翻訳|tension
心理学用語。元来、力学や生理学で用いられていた緊張という概念を、心理学の用語として用いることを始めたのは、ジャネやフロイトなど、人間の心理的機能や意識を力動的に把握しようとする医学・心理学者たちで、ほぼ20世紀の初頭のことである。同じころ正統的な心理学の世界でも、ブントは、生理的緊張に伴う緊張感覚や、感情を構成する次元の一つとして、「緊張―弛緩(しかん)」の軸について記述している。1920年代にドイツに勃興(ぼっこう)し一世を風靡(ふうび)したゲシュタルト心理学の諸理論のなかで、レビンは、前述のフロイトの力動的パーソナリティー理論の影響を受けたと思われるパーソナリティーの力学説を展開した。以下レビンの学説のなかで、緊張という用語がどのように用いられているかを説明する。
[細木照敏]
レビンは個体の行動を、個体内に生じる欲求と、環境内にあってこれらの欲求の目標となる誘因との間に成立する心的力のベクトルの力動的合成として表現することを試みた。つまり、個体のなかになんらかの欲求があり、環境の側にそれに対応する誘因があるとき、その個体を含む心理的な場に力学的不均衡が生じ、そこから均衡を回復しようとする傾向が生じる。これが緊張であり、このような力の場を緊張体系という。緊張は、行動が解発され欲求が充足されれば解消するが、もしそれが障壁のため阻止されれば、いつまでも体系内に残存して欲求不満状態(フラストレーション)を発生する。慢性的なフラストレーションは白昼夢などの代償や、怒り、攻撃などの情動暴発など、なんらかの病理的行動に陥ることが多い。
以上がレビンによる緊張の説明であるが、このような構成概念としての緊張と、われわれが日常常識的なレベルで用いる緊張との間には多少の隔たりがある。
[細木照敏]
われわれは、公衆の面前で話をする際の緊張、長上や権威のある人と面接する際の緊張、さらには選抜試験受験の際の緊張などを口にする。これらの緊張ないし緊張感は複雑な感情の合成体で、かならずしも画一的に論じることは無理であるが、共通する因子として、成功・失敗に関する強い自意識、周囲の人々のまなざしに対する過敏なとらわれ、それに不安感などが複雑に絡み合った感情コンプレックスが考えられる。性格類型的には、完全癖が強く、一方では自分のすることに自信がもてない「自己不確実性格者」は、このような緊張感をもちやすいといわれている。
社会心理学においては緊張を衝突への傾向としてとらえている。それが高まることにより、家族、種族、国家、体制などの内部や相互の間に有害な結果が発生するので、緊張解消のための早期の介入が必要である。
[細木照敏]
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