綿(読み)ワタ

デジタル大辞泉 「綿」の意味・読み・例文・類語

わた【綿/×棉/草綿】

アオイ科ワタ属の植物の総称。古くから重要な繊維作物として栽培され、アジア綿めんエジプト綿海島綿陸地綿などがある。日本では江戸時代から盛んになった。栽培されるのはインドワタの変種で、一年草。高さ約1メートル。葉は手のひら状に三~五つに裂ける。夏から秋に、黄や紅色の5弁花が咲く。果実は卵形で、褐色に熟すと裂開し、中の多数の種子に生じた白く長い毛が露出する。この実綿みわたを摘み取り、毛(綿花)と種子(綿実めんじつ)とに分けて利用する。 花=夏 実=秋》「―の実を摘みゐてうたふこともなし/楸邨
木綿綿もめんわた真綿絹綿化学繊維綿などの総称。古くはの繭からとった真綿をさしたが、木綿が普及してからは主に木綿綿をさすようになった。綿織物などの紡績用や布団綿・中入れ綿・脱脂綿などに利用。 冬》「―を干す寂光院垣間かいま見ぬ/虚子
[下接語]厚綿石綿入れ綿薄綿打ち綿青梅おうめ綿置き綿菊のきせ綿着せ綿絹綿木綿繰り綿小袖こそで綿すそ綿種綿血綿摘み綿とう綿中綿抜き綿引き綿含み綿布団綿穂綿丸綿真綿木綿もめん綿ゆい綿

めん【綿】[漢字項目]

[音]メン(呉) [訓]わた
学習漢字]5年
〈メン〉
もめん。わた。「綿糸綿布海綿原綿純綿石綿木綿もめん脱脂綿
(「」と通用)植物の名。ワタ。「綿花綿実油
連なるさま。「綿綿纏綿てんめん連綿
目が細かい。「綿密
〈わた〉「綿毛真綿
[補説]「緜」は本字。
[名のり]つら・まさ・ます・やす
[難読]水綿あおみどろ浜木綿はまゆう木綿ゆう

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精選版 日本国語大辞典 「綿」の意味・読み・例文・類語

わた【綿・棉・草綿・絮】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 真綿、木綿(もめん)などの総称。衣類、布団などに用いる。古くは蚕(かいこ)から製する真綿(絹綿)を用いたが、戦国時代から江戸時代にかけて植物のワタから製する木綿綿(木綿)が普及した。現代では、化学繊維から製するものもある。《 季語・冬 》
    1. [初出の実例]「しらぬひ筑紫の綿(わた)は身に着けていまだは着ねど暖けく見ゆ」(出典:万葉集(8C後)三・三三六)
    2. 「砂金一千両、富士の綿二千両、法皇へ進上ぜらる」(出典:平家物語(13C前)三)
  3. アオイ科ワタ属の植物の総称。熱帯を中心に四〇種くらいある。草本または木本。高さ〇・六~一メートル。葉は互生し、葉身は掌状に三~九裂する。花は白、黄また紫色の五弁花で、葉腋につく。花後、苞に包まれた卵形の果実を結ぶ。果実は熟すと三~五裂して楕円形の黒い種子を露出。種子をおおう黄褐色の長毛を紡績用にする。また種子から綿実油をとる。繊維植物として古代から世界中に栽培され、リクチメン・アジアワタ(メン)・カイトウメン・エジプトメンなどがある。日本には平安初期にアジアワタが伝わったことがあるがすぐ絶え、戦国時代から江戸時代に一般に栽培されるようになった。明治時代に日本で栽培されたワタはリクチメンである。漢名に草綿をあてる。

▼わたの花《 季語・夏 》

  1. [初出の実例]「有一人小船、漂着参河国、〈略〉大唐人等見之、僉曰、崑崙人〈略〉閲其資物、有草実、謂之綿種」(出典:日本後紀‐延暦一八年(799)七月是月)
  2. ( 絮 ) 植物の種子についている細い糸のような毛。に似ていることからいう。風に乗って飛び、種子を運ぶ。
    1. [初出の実例]「柳〈略〉蕊落而絮(ワタ)出如白絨(けをり)風而飛」(出典:和漢三才図会(1712)八三)
  3. 柔らかいこと、また、心や人あたりの柔らかい人のたとえ。
    1. [初出の実例]「お侍様は屹とした様で、然も御心が綿(ワタ)で、馴染(なじみ)ます程心が打解け」(出典:浮世草子・風流曲三味線(1706)四)
  4. 疲労した様子をたとえていう。→綿(わた)のよう
    1. [初出の実例]「口のこはい荒馬でも、一責(せめ)では乗伏せてわたにする」(出典:浄瑠璃・浦島年代記(1722)一)

めん【綿】

  1. 〘 名詞 〙 綿糸(めんし)。また、綿織物。
    1. [初出の実例]「あるひは綿、あるひは扇等の物子これを俵す」(出典:正法眼蔵(1231‐53)看経)

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「綿」の意味・わかりやすい解説

綿
わた

棉とも書く。綿の繊維は被服材料を主に綿織物、充填(じゅうてん)材(詰め物)および衛生材料に用いられる。ワタは植物分類学上ではアオイ科に属しアメリカワタ、エジプトメン、ペルーメン、ブラジルメン、アジアメン(インドメン、中国メン)などがある。

 ワタはだいたい0.6~1.2メートルに生育し花をつける。実は蒴果(さくか)で、これが成熟すると割れて真っ白な種子毛繊維(綿花(めんか))が現れる。これを摘み取り、種子と繰り綿とに分離し、さらに種子についている短い繊維をとる。この短い繊維はコットンリンターといい、レーヨンアセテートの原料として用いられる。種子からは綿実油(めんじつゆ)をとる。繰り綿はほぐされ、古くは綿打ちを行ったが、近年はカード打ちにより莚綿(えんめん)し、ふとん衣服の充填材などに用いられる。綿繊維はセルロース(繊維素)からなり、繊維長は短いもので25ミリメートル、長いもので40ミリメートルである。長い繊維は細く、短い繊維は太い。太く短い繊維はふとん綿、中入れ綿に用い、細い繊維は青梅綿(小袖(こそで)綿)に用いる。綿繊維の形態は両端がやや厚く扁平なリボン状をしており、緩やかなねじれがある。ねじれは紡績のとき柔軟性をもち可紡性を高め、中空は気孔率を高くし保温性を増す。さらに吸湿性、吸水性があり、大気中の状態に適応する特徴がある。細く長い繊維は糸に紡ぐのに用い、綿織物の織糸として用いる。また強度はかなり大きいが伸度は小さく、乾いた標準状態よりもぬれた状態のほうが強度が大で、洗濯に対してじょうぶである。「わた」は綿花の輸入以前はほとんど真綿(繭綿)をさしていた。綿花は平安時代初期に大陸より伝わったとされているが、まもなく中絶した。15世紀中ごろ、中国大陸、南蛮よりワタの種が入ってきて試作され、近世中期には東北、北陸を除いて全国的に普及した。とくに尾張(おわり)、三河、瀬戸内(讃岐(さぬき)、伊予、安芸(あき)など)、河内(かわち)、摂津で集荷され、その組織も整うようになった。しかし1896年(明治29)には、外国よりの綿花の輸入に押されて生産が止まり、それ以後は今日に至るまですべて輸入に頼っている。

 綿には木綿綿(もめんわた)のほかに、真綿、絹綿、羊毛綿カポック綿(パンヤ)、合繊綿、羽毛などがある。真綿は、玉繭を煮て方形または袋状に延ばしたもので、繊維が強く、切れることがなく、光沢があり、保温性に富んでいる。敷真綿として用いられる以外に、近年背中の大きさくらいにした袋真綿が、防寒用として老人などに好まれている。絹綿は、繭のけばや屑繭(くずまゆ)を用いたもので、保温性に富み軽く、掛けぶとんに用いるとよい。羊毛綿は、梳毛(そもう)を用い防虫加工をしたもの。弾力性、保温性が大きく掛けぶとん用に向く。カポック綿は「きわた」ともいい、インド、熱帯アフリカ、南アメリカに産する低木カポックノキの種子毛繊維で、紡績の原料としては不向きである。おもに枕(まくら)、クッション、椅子(いす)などの家具用の詰め物に用いる。また弾力性に富み、比重が小さいので、救命具の詰め物に用いられている。合繊綿には、テビロン綿、ナイロン綿、アクリル綿、ポリエステル綿などがあり、軽量で容積が大きく、含気性に富み保温性が大きいが、圧縮性が大きく、また耐熱性が低いなどから敷きぶとん、こたつぶとんには向かない。もっぱら掛けぶとん用として用いられる。

 木綿綿は充填材(詰め物)、綿織物(縞(しま)木綿、絣(かすり)木綿など)、衛生・医療用の脱脂綿として用いられる。なお工業用として、別にロックファイバー(岩綿)、アスベスト(石綿)、ガラス繊維の綿などがある。

[藤本やす]

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百科事典マイペディア 「綿」の意味・わかりやすい解説

綿【わた】

紡織用以外の綿は,主として充填(じゅうてん)材料とされる。綿花による木綿綿が最も多いが,絹綿,パンヤ(カポック),羊毛綿や,近年は化繊綿も用いられる。木綿綿は保温力があるが弾性はやや乏しく,長い間にはかたまるので,日光に干したり打直しをする必要がある。蒲団,座蒲団,着物の中入綿などに適する。絹綿は繭の表面の毛羽を主原料にしたもので,軽くて暖かいが,かたまりやすく,高価である。掛蒲団,丹前などに利用される。屑繭(くずまゆ)をのばしたものは真綿(まわた)という。羊毛綿は保温性,弾性,耐久性にすぐれているが高価である。化繊綿は一般に強くて弾性がある。吸湿性に乏しいが水にぬれてもかたまらず丸洗いもできる。打直しの必要はほとんどない。軽くて保温性に富むので掛蒲団に適する。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「綿」の意味・わかりやすい解説

綿
わた

綿毛状のままで詰め物や衛生材料などに用いられるものの総称。天然繊維のものには,木綿綿,絹綿,真綿,カポック (パンヤ) 綿,羊毛綿などがあり,化学繊維系では,スフ綿,ナイロン,レーヨン,ポリプロピレンなどの化繊綿がある。それぞれ,ふとん綿,中入綿 (和服用) などのほか,クッション,枕,キルティングなどに用いられる。その良否は,弾力があり,復元性がよく,腰が強くて,引張っても綿のかたまりが切れにくく,光沢があるなどを目安とする。

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動植物名よみかた辞典 普及版 「綿」の解説

綿 (ワタ)

学名:Gossypium arboreum
植物。アオイ科の一年草,園芸植物,薬用植物

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世界大百科事典(旧版)内の綿の言及

【綿圃要務】より

…2巻。本書は綿の栽培全般について,とくに気候や土壌などの自然条件や収穫高を左右する品種,播種量,播種期,施肥,綿木の仕立て方などを重視する。さらに当時の日本の産地の中心地であった和泉・大和・河内の近畿や播磨・備中・備後の瀬戸内の綿作地の特色にふれ,江戸時代綿作の農書のうち最高水準の内容である。…

※「綿」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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