精選版 日本国語大辞典 「胚」の意味・読み・例文・類語
はい【胚】
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多細胞生物の個体発生初期の段階をさすが、卵割期以後の発生期個体を意味する場合や、胚葉分化以降を意味する場合などまちまちな使われ方をしている。
[嶋田 拓]
無脊椎(むせきつい)動物では桑実胚、胞胚、原腸胚を早期胚、それ以降の発生段階を初期胚とよぶ。脊椎動物では神経管の形成時期があり、この時期をとくに神経胚という。胚期の長さは動物種により多様である。発生が進んで外界から食餌(しょくじ)をとり始めるまでが胚期とよばれる。胎生動物では胚期の個体を胎児という。卵割期の細胞は未分化であり、胚葉の形成とともに分化の傾向が生ずるが、胚期の細胞は分化の程度が低い。卵割期の胚細胞の特徴は、それが未分化であることのほか、細胞周期が短いことで、この時期の胚は急速に細胞分裂を繰り返して細胞数を増やしていく。ショウジョウバエでは、卵割期の細胞は成体細胞の100倍以上の速度で増殖することが知られている。卵割期には細胞分裂後のような細胞成長期を欠くので、細胞は分裂ごとに小さくなる。卵割期における細胞増殖速度は、非胎生動物ではとくに大きく、外敵に弱い時期をなるべく短縮するという目的に合致している。卵割が進むと各割球細胞間のすきまはしだいに大きくなって卵割腔(こう)となる。この卵割腔を細胞が一重に囲んだ構造となったものが胞胚である。続いて細胞の一部は卵割腔内へ向かって陥入を始める。この造形運動の結果、嚢胚(のうはい)(原腸胞)となるが、陥入した細胞の形成する一重の嚢を原腸、陥入口を原口とよぶ。この造形運動は原腸の形成のほかもう一つ重要な意味をもつ。胞胚期には遠く離れていた細胞どうしが陥入の結果互いに接し合い、細胞間で相互に影響しあえるようになることである。また、原腸形成によって胚に背腹軸および頭尾軸という新しい胚軸が生ずるとともに、細胞も二層となり、胚葉の区別が生ずる。外層を外胚葉、内層背部を中胚葉、内層側部と腹部を内胚葉とよぶ。嚢胚期を過ぎると、中胚葉から脊索中胚葉が分離して脊索となる。脊索中胚葉で裏打ちされた外胚葉は厚みを増して神経板となり、やがて神経管を形成する。この現象を脊索中胚葉による神経組織の誘導といい、脊索中胚葉細胞がそれに接する外胚葉細胞に影響を与えて神経組織へ分化させたのである。誘導現象は胚期の個体発生で各所におこり、形態形成にきわめて重要な働きをしている。しかし誘導現象の分子レベルの解明はいまだなされていない。
[嶋田 拓]
植物では、配偶体の中にある卵細胞が受精すると発達を始めて胞子体となるが、まだ幼い胞子体で、配偶体や内胚乳の中に埋まって、周囲から栄養を供給されている段階にあるものを胚(または胚芽)という。胚があるのはコケ植物、シダ植物、裸子植物、被子植物である。
(1)コケ植物 コケ植物の胚は配偶体の造卵器の中で発達し、足(あし)footと柄と蒴(さく)の原基とに分化する。足は造卵器の底面に張り付いて、配偶体から栄養を吸収する。胚が成長すると柄が伸び、蒴は造卵器の口から外に出る。
(2)シダ植物 シダ植物の胚においても、造卵器の底の近くに足が分化する。また、造卵器の口の方向には胚柄(はいへい)suspensorができることがある。胚柄とは、胚の一部ではあるが、将来の胞子体の形成には参加しない部分のことである。シダ植物の場合、胞子体の軸は造卵器と直角の方向にできることが多い。軸の一方には主根(幼根)、反対側には茎頂と葉原基が分化し、いずれも配偶体(前葉体)の組織を溶かしながら成長し、やがて外へ伸び出す。
(3)裸子植物 裸子植物では、受精卵がまず自由核分裂をし、次に胚柄ができて、雌性配偶体の組織を溶かしながら、曲がりくねって伸び続ける。胚柄は多数の枝分れをするが、やがてそれぞれの枝の先に分裂組織ができ、これが胞子体の幼植物の形をつくる。したがって、1個の受精卵から多数の幼植物ができることになるが、普通は、もっとも早く発達した一つだけが最後まで残り、ほかのものはこれによって吸収される。このような幼植物の体をつくる部分だけを「胚」とよぶことがある。これと区別するため、胚柄が伸びている段階のものは前胚(または初期胚proembryo)とよばれる。幼植物となる部分は、胚柄寄りの位置に主根(幼根)、続いて胚軸、先端部に茎頂と子葉原基とを分化させる。
(4)被子植物 被子植物では、重複受精のあと、まず内胚乳が発達し、やや遅れて受精卵が細胞分裂を始め、内胚乳の中に向かって成長、発達する。珠孔寄りの部分は胚柄となることが多いが、裸子植物と比べるとはるかに小さい。内胚乳の中に入った部分はまず球形の組織塊となり、これからただちに1個の幼植物の形をつくり始める。珠孔や胚柄に近い部分に主根(幼根)の原基が分化し、続く位置に胚軸、先端部に茎頂と子葉の原基ができる。この子葉の数によって、双子葉植物と単子葉植物が区別できるようになる。イネ科の胚には胚盤、子葉鞘(しょう)などの特殊な器官があり、さまざまな解釈が行われている。もっとも普通なのは、胚盤は子葉の葉身が変化したもので、子葉鞘は子葉の葉鞘部分が独立したものとする考えである。種子内での胚の発達の程度は種類によってさまざまである。
[山下貴司]
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…二つの精核は花粉管とともに胚囊の中へ入る。そのうち一つの精核は卵細胞と接合し,胚embryoとなる。他の精核は二つの極核と受精し,染色体数が3倍(3n)の胚乳(内胚乳)endospermとなり,栄養分をたくわえる。…
…精子と卵子の癒合によってできた受精卵は子宮内膜に着床して発育を続け,一個の個体となる。ヒトの場合は受精後8週までは,各胚葉からいろいろの器官の分化が終わるまでの期間なので,これまでを胎芽embryoといい,これ以後を胎児という。胎児は羊水中に浮いており,臍帯(さいたい)で胎盤とつながっている。…
…精子は先端に2本の鞭毛(べんもう)をもち,水中を泳いで造卵器に至り,そのくびの中を通って卵細胞に達する。受精卵は造卵器の中で分裂して胞子体の幼植物(胚)が形成されるが,その後も胞子体は配偶体に寄生し続ける。完成した胞子体は1本の軸からなり,先端に1個の胞子囊(ほうしのう)をつける(コケの胞子囊を蒴(さく)capsuleという)。…
…人類の主食がコメやムギであることからも明らかなように,植物の種子は古来より動物や人間の生活に欠くことのできないものであった。穀類のほか,クルミやマメ類も食物とされ,ナタネ,ゴマからは油をとり,コーヒー,カカオ,コプラ(ココヤシの胚乳)も種子が原料だし,杏仁(きようにん)(アンズ),蓮子(れんし)(ハス)のように薬としても使われるものもある。ワタの種子の毛からは綿がとられ,また首飾や数珠などの細工物にされる種子もある。…
※「胚」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社世界大百科事典 第2版について | 情報
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