狂言の曲名。太郎冠者狂言。大蔵,和泉両流にある。主人は博奕(ばくち)に負けて無一文になり,召し使う太郎冠者を借金のかたとして,相手方の何某(なにがし)に差し向けることにする。太郎冠者にはそのことを知らせず,ただ手紙を持たせて何某につかわす。何某は手紙を読み,主人との勝負に勝って汝を質に取ったと言い,縄ないなどを命ずるが,初めて真相を知った太郎冠者は,腹がおさまらず,反抗して働こうとしない。何某はもてあまして主人に掛け合い,いったん冠者を戻すことにする。帰宅した冠者はまず主人の博奕好きを戒めるが,縄ないを命じられると喜んで応じ,縄をないながら何某とその家族の悪口を言いつのる。陰で聞いていた何某が現れ,逃げる冠者を追い回す。登場は主人,太郎冠者,何某の3人で,太郎冠者がシテ。縄をないながら,悪口雑言のかぎりをつくす仕方話が中心で,ほとんどシテの独演のうちに太郎冠者の人間像が活写される。
執筆者:羽田 昶
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
狂言の曲名。太郎冠者(かじゃ)狂言。博打(ばくち)に負けた主人が召使いの太郎冠者まで打ち込んでしまい、冠者を相手方の何某(なにがし)のところへやる。何某から初めて事情を聞かされた冠者は、使いや縄綯を命じられてもすねて働こうとしない。怒った何某が主人にかけ合いに行くと、主人は自分が働かせてみせるから一度だまして帰してほしいというので、何某はまた一勝負し今度は取り戻されたと偽って冠者を返す。喜んで帰宅した冠者は、主人に縄綯を命じられると素直に綯い始め、後ろで縄尻(なわじり)を持つ主人に、何某の家のようすを語る。何某の内儀の悪口から子供をいじめた話になってふと振り向くと、いつのまにか主人が何某に入れ替わっている。驚いて逃げる冠者を何某が追い込む。冠者の仕方話の悪口雑言を観客がさほど不快に感じないのは、冠者の置かれた情況に同情を覚えるからであろう。
[林 和利]
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