聖人(読み)せいじん

精選版 日本国語大辞典 「聖人」の意味・読み・例文・類語

せい‐じん【聖人】

〘名〙
① 知識や徳望がすぐれ、世の模範と仰がれるような人。神のように万事に通暁している人。特に儒教では古代の堯(ぎょう)・舜(しゅん)・禹(う)・湯(とう)・文王・武王・周公・孔子などをあげていう。ひじり。
※続日本紀‐神亀元年(724)一一月甲子「上古淳朴、冬穴夏巣、後世聖人、代以宮室
今昔(1120頃か)五「峰高く谷深くして、仙人の栖(すみか)・聖人の居所と見えむ所々にて」 〔易経‐乾卦文言〕
天子をうやまっていう語。中国では、唐以後にみられる。〔新唐書‐李沁伝〕
③ ローマ‐カトリックで、信仰と徳の点で特に秀でた人に対し、教会が与える称号。聖徒。セント。
※米欧回覧実記(1877)〈久米邦武〉四「耶蘇の高弟彼得聖人は、此窖(あなぐら)に囚へられ」
清酒の異称。濁酒賢人というのに対していう。ひじり。
※塵袋(1264‐88頃)九「さけを聖人と云ふ名ありと云ふ、如何。すめるさけの名なり。酒の徳をほめて聖人と云ふにや」 〔魏志‐徐邈伝〕

しょう‐にん シャウ‥【聖人】

〘名〙 (「しょう」「にん」は、それぞれ「聖」「人」の呉音。ārya の訳語)
① 仏語。無漏智を生じて四諦の理を明らかに観ずることのできる能力およびそれ以上の能力をもった人。聖智をえた見道以上の人。
※勝鬘経義疏(611)一乗章「三界中亦有聖人。而今従多為明」
仏菩薩または権化(ごんげ)の人。
智徳を兼ね備え、さらに深大な慈悲心をもつ僧侶上人(しょうにん)
※正法眼蔵(1231‐53)行持「古往の聖人、おほく樹下露地に経行す」
④ 僧侶や衆生(しゅじょう)の師である高僧尊称
※中右記‐承徳二年(1098)八月二七日「以明賢聖人為講師、題名僧十口、〈金泥経一部、黒字経一部〉展供養講延也。院殿上人五六輩被来、聖人説法誠神妙也」

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デジタル大辞泉 「聖人」の意味・読み・例文・類語

せい‐じん【聖人】

高い学識・人徳や深い信仰をもつ、理想的な人。聖者
儒教で、理想的な人とするぎょうしゅんいん湯王文王あるいは孔子などをいう。
カトリック教会で、殉教者や、信仰と徳に特に秀で教皇によって公式に列聖された人。
濁酒を賢人というのに対し、清酒のこと。
[類語]聖者聖女聖賢聖哲ひじり四聖君子仁者生き仏生き神

しょう‐にん〔シヤウ‐〕【聖人】

《〈梵〉āryaの訳》
智慧ちえが広大で、慈悲深い人。
徳の高い僧。また、高僧の尊称。上人しょうにん
[類語]名僧高僧生き仏

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百科事典マイペディア 「聖人」の意味・わかりやすい解説

聖人【せいじん】

一般に,その知識や技倆や徳が抜群で衆に仰がれる人物,また特に超人的な人格と能力を備えた宗教者をいい,洋の東西に見られる。後者の意での聖人崇敬の伝統が長く,また制度化されているのはローマ・カトリック教会で,聖人saintは殉教者martyr,証聖者confessorとともに重んじられてきた。列聖は教皇の権限で行われ,聖人伝が多数編まれ,民間でも守護聖人および聖遺物崇拝が盛んである。→(ひじり)
→関連項目奇跡劇サントスの御作業受難劇

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普及版 字通 「聖人」の読み・字形・画数・意味

【聖人】せいじん

知徳の最高の人。〔易、乾、文言伝〕同聲相ひ應じ、同氣相ひ求む。水は濕にれ、火は燥に就く。雲はに從ひ、風は虎に從ふ。人作(おこ)りて物覩(あら)はる。

字通「聖」の項目を見る

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世界大百科事典 第2版 「聖人」の意味・わかりやすい解説

しょうにん【聖人】

聖者(しようじや),聖(ひじり)ともいう。悟りをえた人。仏教の真理を悟った見道(けんどう)以上の聖者。また仏・菩薩を聖人と名づける場合もある(《大般涅槃経》聖行品)。上人と音が同一のため混用される。また上人をさらに尊んでいう場合に聖人の語を用いる。浄土真宗では歴代の法主を上人,親鸞とその師の法然を聖人とよぶ。日蓮宗でも宗祖日蓮には聖人の称を用いる。平安時代以降,民間にあって庶民教化にあたった僧に対し,とか聖人,または上人とよんだ例が多くみられるが,聖人と上人との間には厳密な区別はない。

せいじん【聖人】

一般に知識や徳が衆にすぐれ,範と仰がれるような人物,および修行を積んだ偉大な信仰者をさす語。特に後者は〈聖者〉とも称され,しばしば世俗の穢れを超越し,神のように清浄でいかなる誘惑にも屈せぬ心,不思議な奇跡を行う超能力などを備えた人をさすことが多い。このような崇高な人格と能力に到達するには,激しい禁欲的修行によって,肉体的・精神的修練を通過しなければならないとする観念が古くからあった。宗教史的には,特に西アジアおよびエジプトを含むオリエント世界一帯に,命がけの断食行や難行苦行を自己に課し,人里離れた洞窟や高山の石窟に籠(こも)る隠者的苦行者の存在が認められてきた。

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[日本酒・本格焼酎・泡盛]銘柄コレクション 「聖人」の解説

せいじん【聖人】

群馬の日本酒。辛口の味わいの普通酒。仕込み水は赤城山南麓の中之沢湧水。蔵元の「伴内酒造店」は明治9年(1876)創業。現在は廃業。蔵は前橋市粕川町下東田面にあった。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「聖人」の意味・わかりやすい解説

聖人
せいじん

聖者」のページをご覧ください。

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世界大百科事典内の聖人の言及

【聖人】より

…彼の苦行は,砂漠の洞窟における80有余年にわたる孤独と飢餓との凄絶な闘いとして伝えられ,彼の没後,その墓の前には,世界の各地から徳を慕って訪れる巡礼者があとを絶たなかった。カトリック教会には,こうした英雄的な有徳の士を正式に聖人saintとして公認し,殉教者martyrとともに,聖人の号を与え,祝日を定めて崇敬する制度がある。また,聖人の徳や超自然的な力にあやかり,特定の職業や災難,さらには特定の場所や学校,施設などの建造物を聖人にゆだねて保護を乞う習慣もカトリックでは広く行われている。…

【僧】より

…習禅をもっぱらとする者)などの別があった。また,修行向上の度合に応じて凡夫と聖人(しようにん)に分けられる。聖人位はさらに阿羅漢を最高位とする四向四果の八位に分けられる。…

【仏教】より

…一般に禅定の修行により悟るのは難行であるので,機根の劣るものは信によることを勧めるが,大乗では仏の慈悲力で,信のみでも救済されると教える。修行者は修行の段階に応じて,凡夫(ぼんぶ)と聖人(しようにん)に分けられる。聖人は準備的修行(加行(けぎよう))を終えて四諦の理を観じて見道に達したもの以上で,その後究極的完成まで修行を続けることが要請される。…

【上人】より

…この上人号は,後世,僧官制が乱れるとともに,諸宗や民間で転用かつ私用されるようになった。平安中期から本寺を離れて別所に隠遁したり,回国遊行して修行,作善勧進する僧が現れ,彼らを上人,聖人(ひじり)などとよぶことが一般化した。上人号をもって世人から敬慕された最初は空也といわれる(《諸門跡譜》《和訓栞》)。…

【中国】より

…そうすると今日まで5000年を超えることになる。もちろん伏羲,黄帝以後,尭帝,舜帝,禹王(王朝の創始者),湯王(殷王朝の創始者),文王・武王(ともに周王朝の創始者)などの諸帝王および周公(周王朝の諸制度,いわゆる礼の大成者)などの聖人が出現して,中国文明の伝統を築き上げたとされる。尭・舜から周公までの7人の天子(周公は天子ではないが天子に準じて扱う)と天子の位にはつかなかったがこれらの先王の道を大成し後世に伝えたところの孔子,とを合わせた8人が代表的聖人である。…

【老子】より

… 老子の思想の根本概念は,一切万物を生成消滅させながらそれ自身は生滅を超えた超感覚的な実在ないしは宇宙天地の理法としての〈道(どう)〉である。その道の在り方を示すのが〈無為自然〉であり,それを体得した人物を〈聖人〉という。老子は形而上的道を説く一方で,現実世界で真の成功者となるにはどうすべきかという現実的観点から,聖人の処世,政治の具体相をくり返し説き,他と争わない濡弱(じゆじやく)謙下,外界にあるがままに順応してゆく因循主義の処世や,人為的な制度によらず人民に支配を意識させない無為無事の政治などを強調する。…

【ローマ・カトリック教会】より

…修道会は教会内部の精神的な特権階級ではなく,むしろ教会全体の福祉に献身する者の集団である。 ローマ・カトリック教会が他のキリスト教会から区別される第3の特徴は,聖母マリアを中心とする聖人たちに対する崇敬である。カトリック教会には聖人たちの公式リストがあり,今日でも厳格な列聖の手続を通じて新しい聖人がこのリストに加えられつつあり,またこの業務をつかさどる聖省が教皇庁のなかに設けられている。…

※「聖人」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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