腐敗(読み)ふはい

精選版 日本国語大辞典 「腐敗」の意味・読み・例文・類語

ふ‐はい【腐敗】

〘名〙
微生物作用によって有機物、特に蛋白質悪臭を発して分解されること。くさること。
※三教指帰(797頃)下「繊繊素手、沈淪而作草中之腐敗」
制度組織などの内実が精神的に堕落すること。
経国美談(1883‐84)〈矢野龍渓〉前「立憲王政の治体も已に腐敗して」

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デジタル大辞泉 「腐敗」の意味・読み・例文・類語

ふ‐はい【腐敗】

[名](スル)
有機物が微生物の作用によって分解され、有毒物質を生じたり悪臭を放つようになったりすること。くさること。→変敗
精神が堕落し、悪徳がはびこること。「腐敗した政界
[類語](1腐る朽ちる腐乱発酵饐える傷むあざれる酸敗御座る/(2堕落自堕落退廃堕する

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「腐敗」の意味・わかりやすい解説

腐敗
ふはい

生物の遺骸(いがい)(死んだ個体や組織)や排出物など窒素を含む有機物質が、嫌気的細菌の働きによって不完全分解する現象をいう。タンパク質は、細菌の生産する加水分解酵素により分解されてアミノ酸となる。アミノ酸からは脱アミノ反応によって低級脂肪酸やアンモニアが生じ、脱カルボキシ(カルボキシル)反応によってアミンが生じる。また、硫黄(いおう)原子を含む含硫アミノ酸からは含硫化合物が生じる。脂肪も不完全分解によって低級脂肪酸を生ずる。糖は発酵してエタノールエチルアルコール)やブタノールなどのアルコール類のほか、酢酸、酪酸、プロピオン酸などの低級脂肪酸、アセトインやジアセチルなどの低分子ケトン類を生ずる。これらの過程では二酸化炭素、水素、メタンなどのガスも発生する。有機物の嫌気的分解によって生じるこれらの物質の多くは悪臭を発するが、これがいわゆる腐敗臭である。腐敗をおこす細菌は多種あり、とくに枯草(こそう)菌、クロストリジウム、シュドモナス(プソイドモナス)などがよく知られている。大腸菌は哺乳(ほにゅう)類の腸内に普通にみられる細菌で、個体が生きている間は消化を助ける働きをしているが、死ぬとその腐敗に重要な役割を果たす。

 腐敗がおこるためには水分が必要であり、また、細菌が繁殖しやすい20~40℃が適温で、したがって夏季に腐敗が生じやすい。食品の防腐保存に、冷蔵、冷凍、乾燥、加熱、脱水、燻煙(くんえん)などを行うのは、細菌の繁殖を妨げるためである。防腐剤も用いられるが、その抗菌作用は人体に有害なものが多い。

 腐敗は不快な現象であるが、自然界においてはきわめてたいせつで、生体で利用されていた複雑な有機窒素化合物を、簡単な有機窒素化合物や無機窒素化合物に変化させ、これによって生物が窒素を循環利用できる仕組みが形成されている。

[嶋田 拓]

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普及版 字通 「腐敗」の読み・字形・画数・意味

【腐敗】ふはい

くさる。〔漢書、食貨志上〕武の初に至る七十年、國家事(な)し。~太倉の粟(ぞく)(穀)、陳陳(古米)相ひ因り、充して外に露積し、腐敗してらふべからず。

字通「腐」の項目を見る

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化学辞典 第2版 「腐敗」の解説

腐敗
フハイ
putrefaction

微生物,または酵素によるタンパク質や含窒素有機化合物の低分子化合物への嫌気的分解によって,毒性や不快臭のある低分子化合物が生成する現象.タンパク質,アミノ酸が脱炭酸されて有毒アミン類に変化する.たとえば,アルギニン,オルニチンからプトレッシン,リシンからカダベリンなどが生成する.また,微生物による化学変化で,アンモニア,ヒドロキシ酸,アルコール,アルデヒド,低級脂肪酸,二酸化炭素,硫化水素などを生じる.腐敗にはClostridium属やProteus属の細菌が関与しており,複雑な諸過程から成り立っているが,物質循環のためには重要である.食品の腐敗で毒素が生じる場合には食中毒の原因となる.

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世界大百科事典 第2版 「腐敗」の意味・わかりやすい解説

ふはい【腐敗 putrefaction】

食品,生物の遺骸,分泌物,排出物などの有機物が,微生物の作用によって分解して変質し,悪臭などを生成する現象をいう。腐敗が起こると,多くの場合に酸素の供給が不十分な状態で,微生物による代謝が発酵的な型式によって進行するため,種々の不完全分解物が生成する。とくにタンパク質からは各種のアミン,低級脂肪酸,メルカプタン,硫化水素,インドール,スカトール,アンモニアなど,悪臭の原因となる多くの物質が生成するので,一般に腐敗の主要基質とみなされるが,炭水化物,糖からも酪酸,プロピオン酸,アセトイン,ジアセチルなど,脂質からも各種の低級脂肪酸やカルボニル化合物が生成して悪臭の原因となる。

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百科事典マイペディア 「腐敗」の意味・わかりやすい解説

腐敗【ふはい】

生物の遺体や排出物などの有機物が微生物の作用によって分解する現象をいう。普通,酸化的な不完全分解を伴い,とくにタンパク質の腐敗ではインドール,アミン類,硫化水素など悪臭のある気体が発生する。大腸菌,エアロバクター,枯草菌,クロストリジウム,セルロース分解菌などの混成雑菌によって起こり,自然界の物質循環の上で重要な役割を果たしている。
→関連項目発酵

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「腐敗」の意味・わかりやすい解説

腐敗
ふはい
putrefaction

有機物が微生物の作用によって変質する現象。変化の状態によって,(1) 味をそこなったり不快臭や有毒物質を生成する場合と,(2) かえって有用かまたは無害な変質・変化がある。 (1) が狭義の腐敗である。腐敗に関与する微生物は 20~40℃,高湿度で繁殖しやすいので,夏季には食物が腐敗しやすい。獣魚肉の腐敗による不快臭は,アンモニア,アミン,硫化水素,メルカプタン,スカトール,インドールなどによる。

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栄養・生化学辞典 「腐敗」の解説

腐敗

 微生物の増殖によって食品が劣化して飲食に不適な状態になること.

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