中国の詩人、学者。本名は亦多(えきた)また家驊(かか)、のち多と改名。一多は筆名。湖北省浠水(きすい)県の人。北京(ペキン)清華学校(後の清華大学)在学中に五・四運動に遭遇して新文化に目覚め、新詩の創作を始めた。1922年に卒業後、絵画を学ぶためにアメリカに留学したが、西洋の近代文学、とくに英詩に強い関心を示し、また民族的自覚を喚起されて、文学への進路を定めた。1925年に帰国後、徐志摩(じょしま)らと雑誌『新月(しんげつ)』に拠(よ)り、詩や詩論を発表、格律詩を提唱した。しかし、武漢大学、青島(チンタオ)大学などを経て、1932年母校の清華大学中国文学科教授に就任後は、もっぱら唐詩や『詩経』『楚辞(そじ)』などの古典研究に没頭し、優れた業績をあげた。その学風は、実証的な考証学の伝統を基礎に、新しい文学研究や民俗学、神話学などの方法を取り入れ、古典研究に新局面を開いた。日中戦争中、雲南省昆明(こんめい)の西南聯合(れんごう)大学に移り、学問研究のかたわら民主運動に活躍したが、国民党の特務に暗殺された。詩集に『紅燭(こうしょく)』(1923)、『死水(しすい)』(1928)があり、古典研究に『易林瓊枝(えきりんけいし)』(1939)、『楽府詩箋(がふしせん)』(1940)、『楚辞校補』(1941)、『詩経新義』(1945)などがある。『聞一多全集』4冊(1948)に主要な著述を収める。
[佐藤 保 2016年3月18日]
『目加田誠著『聞一多評伝』(『洛神の賦』所収・1966・武蔵野書院/講談社学術文庫)』
中国,現代の詩人,中国古典学者。原名家驊。のち一多と改名。湖北省浠水県の人。北京の清華学校を経てアメリカのシカゴ美術学院,コロラド大学で美術,文学,演劇を学ぶ。清華在学中から旧詩を発表,やがて新詩に転じ,アメリカ滞在中に19世紀ロマン主義詩人の影響を受けた。23年詩集《紅燭》を発表。25年帰国。徐志摩(1896-1931)らと《詩鐫》《新月》《詩刊》などを編集。28年の詩集《死水》は詩壇文壇に大きな反響をよんだ。27年北伐に参加。以後,武漢,青島,清華の各大学で中国文学を教えつつ古典研究に従う。清華では朱自清と親交があった。中日戦争開始後,西南聯合大学に参加。43年ころから抗日の実際行動に挺身,中国民主同盟に加わったが,46年7月,国民党に暗殺された。良心的リベラリスト,デモクラットの典型とされる。古典研究では,民族学,文化人類学,宗教学,神話学等の方法と成果を用いて,中国の古代神話や古代詩に新たな光をあてた。《聞一多全集》4巻(開明書店。1948)。
執筆者:中島 みどり
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1899~1946
中国の詩人,文献学者。湖北省水(きすい)(浠水県)の人。近代詩の創作のかたわら,中国の古典文学を研究。日中戦争中,西南連合大学文学部長となる。中国共産党の影響を受け中国民主同盟に参加,1946年国民党のため昆明で暗殺された。
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…52年の〈全国工学院調整方案〉の公布により,従来の総合大学から工学系の総合大学に改組され今日に至っている。文学者聞一多は,日中戦争期に清華大学で教鞭をとり,中国の古典文学を講じた。《清華学報》(1924創刊)は,解放前の中国にあって,《燕京学報》とならび,人文・社会科学の重要な業績をうみだした。…
… なお端午の起源・由来について明示する文献は,後漢以前にさかのぼるものはなく,古来さまざまな解釈がなされてきた。中国の神話学に独自な見解を示した聞一多は,端午に関する伝説・風俗の記載の多くが,竜舟競渡,粽など竜にかかわることの多いのに注目し,端午節を〈竜の節日〉とする見解を提出している。すなわち,端午ははるか古く竜をトーテム信仰する長江(揚子江)下流域の呉・越族の風俗として始まり,後漢以後,呉・越地域が開発されるにしたがい,中原文化との接触を通して長江上流域や北方の各地に広がっていったという。…
※「聞一多」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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