繊維などがある。骨格筋の筋原繊維にはアクチンとミオシンの2種類の細繊維があり、周期性のある横紋構造を示す。神経原繊維は、神経細胞の細胞体や突起の中にみられ、細胞の支柱装置と考えられている。皮膚の表皮細胞内には上皮原繊維(張原繊維)が細胞質を満たしており、表皮細胞の角化に関係している。
(3)核質 単に核ともよび、核質(広義)は核膜と核質(狭義)とからなる。休止核は内外2枚の膜で包まれ、外膜の表面にはリボゾームが付着している。核分裂の終期に核膜がふたたびつくられるときは小さな小胞体が娘核(じょうかく)の周りに集合し、それらが癒合して新しい核膜ができる。すなわち、核膜は小胞体からつくられる。核膜には直径約50~80ナノメートルの核膜孔があり、核質と細胞質は核膜孔を通して連絡している。核膜を除いた狭義の核質は染色質(クロマチン)と核小体および核基質とからなる。染色質はDNA(デオキシリボ核酸)とタンパク質からできており、塩基性色素に染まる。染色部分はDNAが凝集した不活性な部分である。活発に機能しているDNAは、ほぐれて広がっているため塩基性色素にはほとんど染まらず、核質の明るい部分として認められる。核小体は核質の中で網目構造の部分と無構造の部分とからなり、多量のRNA(リボ核酸)を含む。核小体ではリボゾームRNAがつくられる。
[小林靖夫]
細胞には、原核細胞(前核細胞)と真核細胞(有核細胞)とがある。すべての細菌と藍藻(らんそう)植物は原核細胞であり、その特徴は、(1)核膜がない、(2)染色体は1個で有糸分裂は行わない、(3)ミトコンドリアや葉緑体などの細胞小器官の分化はない、(4)形質膜が細胞内に入り込みメソゾーム(渦状の膜構造)を形成している、などである。これに対して真核細胞は、核膜に包まれた核をもち、有糸分裂を行う、といった特性がある。細胞の大きさは、一般に10~20マイクロメートルの直径をもつものが多く、もっとも小さい細胞はマイコプラズマとよばれる単細胞生物で、直径が0.1~0.25マイクロメートルである。アメーバは直径が100マイクロメートルもあり、ヒト坐骨(ざこつ)神経の細胞突起は1メートルに達するものがある。ダチョウの卵は17×13.5センチメートルもあり、最大の体積をもつ細胞である。体の大きさと細胞の大きさには関係がなく、たとえばゾウとマウスの肝細胞の大きさはほぼ同じである。発生の間に細胞は特定の構造と機能をもつ細胞に分化する。動物の細胞には、体表面を覆う上皮細胞、支持組織を構成する繊維芽細胞や骨細胞、筋肉組織の筋細胞(筋繊維ともいう)および神経組織の神経細胞などがある。
[小林靖夫]
生体内の細胞は、DNA合成能から次の3群に分けられる。(1)神経細胞のようにDNA合成も細胞分裂もしない静細胞群、(2)肝細胞や腺(せん)細胞のように一部の細胞がDNA合成と分裂を行う成長細胞群、(3)小腸上皮細胞、造血細胞、表皮細胞、精子のように絶えず新しい細胞を交代している更新細胞群、である。細胞分裂には、体細胞分裂と生殖細胞の減数分裂(還元分裂)とがある。体細胞の有糸分裂では、分裂間期(休止期)と分裂期とに分けられる。分裂間期に核の中のDNAが合成されて2倍になり、続いて分裂期に突入する。まず分裂前期では、核の中の染色質は一定数の染色体(ヒトでは46個)の形をとる。分裂中期には、染色体は赤道面に紡錘糸に垂直に並ぶ。核膜は消失し、中心子は両極へ移動する。分裂後期には、染色体は縦裂し、動原体に付着した紡錘糸に引かれて両方の極へ移動する。分裂終期には、娘染色体は輪郭が不明瞭(ふめいりょう)となり、核膜および核小体がふたたび現れる。細胞分裂に要する時間は、細胞によりまちまちである。哺乳(ほにゅう)動物の培養細胞では、15~24時間に1回分裂するが、そのほとんどは分裂間期で、分裂期は3分~2時間といわれる。
減数分裂は、精子または卵子を形成するための細胞分裂で、第1分裂と第2分裂とから構成されている。この2回の分裂により生殖細胞の染色体は半数体となり、DNAは半減する。半数体の精子と卵子は合して発生を開始し、細胞は元の倍数体となる。ヒトでは、卵巣の卵母細胞は出生前に分裂を停止し、第一減数分裂の前期の状態で出生する。その後、思春期に達して排卵がおこるまで、少なくとも十数年間は分裂前期のまま卵巣の中に潜んでいる。
ヒト胎児の培養繊維芽細胞は、約50回の分裂で死滅する。すなわち、細胞には寿命がある。ヒト子宮の腫瘍(しゅよう)細胞であるヒーラ細胞が1952年以来世界中で継代培養されているのは例外である。細胞の寿命の原因としては、遺伝子の中に寿命のプログラムが組み込まれているという説、DNAの複写に誤りを犯すという説、DNAに傷がついて老化するという説、核内のヒストンというタンパク質がDNAの働きを抑えるという説、細胞内に老廃物が蓄積して老化するという説、DNAやRNAの情報の転写や翻訳に誤りをおこすという説などが考えられている。
[小林靖夫]
『黒住一昌他編『細胞学大系1 概説 細胞膜』(1972・朝倉書店)』▽『浜清著『岩波講座 現代生物科学3 細胞の構造と機能Ⅰ』(1975・岩波書店)』▽『藤田尚男・藤田恒夫著『標準組織学 総論』第2版(1981・医学書院)』▽『小川和朗著『細胞――しくみとはたらき』(1981・朝倉書店)』▽『八杉龍一・小関治男・古谷雅樹他編『岩波 生物学辞典』第3版(1983・岩波書店)』
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(垂水雄二 科学ジャーナリスト / 2007年)
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生命体の基本単位で,分裂によって増殖できる.細胞膜で覆われており,内部にDNAとその収納装置,タンパク質合成装置,エネルギー変換装置,異物分解装置などの細胞内小器官,さらには物質代謝系や細胞内の物質輸送系を備えている.核の有無により,真核細胞と原核細胞に分類される.真核細胞(約10 μm)に比べて原核細胞(約1 μm)は小さい.葉緑体や液胞や細胞壁の有無により,動物細胞と植物細胞が区別される.同じ動物細胞でも筋肉細胞や神経細胞,さらには接着性の細胞や血球のような浮遊性細胞など形態・機能ともに多種多様であり,数百種類に及ぶ.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
出典 株式会社平凡社世界大百科事典 第2版について 情報
…光,熱,化学エネルギーなどを電気エネルギーに変換する装置。化学電池と物理電池に大別される。化学電池は電気化学反応を利用して化学エネルギーを電気エネルギーに変換する装置で,単に電池といった場合は通常化学電池を指す。ほとんどの化学電池では,装置に用いられる化学物質に必要なときだけ化学反応を起こさせて電気エネルギーを取り出すことができるので,電気エネルギーの貯蔵装置にもなる。これに対し,物理現象を利用して他の形態のエネルギーを電気エネルギーに変換する装置が物理電池で,太陽光エネルギーを電気エネルギーに変換する装置は太陽電池と呼ばれ,放射線のエネルギーを電気エネルギーに変換するのが原子力電池である。…
…スベリンはヒドロキシ脂肪酸を中心成分とする高分子化合物で,フェノールも含む。スベリンが細胞壁の内側にへばりついているため,それら細胞の集合体であるコルクは上記の性質を示す。保冷庫の断熱材,卓球のラケット,靴底など用途は広い。…
…
【生物における死】
死とは,生体系の秩序ある制御された形態と機能が崩壊することである。本来は生物個体が生命を失うことの概念であるが,種・個体群や器官,組織,細胞,原形質などの系についても考えられている。老衰による死,つまり寿命が尽きるまで生存する個体は自然ではまれで,多くの個体は捕食,病気,飢餓,気候,事故などの外的要因で死亡する。…
※「細胞」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社世界大百科事典 第2版について | 情報
少子化とは、出生率の低下に伴って、将来の人口が長期的に減少する現象をさす。日本の出生率は、第二次世界大戦後、継続的に低下し、すでに先進国のうちでも低い水準となっている。出生率の低下は、直接には人々の意...
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