改訂新版 世界大百科事典 「縛られたプロメテウス」の意味・わかりやすい解説
縛られたプロメテウス (しばられたプロメテウス)
Promētheus Desmōtēs
アイスキュロス作のギリシア悲劇。制作,上演年代不詳。巨人神プロメテウスは人間に火を与えたかどで主神ゼウスの怒りをかい,スキュティアの岩山に縛られるが,自己の正義を主張し毅然としてゼウスの暴力に反抗する。そのため彼に同情を寄せる合唱隊,オケアノスの娘らとともに奈落に突き落とされる。彼が〈人間の持つ技術(テクネー)は皆プロメテウスの贈物たるを知れ〉と誇らかに言うせりふはことに有名である。この悲劇は,現存していない《解かれたプロメテウス》《火を運ぶプロメテウス》とともに〈プロメテイア三部作〉を構成,その第1部であったと考えられる。この悲劇の韻律,措辞,そして特に非道な神として描かれているゼウス像をめぐって,これがアイスキュロスの真作かどうかの久しい議論があり,現在も決着をみたとは言いがたい。ゼウス像については,この悲劇がアイスキュロスの真作だとする立場から,第2部でこの神が他の現存作品に描かれたような正義の神に発展を遂げ,その結果プロメテウスとの間に和解が成立したとする有力な説がある。少なくともこの作品の宇宙大のスケールは,真にアイスキュロス的というにふさわしいものである。
執筆者:川島 重成
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報