本来は書籍,雑誌,新聞などを刊行するさい,企画からその原稿の依頼,入手,整理,割付け,あるいは校正,装丁などを含む一連の作業を意味するが,現代ではこの意味が拡大してラジオ,テレビ,映画なども含めて伝達素材を一定の方針にもとづいてそれぞれの媒体に適合するように一定の形式と秩序のもとに整序,配列する作業をも含むようになった。かつて〈編集〉は〈編輯〉という文字が用いられていた。〈輯〉は車輪の中心に車輻があつまって車輪をなすさまを表しており,動詞としては,あつめるという意味があるため,〈編輯〉という字が用いられた。この言葉が法制の上で最初に用いられたのは1873年の〈新聞紙発行条目〉であった。第2次大戦後,当用漢字の普及とともに〈編集〉と表記されるようになった。これは輯の代用漢字として集が使われたものである。
編集に際しては,膨大な素材を空間的にも制限のある一定の形式の中に効果的に配列しなければならない。たとえば映画では,監督とは別の人間が撮影しただけで未整理のフィルムの不要な部分をカットしながら,一定の時間枠に収め,カットを効果的につなげて,その映画の表現意図が的確に観客に伝わるようにくふうする。同じことは,放送の録音テープやビデオテープの編集についてもいえる。さらに広い意味での編集に属する作業としては,音楽の編曲,美術におけるグラフィック・デザインなどもある。
しかし,新聞,雑誌,書籍など印刷媒体に限定して〈編集〉を考えた場合,〈編集〉はもっと広い意味をもっている。すなわち,新聞の場合は,ニュースの取材,報道,整理にあたる部局は編集局とよばれており,新聞の編集は,ニュースを取材して記事を書き,その記事を紙面に割り付けて整理する段階までを総称している。
同じことは雑誌,書籍など出版物の編集にもいえる。出版とは,思想または感情を創作的に表現した著作物を印刷術その他の機械的方法によって各種の出版物として複製し,読者に頒布することにより社会的なコミュニケーションを行うことである。このうち著作物を印刷にまわす段階まではいわゆる編集という作業が行われる。
その場合,出版における編集は新聞と違い,まず出発点にあるのは企画で,どの執筆者にどういう内容の著作物を書いてもらうかを編集者が企画する。そして原稿を依頼し,入手した原稿を吟味し,企画にそった内容であることを確かめたうえで,読者が読みやすいように整理し割り付け,さらに書籍の場合は著作物の内容に合った装丁を決め,印刷に原稿をまわし,ゲラ刷りで校正をし,出版物の体裁にまとめる。これらの仕事は,すべて編集とよばれ,これまで一人の編集者が行ってきた。しかし最近では,中小出版社ではそのようなシステムが残っているが,大きな出版社になると,企画から原稿依頼・入稿までと,整理・割付けの段階を分けて分業化したり,整理・割付けを外部の編集プロダクションに依頼したりするシステムをとっているところが多い。また,エディターeditor(編集者)とプロデューサーを合体したエデュサーという名前でよばれる編集者もあらわれている。
編集という仕事が職業として独立するのは日本では歴史的には明治以降,近代的な出版が成立して以後のことである。なかでも《中央公論》の主幹を勤めた滝田樗陰(1882-1925)などは独立した〈編集者の先駆者〉といえる。これに対して江戸時代では,著作家と編集者はまだあまり分離されておらず,滝沢馬琴などは,自分の著作の挿絵にどんなものが適切かをみずから画工に指示したりしている。このような未分化な状況にあった著作家と編集者の関係が近代ジャーナリズムの成立と発展とともに分離し,互いが独立することによって,編集者の職能も明確になり,編集者はたんに著作家から原稿を受け取るだけでなく,著作家がよりよい原稿を書けるように刺激を与え,助言する能力も要求されるようになった。その意味で,編集は著作活動と対等の創造性をもっている。なお英語では編集ということばにeditとcompileとの二つがあり,editは原則として著作物の改変,修正,削除,注記などの権限を伴い,compileには著作物に手を加えず,そのまま整理・配列するという意味がある。
執筆者:植田 康夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
本来、編集とは印刷物に関して使われることばであり、書籍、雑誌を物的に生産する以前の段階、「企画をたて、素材を収集し、整理し、構成する知的労働の過程」と定義できる。新聞では、広義には取材を含む編集局に属する作業をいうが、狭義には送られてきた情報を整理し、紙面に構成する部門の活動をさす。映画においては、撮影者のネガ・フィルムを現像したポジのラッシュ・プリントを台本どおりに場面ごとに粗(あら)つなぎし、その後監督の指示に従って細部を処理する作業をいい、多少ニュアンスが異なっている。
編集ということばは一般家庭でも用いられるようになった。8ミリフィルム、音声テープ、ビデオテープなどを一定の方針のもとに映像や音声を取捨選択し、つなぎあわせ、タイトルを入れ、一つのパッケージとして完成させる。あるいは素材となる写真を選び、引伸しの大小、貼(は)る位置を勘案し、それぞれにキャプション(説明文)を付し、総タイトルをつけてアルバムを作製する。そしてできあがった作品を家族、友人の視聴、閲覧に供する。その作業を人々は編集とよんでいる。そこには出版社、新聞社、映画会社、テレビ局において、いわゆる編集とよばれる作業の要素が含まれている。「編集」という英語editingの語源はto give out, publishすなわち公にすること、発表することであり、そのための準備作業をいう。専門職能を意味する編集ということばが普及したのは、テクノロジーの発達によって、それだけ大衆化したということである。
編集する者を意味するeditorは編集長、各部の部長、論説委員をさし、発行者publisherも含まれることがある。editor in chief, chief editorには編集局長、論説主幹をあてるのに対し、出版社・雑誌社で編集業務に従事する一般の人々はeditorial staff, assistant editorとよばれるが、この種の人を含めてすべてエディター、編集者というようになっている。徳富蘇峰(そほう)、田口卯吉(うきち)は主張をもって、それぞれ『国民之友』『東京経済雑誌』を創刊し、自ら企画をたて、社説を書いた編集者である。ジャーナリズムの形成期、新聞社・出版社の創業期、もしくは小規模出版社にはこの型の編集者が出現する。第二次世界大戦後においても、『暮しの手帖(てちょう)』の花森安治(はなもりやすじ)をはじめ、この型の編集者は多数存在した。もう一つの型は『中央公論』の滝田樗陰(ちょいん)であろう。滝田は雇われ編集者であったが、その企画力によって編集の全権をゆだねられ、雑誌の部数を著しく伸ばした。彼は売上げ部数によって歩合をもらい、大正中期にはその額が2000円にもなったという。庶民には100円がめったに手に入らなかった時代である。雑誌、書籍、新聞がより商業主義的に販売され、発行元の経営規模が大きくなり、編集が経営から分化し、企業内で専門化してくる時代の編集者として、滝田は先駆的存在であった。『文芸春秋』の池島信平もこの型の編集者であろう。
[京谷秀夫]
『岩崎勝海著『出版ジャーナリズム研究ノート』(1965・図書新聞)』▽『山田宗睦著『職業としての編集者』(三一新書)』▽『杉森久英著『滝田樗陰――ある編集者の生涯』(中公新書)』
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
出典 図書館情報学用語辞典 第4版図書館情報学用語辞典 第5版について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…そのメカニズムはおおむね以下のとおりである。
[企画編集]
出版社はどのような本を出版するかについて,社独自の企画方針をもっている。学術書に限るとか,もっぱら文芸書を中心とするとか,家庭用実用書を柱にする,というようにである。…
※「編集」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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