金属材料が使用環境中の物質と反応して金属イオンまたは非金属の化合物となって損耗していく現象。金属材料の種類と使用環境との組合せに応じてさまざまな形態の腐食が現れるが、使用環境が水溶液であるかガスであるかによって湿食と乾食とに大きく分けられている。さらに腐食現象のなかには、材料に応力が作用している状態でのみ現れるものもあるので、応力下での腐食であるか否かによってこれらは細分化されている。機械や装置の腐食は事故の原因となることが多いので、防食対策には日ごろから十分の配慮が必要である。次に、おもな腐食形態とその原因について述べる。
[杉本克久]
金属の粒界のみが選択的に溶解される型の腐食。熱処理などにより粒界およびその近傍に溶解されやすい組成の析出物や溶質欠乏帯が形成されたときに生ずる。そして、これは500~800℃に短時間加熱された18-8ステンレス鋼を硫酸‐硫酸銅溶液につけたときなどにみられる。
[杉本克久]
表面の大部分は健全であるにもかかわらず、ごく一部にのみ針で突いたような小さくて深い孔状の腐食がおこることがある。この型の腐食は、環境中の塩素イオンにより表面皮膜が局部的に破壊されるときに生じやすく、海水中につけられたステンレス鋼やアルミニウムによくみられる。
[杉本克久]
金属どうしの継ぎ目や金属の表面に付着した異物の下などにできた狭いすきまに生じる腐食。すきま内部は外部に比べて溶存酸素の供給が不十分であるため、すきま内部の金属は不動態化しにくく、そのためこの部分の金属が活性溶解を続けることによって生ずる。
[杉本克久]
腐食性でない環境中ではけっして機械的破壊を生じないような弱い引張り応力が腐食性環境中で使用されている金属材料に作用したとき、ある期間経過後に突然その材料の破壊が生ずる型の腐食。機械的応力により表面皮膜の一部が破壊され、そこに腐食が集中することにより生ずるといわれている。塩化物水溶液中の18-8ステンレス鋼、アンモニアガス中の黄銅、カ性アルカリ水溶液中の炭素鋼などに生ずることが知られている。
[杉本克久]
腐食時に生じた水素が金属材料中に吸収され、それによって金属材料が脆(ぜい)化し、弱い引張り応力の下でも破壊してしまう現象である。硫化物水溶液中における高張力鋼などにみられる。
[杉本克久]
腐食性環境中で引張り―圧縮の交番応力が作用している金属材料に生ずる。腐食性でない環境中では疲労破壊が生じないような小さな応力の下でも、腐食性環境中では比較的短時間で疲労破壊が生ずる。
[杉本克久]
流体または粉体粒子の連続的な衝突により金属表面の皮膜がはぎ取られ、その部分が活性溶解をおこして局部的に深く侵食される型の腐食。スラリー輸送の配管やポンプなどによくみられる。
[杉本克久]
広義には環境との化学反応により物質の量または質が劣化する現象であるが,狭義には,金属のイオン化を含む化学変化に限られる.金属は多くの場合硫化物あるいは酸化物から製錬されてつくられたもので,熱力学的には安定状態ではない.それゆえ,通常の環境では酸化して安定な状態に落ち着こうとする傾向をもっている.この変化過程を腐食という.この意味では腐食は製錬の逆過程であるが,腐食という用語には,品質の低下,損失などの評価が含まれている場合が多い.電気化学的には,腐食は金属のアノード溶解
M → Mn+ + ne
と被還元物質のカソード反応
2H+ + 2e → H2,O2 + 2H2O + 4e → 4OH-
などの同時反応と考えられる.腐食は通常,低温腐食と高温腐食あるいは湿食(wet corrosion)と乾食(dry corrosion)に分類される.また腐食形態などから次のように分類される.
(1)均一腐食(uniform corrosion),
(2)局部電池腐食(galvanic corrosion),
(3)すきま腐食(crevice corrosion),
(4)孔食,
(5)粒間腐食(intergranular corrosion),
(6)選択腐食(selective corrosion),
(7)摩耗腐食(erosion corrosion),
(8)応力腐食割れ.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
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…これに比べると硬い岩盤の所では目に見えるような変化は起こりにくいが,岩石中の節理や割れ目に沿って岩塊がもぎ取られることがあり,これを切離作用という。化学的浸食作用とは流水とこれに接する地面を構成する物質との間に行われる化学反応の結果生じたすべての化学的変化のプロセスを指していい,流水が異物質を溶解して除去するので溶食corrosionという。川の水の中には多量の溶存成分が含まれているが,これはおもに地下水が地中をゆっくりと移動する間に取り込んできたもので,川の水による溶食は地下水に比べて接触時間がはるかに短いので微々たるものである。…
…
[河食]
流水つまり河の浸食(河食作用)は湿潤地域においては最も一般的な浸食営力で,その結果,峡谷またはV字谷などの河谷(河食谷)を生ずる。滝の直下に滝壺を生ずるような水体そのものが岩盤を削る水食作用hydraulic actionと河水が運搬中の砂礫を材料にして河床を削る削磨作用corrasionと,さらに岩石によっては河水と接触して溶解する溶食作用corrosionが営まれる。溶食は石灰岩地域や熱帯に顕著である。…
…雨水や河流,地下水などによって岩石が溶解され,浸食される現象で,水による化学的な風化・浸食作用の総称。とくに二酸化炭素CO2を含む水は,石灰岩のような方解石CaCO3を主成分とする岩石を次式で示す反応で溶解する働きがある。 CaCO3+H2O+CO2⇄Ca2++2HCO3- この作用は石灰岩台地において,カルスト地形と呼ばれる特殊な景観をつくり出す重要な営力として働く。一般に,石灰岩の溶解速度はCO2を多く溶存しうる低温の水の方が早いので,熱帯地方よりも寒冷地方で溶解量が多いと考えられがちである。…
…美術用語としては,銅板など金属表面を酸で腐食して凹版をつくる技法,および,これを利用して刷った版画をさす(〈銅版画〉の項参照)。広くは,表面を化学的または電気化学的に溶解する加工法をいう。…
※「腐食」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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