キリスト教のミサの典礼で用いるブドウ酒を入れ,聖別し,そこから拝領する器。カリスともいう。古代には奉納されるブドウ酒を集めるために大きな聖杯も用いられたが,後にそのミサで聖別する量だけを入れるものcalix ministerialisのみを用いるようになった。必要に応じて幾つかの聖杯を使うこともできる。その形態は杯部のみの,くぼみの深いものが多かったが,安定のために必要な糸底の部分が支柱状の脚台となり,杯部との間に握りの部分が目だつようになった。やがて典礼における聖杯の機能的な用途を基本として優れた芸術作品を生み出すことになり,中世には取っ手の付いたものもできた。カトリック教会の以前の規定によれば,杯部は,金か銀かスズで作られ,その内面は少なくとも金でめっきすることになっていた。現在の典礼法規(《ローマ・ミサ典礼書の総則》290~291)によれば,祭器は堅固でその土地で一般に高貴とされている材料で作られ,杯部は液体を吸収しないような材料で,脚台の部分は他のふさわしい堅固な材料で作ることができる。杯部の内面もさびやすい金属でなければ,めっきする必要はない(同《総則》294)。祭器の形態は,その土地の慣習に合うものであり,何より典礼における用途にふさわしいものであることが要求されている(同《総則》295)。聖杯は,以前の規定では司教によって聖香油を用いて非公式に聖別されたが,現在では会衆の参加するミサの奉納の初めに司祭が聖香油を用いずに祝福することになっている(《献堂式Ordo dedicationis ecclesiae et altaris》1977)。なお,アーサー王伝説に語られる聖杯Grail,Holy Grailについては〈聖杯伝説〉の項を参照されたい。
執筆者:土屋 吉正
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…魔王サタンが天から落ちてきたとき,その王冠から落ちたのがエメラルドだったという伝説もある。また〈聖杯伝説〉で騎士たちが探究する聖杯も,巨大なエメラルドを刻んだ容器と考えられていた。オウィディウスの《転身物語》第2巻には〈フォエブスは輝くエメラルドの玉座にすわっていた〉とあり,ダンテの《神曲―煉獄篇》第31歌では,黙示の鏡としてのベアトリーチェの目がエメラルドになぞらえられている。…
…人口6770(1981)。伝説によれば,紀元1世紀アリマタヤのヨセフがこの地に〈聖杯〉(十字架にかけられたキリストの血を入れたとされる杯)を持ち来たったといわれる。そのため,グラストンベリーこそイングランド最初のキリスト教伝来の地である,とする伝説が生まれ,この地に残る名高い修道院の遺跡は,アングロ・サクソン人やデーン人の侵入にも,またノルマン人の征服にも耐え抜いた,ゆるぎなきキリスト教の栄光の証しであると,うたわれている。…
…12世紀末ヨーロッパで顕在化したキリスト教の色濃い伝説だが,起源には諸説あり,ケルト説話を源とする考えが有力。聖杯Graal(英語はGrail)を扱った最初の作品はフランスの詩人クレティアン・ド・トロアの《ペルスバルまたは聖杯物語》(1185ころ)。主人公が漁夫王の城で目にしたふしぎな行列,血の滴る槍と光り輝く聖杯について,心に抱いた質問を口に出さなかった失敗がすべての発端であった。…
※「聖杯」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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