老荘思想(読み)ろうそうしそう

百科事典マイペディア 「老荘思想」の意味・わかりやすい解説

老荘思想【ろうそうしそう】

老子荘子哲学を奉じる道家および後世思想文化の総称。魏晋時代には老荘思想を体現するために隠逸・逸民となり,権勢利欲の世界からのがれて琴酒諷詠の文人生活を送る者がいた。これは陶淵明竹林の七賢などの文人に代表される。また老荘の無為自然の道を物質生活の面で理解した人びとは,神仙説不老長寿道教の福・禄・寿的富貴繁栄を希求した。さらにその反儒教的精神は権力支配に対する抗議となって現れ,逸民の清談,後漢の王充論衡》などを生み,韓非(韓非子)の法治思想,漢初の黄老無為思想の根底にも老荘の哲学があった。
→関連項目南学仏教無為自然六朝文化六韜三略

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「老荘思想」の意味・わかりやすい解説

老荘思想
ろうそうしそう

中国の伝統思想。老子(ろうし)と荘子(そうし)をあわせた名称で、儒教を孔孟(こうもう)の教えとよぶように、道家(どうか)思想をさしていうときもある。ただ老荘を折衷して一つにまとめられた思想としての意味も強く、それがむしろ重要である。老子と荘子の思想は、もともと類似性はありながらもはっきりした違いがあり、老子では現実関心が強くて世俗的な成功主義も視野なかにあるが、荘子では現実にとらわれないでそれを超え出る宗教的解脱(げだつ)の境地がある。それが荘子の後学によって融合され、『淮南子(えなんじ)』で初めて「老荘」という語が現れ、やがて魏晋(ぎしん)の時代(3世紀)になって、老荘思想の流行時代となった。『老子』の注が荘子の立場から書かれ、『荘子(そうじ)』の注も老子の語を交えて多くつくられたが、それに『易(えき)』を加えた三書を三玄(さんげん)とよんで尊重することも行われた。老荘の思想はこの時代に王弼(おうひつ)(226―249)によって「無」の哲学として成立した。貴族たちはその清談のなかで老荘の語を好んで用い、ときに権力に対する抵抗のよりどころともしたが、おおむねはその超俗的な境涯に個人的な慰安をみいだした。この後、隠遁(いんとん)思想に支柱を与え、宗教や芸術とのかかわりのなかでも生かされていくことになる。

金谷 治]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「老荘思想」の意味・わかりやすい解説

老荘思想
ろうそうしそう
Lao-Zhuang-si-xiang

老子と荘子の思想を合せた学説。一般には,道家思想と同義に用いる。「老荘」あるいは「荘老」という称呼は,魏晋時代から盛んに用いられるようになった。それ以前には必ずしも老子と荘子を結びつけてはいず,前漢の黄老思想のように,黄帝と老子とが結びつけられている場合もある。老子と荘子を愛好する風潮は魏晋以後の六朝時代を通じて盛んであり,清談や仏教の般若空の解釈などにも老荘思想が取入れられた。老子と荘子は,ともに無為を尊び,道を理想とする点で共通しているが,その考え方は互いに異なる。老子は無為を政治や処世や保身の術として説き,現実的で功利的な傾向が強い。荘子は形而上学的思弁や虚静無為の心境,あるいは礼法にとらわれない自由な生き方を説き,内省的で超俗的な色彩が濃い。

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世界大百科事典 第2版 「老荘思想」の意味・わかりやすい解説

ろうそうしそう【老荘思想 Lǎo Zhuāng sī xiǎng】

老荘とは,中国戦国時代の道家の巨匠老子荘子である。老子はその実在が疑問視されてはいるが,荘子とともに宋の国の人といわれる。宋は周によって滅された殷王朝の末裔が建てた国で,古い文化的伝統を有する一方,長らく被征服民族としての悲哀と屈辱をなめてきたため,彼らの思想は他を支配することよりおのれの保身を第一とする,いわば弱者の処世術,しいたげられた者の生活の知恵を根底にもっていた。かかる思想文化の伝統はおのずから老荘思想の性格に影を落としている。

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山川 世界史小辞典 改訂新版 「老荘思想」の解説

老荘思想(ろうそうしそう)

老子荘子が説いた虚無をもって宇宙の根源とし,無為をもって教義の極致とする思想。特に魏晋時代の思想界に流行し,清談(せいだん)の徒を生んだ。

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旺文社世界史事典 三訂版 「老荘思想」の解説

老荘思想
ろうそうしそう

老子を祖とし,荘子らが継承発展させた思想
人為的な儒学思想を批判し,根源的な自然の道に従う無為自然の生き方を主張した。魏晋時代に流行し,清談 (せいだん) の風を生み,また仏教を受け入れる思想的基盤をつくった。

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世界大百科事典内の老荘思想の言及

【中国思想】より

… 漢の王朝は,秦の弾圧政策が人心を失ったことに省みて,その初期の70余年間は自由放任の政策を採った。そのためこの時期には道家の老荘思想が全盛を極めた。老荘は無為自然を理想とするが,政治的には自由放任の立場となって現れる。…

【中国哲学】より


[六朝時代]
 後漢につづく400年間の六朝は,漢代の哲学不毛の時代とは対照的に,老荘や仏教を中心として哲学的関心が著しく高まった時期である。まずそれは老荘思想の流行となって現れる。魏の王弼(おうひつ)の《老子注》,西晋の郭象の《荘子注》は,注釈の形を借りながら独自の哲学を展開したもので,六朝のみならず後世を通じて愛読された。…

※「老荘思想」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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