航海衛星ともいう。観測者(船や航空機など)の位置の測定(測位という)を援助するための人工衛星で,人工衛星を使った測位方式を航行衛星システムと呼ぶ。
航行衛星の開発は,ソ連のスプートニク1号の発信する電波の周波数が,ドップラー効果によって変動することに着目したアメリカのジョンズ・ホプキンズ大学とアメリカ海軍により行われ,1960年には最初の航行衛星トランシット1B衛星が打ち上げられた。その後64年7月アメリカ軍により海軍航行衛星システムNavy Navigation Satellite System(NNSS)として運用が開始され,67年以後はNNSSの一部が民間用に公開された。
NNSSは位置決定に必要な種々の情報を送信する人工衛星と,人工衛星を追尾し人工衛星内部の情報を修正する地上局,衛星からの信号を受信し受信位置を求める受信局(船や航空機など)から構成されている。このうち地上局には,人工衛星を追跡する四つの追跡局と,これら追跡情報を使って人工衛星の軌道を求めさらにその軌道の変化を予測する計算センター,そしてこれら軌道情報を人工衛星に送信して人工衛星内部の情報の更新を行う軌道情報送信局がある。一方,人工衛星は高度約1000kmのほぼ南北両極を通過する円軌道を約106分の周期で周回しており,これに地球の自転が加わるため,衛星の地球表面での位置は時間とともに変化し,同一衛星を観測できる回数は赤道上で1日4回ほどである。
各衛星はそれぞれ2分ごとに衛星内部の情報(時刻信号や軌道情報など)を二つの周波数の電波(399.968MHzと149.988MHz)を使って繰り返し送信する。受信局でこの信号を受信した場合には,受信局から見た人工衛星の接近速度に比例したドップラー効果の影響を受けるため,受信周波数は送信周波数と必ずしも一致しない。送信周波数と受信周波数の差から,人工衛星の接近速度を求めることができ,この速度を時間積分すれば受信開始時(t1)から受信終了時(t2)までの人工衛星と受信局間の距離の変化量がわかる。受信情報の中にはその衛星の軌道情報があるから,計算によりt1およびt2の人工衛星の位置は求められる。t1,t2における人工衛星の位置からの距離変化量が一定(すなわち距離差一定)な点の軌跡は,t1,t2における人工衛星の位置を焦点とした双曲面になり,受信局はこの双曲面上にあることになる(図参照)。船のように地球表面に受信局がある場合,受信局はこの双曲面と地球表面の交わった線上にある。このため,前記のような観測を数回行えば,地球表面上の線の交点が受信位置として求められる。
NNSSは従来の天体を利用した測位方法に比べ天候に影響されることがなく,自動化され,世界中どこででも高い精度で位置が求められるなどの長所をもつが,欠点としては,位置決定時間間隔(利用回数ならびに利用間隔)があきすぎることと,入力する速度の誤差が大きい場合,位置精度が悪くなることなどがある。このため,これらの欠点を補うGPSと呼ばれる新システムが研究開発され,広く運用されている。
航行衛星のように位置決定のみを援助するのではなく,船と陸上局の間で種々の情報を伝達することを目的とした衛星に海事衛星maritime satelliteがある。最初の海事衛星は,1976年アメリカ海軍と民間共用として大西洋上に打ち上げられたマリサット1号である。現在,海事衛星のための国際機関であるインマルサットが海事衛星システムの運用を行っている。
執筆者:今津 隼馬
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…その後用いられたものはレーザー光線を反射する鏡式のものがふつうである。航行衛星は同じことを電波を使って行い,船や航空機の航行を援助するためのものである。人工衛星も数個同時に用いて精度を上げており,NAVSTAR(ナブスター)と呼ばれる航行衛星システムは,すでに商業化されて船舶でごくふつうに用いられている。…
…軍事目的に開発・使用される人工衛星システムをいう。その主要な用途は,偵察や監視などの軍事情報収集,通信や航法などの軍事行動の統制・支援,敵衛星や弾道ミサイルなどの要撃,および技術開発実験である。その歴史は1957年の世界初の人工衛星スプートニクSputnik打上げ直後に始まり,冷戦期間中はアメリカおよび旧ソ連が打ち上げた衛星総数の75%以上が軍事衛星と推定されている。システムは,衛星本体,打上げ施設,地上局,艦船,航空機などで構成される。…
※「航行衛星」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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