精選版 日本国語大辞典 「肝炎」の意味・読み・例文・類語
かん‐えん【肝炎】
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肝臓の炎症を意味し、おもに肝細胞が壊される病態である。肝炎の原因の多くは肝炎ウイルスである。肝炎ウイルス以外には、一般ウイルス、アルコール、薬物と自己免疫性機序による肝炎がある。肝炎は経過から、急性肝炎と慢性肝炎に分けられる。6か月以上炎症が持続したときに慢性肝炎といい、急性肝炎から移行することもある。急性肝炎のなかには、発症後8週間以内に急速に肝不全と意識障害を起こし、その多くが死亡する肝炎があり、劇症肝炎という。肝炎ウイルスには、A、B、C、D、E型がある。A型肝炎ウイルス(HAV)とE型肝炎ウイルス(HEV)は、経口感染で、急性肝炎を起こすが、慢性肝炎にはならない。E型肝炎ウイルスはタイ、インドなどに多く発生している。日本にも常在する。B、C、D型肝炎ウイルスは血液で感染し、急性肝炎を起こすとともに、感染が持続し、慢性肝炎となる。BとC型肝炎が持続すると、慢性肝炎、肝硬変へと進行し、肝細胞癌(肝癌)を合併する。D型肝炎ウイルス(HDV)はB型肝炎ウイルス(HBV)に感染している人に感染する。日本ではきわめてまれに発生する。肝炎を起こす一般ウイルスには、EB(Epstein-Barr)ウイルス、サイトメガロウイルス、ヘルペスウイルスなどがある。肝炎ウイルスによる肝炎に比べて肝障害の程度が軽く、急性肝炎として治癒する。
[恩地森一]
A型肝炎は流行性肝炎とも伝染性肝炎ともいわれている。A型肝炎ウイルスは汚染された飲食物を介して経口的に感染する。ウイルスは発症早期の患者の糞便(ふんべん)中に証明される。冬から春に好発し、ときに集団発生する。ウイルスに感染してから2~6週間後に発病し、発熱、全身倦怠(けんたい)感、嘔気(おうき)、嘔吐(おうと)、腹痛、食欲不振が出現する。発症後数日から数十日のうちに黄疸(おうだん)が出現することが多い。合併症としてはまれに急性腎不全、溶血性貧血、低血糖発作などがある。診断はIgM型A型肝炎ウイルス抗体を血中で検出することによる。IgG型のA型肝炎ウイルス抗体は過去の感染を意味している。
遷延することはあるが、慢性化はしない。予後はよく、大部分は1~3か月で完治する。まれに劇症肝炎になることがある。特効薬はなく、安静とバランスのとれた食事で治療する。ワクチンがあり、予防接種が可能である。東南アジアなどの流行地に行く際には接種が勧められる。γ(ガンマ)‐グロブリン(免疫グロブリン)は接種後ただちに予防効果があるが、その有効期間は3か月間程度である。
[恩地森一]
B型急性肝炎は血清肝炎ともいわれた。もっとも多い感染経路は、輸血、母子感染、性交などであるが、原因不明の散発例もある。母子感染のほとんどは出産時に産道で感染する。輸血による感染は輸血用血液の肝炎予防検査により激減し、日本では例外的に発生するのみである。針刺し事故などの医療事故で発生することもある。ウイルスに感染してから1~6か月で発症する。A型肝炎と同様の症状がみられるが、それよりも軽い。まれに血尿、タンパク尿などの腎障害を合併する。診断にはIgM型のB型肝炎ウイルスコア抗体(HBc抗体)がもっとも適している。B型肝炎ウイルス表面抗原(HBs抗原)やHBV‐DNAはB型肝炎ウイルス存在の証明となる。
成人で感染した人の予後は比較的良好である。原則として慢性肝炎にはならないが、B型肝炎ウイルスの遺伝型のうち、A型は20%近くが成人初感染でも慢性化する。まれに、ウイルスが持続感染している人(キャリア)が急性肝炎として発症することがある。母子感染などで幼少期に感染した人は慢性肝炎となり肝硬変、肝細胞癌と進展する。B型肝炎の数%に劇症肝炎が起こる。強力な免疫抑制剤の使用により、治癒していたB型肝炎が増悪することがある(de novo肝炎)。
ウイルスの増殖を抑える薬として、インターフェロン(ウイルス抑制因子)、エンテカビルやラミブジン(逆転写酵素阻害剤)があるが、発病したときにウイルスの増殖は停止ないしは低下していることが多く、使用されることはまれである。治療としては、安静と食事療法である。
予防には高力価ガンマグロブリンとワクチンがある。即効を期待するときには高力価ガンマグロブリンを使用するが効果は3か月間以内である。B型肝炎ウイルスをもっている母親から生まれた子供、B型肝炎ウイルスをもっている人の家族や医療従事者などはワクチン接種を行い、感染を予防する。
[恩地森一]
もっとも多い感染経路は輸血であるが、刺青(いれずみ)や医療事故であることもある。原因不明の散発例もある。輸血による感染は輸血用血液の肝炎予防検査により激減している。まれにA型肝炎と同様の症状がみられることもあるが、無症状のことが多い。まれに腎障害を合併する。C型肝炎ウイルス(HCV)感染の診断は、HCV‐RNAやC型肝炎ウイルス抗体で行う。発病初期には抗体検査では証明できないことがある。慢性化することが特徴である。感染後数十年して急速に悪化し、肝硬変や肝細胞癌に進展する。
安静と食事療法で急性肝障害は治癒する。慢性化の予防にはインターフェロンが有効で、C型急性肝炎で持続感染が疑われる際にインターフェロンで治療する。ワクチンはなく、ガンマグロブリンも予防効果はない。
[恩地森一]
ウイルス肝炎や薬物性肝障害の経過中8週間以内に重症化し、急激に高度の肝機能障害と意識障害が起こる病気である。急性肝炎の1~2%が劇症肝炎に移行するとされ、日本では年間約450人が発病している。
原因は肝炎ウイルスが多く、そのなかでもB型肝炎ウイルスと原因不明が多い。ほかには自己免疫性肝炎、E型肝炎、A型肝炎、薬物としてはハロタン、アセトアミノフェン、糖尿病用薬などがある。急激に悪化する機構については解明されていない。症状としては、急性肝炎の一般的な症状が顕著となるとともに、出血傾向、意識障害(肝性昏睡)、腹水や腎不全が出現する。経過の比較的に長いときには黄疸が高度となる。発症後11日以後に肝性昏睡が出現する劇症肝炎亜急性型では原因不明が40%を超えている。
抗ウイルス剤や免疫抑制剤による治療、血漿(けっしょう)交換、交換輸血、持続血液透析やその他の対症療法が行われている。予後はきわめて悪く、劇症肝炎すべての救命率は約30%で、発症後10日以内に肝性昏睡が出現する劇症肝炎急性型では50%前後で、亜急性型では20%以下である。肝臓移植が有効で救命率があがっている。
[恩地森一]
6か月以上にわたり持続した肝炎をいう。肝炎が持続したことは、一般肝機能検査、とくにトランスアミナーゼ(AST、ALT)の異常が長く続いたことや膠質(こうしつ)反応(ZTT、TTT)、ガンマグロブリンの高値、脾臓(ひぞう)の腫大(しゅだい)などで推測できる。確実には、腹腔(ふくくう)鏡検査で肝の表面を観察したり、肝生検による病理組織学的検査により証明される。肝細胞の小壊死(えし)巣、門脈域への円形細胞浸潤と線維化で診断できる。自覚症状はほとんどなく、あっても全身倦怠感や易疲労感などである。慢性肝炎の原因は、BとC型肝炎ウイルスの持続感染、D型肝炎ウイルス、自己免疫性肝炎と薬物性肝炎がある。BとC型肝炎ウイルスは慢性肝炎の原因として多く、また肝細胞癌を合併することからも重要である。
[恩地森一]
B型慢性肝炎は日本の慢性肝炎の約15%を占めている。B型肝炎ウイルスに幼少時に感染し、持続感染した人(キャリア)に生じる。成人の初感染でも、まれに持続感染し、慢性肝炎となる。B型肝炎ウイルスが感染していることは、HBs抗原陽性、HBc抗体が高力価陽性であることから診断される。HBe抗原(B型肝炎ウイルスのコア粒子内のタンパク)が陽性であるとウイルス量が多く、肝炎の程度は高い。ウイルス量は、HBV‐DNAで知ることができる。HBe抗原が消え、HBe抗体が陽性になる(セロコンバージョン)と肝炎は終息する。まれにHBe抗体陽性でもトランスアミナーゼが異常値であることがあるが、その場合には血中のHBV‐DNAが陽性である。一般肝機能検査で肝炎の程度を推測できるが、肝生検は確実な診断となる。
HBe抗原を陰性化させる治療として、インターフェロン、エンテカビルやラミブジン投与が行われている。肝細胞癌の合併を減らすことができる。
[恩地森一]
日本には50歳以上を中心におよそ180万人のC型肝炎ウイルスの持続感染者がいるとされている。戦争を体験した国に多く、日本では太平洋戦争後の混乱期に、アメリカではベトナム戦争当時に流行した。日本の慢性肝炎、肝硬変と肝細胞癌の80%以上がC型肝炎ウイルスによる。
C型慢性肝炎はB型のそれに比べて臨床症状や検査成績で大きな差異はないが、黄疸が出現することが少なく、トランスアミナーゼの上昇の程度も比較的に軽微である。肝硬変、肝細胞癌と進展しても肝機能検査の異常は続き、自然治癒することはきわめてまれである。
薬物としてはインターフェロンがあり、完全に治癒することが期待できる。インターフェロンで完治する人は約70%である。完治した人からの肝細胞癌の発生は抑えられている。インターフェロンの有効性を決める因子としては以下の項目が重要視されている。
(1)ウイルスの量 少ないほど有効で血液1ミリリットル中10万以下(5logIU/ml以下)の場合に効果が大きい。
(2)ウイルスの型 2b>2a>1bの順に有効である。
(3)肝生検で線維化が高度であれば有効性が低い。
(4)高齢者では有効性が低い。
(5)インターフェロンにリバビリン(抗ウイルス薬)を一緒に使用すると効果がよくなる。
インターフェロン療法の適応がない人や有効でなかった人には、グリチルリチン製剤、ウルソデオキシコール酸、瀉血(しゃけつ)などを使用してトランスアミナーゼを下げておくことが、肝硬変への進展と肝細胞癌の合併を抑制するうえで重要である。
[恩地森一]
日本では増加傾向にある。常時飲酒をしている人が急激に飲酒量を増やしたときに発症する。腹痛、発熱、黄疸をおもな症状とし、白血球増加、血清AST、γ‐GTPとアルカリフォスファターゼ(ALP)の上昇がみられる。肝の病理組織的検査では肝細胞の変性、壊死と風船化、線維化、マロリー小体や好中球の浸潤が特徴的である。アルコール性肝炎のなかに、肝性昏睡、肺炎、急性腎不全、消化管出血、エンドトキシン血症などを伴い、断酒にもかかわらず、肝腫大は持続し、多くは1か月以内に死亡する重症型が存在する。また血液凝固検査におけるプロトロンビン時間(血液凝固因子を加えたときの血漿が固まる時間)が50%以下となる。アルコール性肝炎の治療は断酒につきる。アルコール依存症の治療も必要である。重症型は劇症肝炎の治療に準じるが予後はきわめて悪い。
[恩地森一]
飲酒がないにもかかわらずアルコール性肝炎に類似した進展を示す疾患である。脂肪肝に加えて、炎症(肝炎)があって線維化がみられる。原因は活性酸素による酸化ストレス、インスリン抵抗性、サイトカインの放出などのストレスによるとされている。メタボリック症候群の肝臓の病型と考えられる。自覚症状はほとんどない。肝機能検査でみつかることがほとんどである。ASTとALTが軽度上昇する。AST/ALT比は1.0以下。腹部超音波検査やCTにより脂肪肝の診断ができる。NASH(ナッシュ)の診断は肝生検によって、肝細胞への脂肪沈着、風船様の肝細胞変化、アルコール硝子体、好中球浸潤や線維化などの所見で診断する。食生活の改善と運動療法が基本。肝臓病に対する薬が投与されることもある。肝炎から肝硬変、肝癌へと進展することがあるため、肝機能検査と画像検査を定期的にする必要がある。
薬物性肝障害ともいう。薬物による肝障害は急性に経過し、薬物の使用中止で軽快するが、長期使用すると慢性肝炎や重症肝炎に移行することもある。誰にでも肝障害を起こす薬物による肝障害(中毒性肝障害)と、特異体質によって特定の人に起こる肝障害があり、それには薬物アレルギーによるものと薬の特異な代謝経路をもつためによる場合がある。また、特殊な場合として、腫瘍の形成や肝臓の血管障害によることがあるが、まれである。一般にみられる薬物性肝障害は特異体質による。
原因薬物としては、抗生物質、解熱・鎮痛薬、精神・神経用薬が多い。病型としては、通常のウイルス肝炎と類似した肝炎型、胆汁うっ滞型、その両者の混合した型がある。瘙痒(そうよう)感、黄疸、ALPやγ‐GTPなどの胆道系酵素の高値が持続する胆汁うっ滞型が従来は多かったが、減少している。診断は、経過から薬物の使用とその中止による改善を知ることや薬物アレルギーによる場合にはリンパ球培養試験による。治療は起因薬物の中止がもっとも重要である。
[恩地森一]
中年以上の女性に多い。慢性に経過する。原因は不明であるが、自己免疫の関与が考えられている。症状は発熱、皮疹(ひしん)、関節痛、黄疸があるが、無症状のことも多い。診断は、抗核抗体、抗平滑筋抗体の陽性、血沈亢進(こうしん)、2.0グラムを超えるガンマグロブリンとIgGの高値、肝生検で高度の肝細胞壊死と形質細胞浸潤がみられることなどによる。自己免疫性肝炎では、肝炎ウイルス、アルコールや薬物性肝障害を除外しておくことが重要である。
治療は副腎(ふくじん)皮質ホルモンが奏効し、診断の根拠ともなる。副腎皮質ホルモンは長期使用し、半永久的な使用となる。免疫抑制剤やウルソデオキシコール酸も併用する。予後は早期に診断すれば良いが、肝硬変に進展した人や劇症肝炎で発症した人は悪い。
[恩地森一]
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…そこで肝細胞が障害されると,細胞内に蓄えられていたこれらの物質が血中に大量に出てくる場合もあり,肝機能検査として測定されることもある。
[肝臓疾患の原因]
肝炎ウイルスは,アルコール,毒(薬)物と並んで肝臓疾患の三大原因といわれる。肝炎ウイルスには現在3種類以上のウイルスが推定されている。…
…ギリシア語ではhēparといい,この語幹hēpa‐が肝炎hepatitis,肝臓癌hepatomaなどに用いられている。日本では古くは肝(きも)と呼ばれ,五臓六腑の一つとされる。…
※「肝炎」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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