色道論書。藤本箕山著。18巻14冊。1678年(延宝6)の序をもつ。17世紀初頭は実用・娯楽両用の書として遊女評判記の類が数多く出版された。本書はそれらを踏まえて〈色道〉という観点から全国のプレー・ゾーンを網羅しようとした。いわば,17世紀版エンサイクロペディア・エロティカである。遊里での用語を解説する〈名目抄〉,遊里の格式,作法を記す〈寛文格〉〈寛文式〉,色道悟入の階梯を《法華経》に擬した〈二十八品〉,起請文,誓詞など遊中の心中立ての作法,故実等を解説する〈心中部〉,遊里での遊戯,音曲についての〈翫器部〉〈音曲部〉,遊女の手紙の書き方,用語についての〈文章部〉,遊女の紋,名前についての〈定紋部〉〈人名部〉,三都(京都,大坂,江戸)中心の全国の官許の遊廓の沿革,行事,慣習等を記す〈遊廓図〉,私娼についての〈雑女部〉,歴代名妓の逸話,奇聞を述べる〈雑談部〉,京島原の遊女の系譜を記す〈道統譜〉,三都名妓の列伝を述べる〈列女伝〉,放逸無礼の徒の遊興を戒める〈無礼講式〉から成る。若年のころから遊里に出入していた箕山が,本書編纂を思いたったのち,全国各地の遊里を実際に回ること30有余年にして著されたものである。書名の〈色道〉は,茶道,華道,香道等に伍するだけの理念,格式,作法をもつ理想的な遊びの〈道〉を意味するものである。なお,本書が浮世草子《好色一代男》(1682)成立に種々の影響を与えたことは周知のとおりである。巻五〈二十八品〉の部分のみ《色道小鏡》(5巻5冊)と題して,1699年(元禄12)に刊行されている。
執筆者:松田 修
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
遊女評判記。18巻。藤本箕山(きざん)(1628―1704)作。1678年(延宝6)ごろの成立。30年以上に及ぶ諸国の遊里での著者の見聞や体験に基づき、遊里に関して必要な知識や作法を詳述した作品。遊里での独特のことばを解説し、遊女や遊客の作法を説き、全国各地の遊里の由来、内実を紹介し、遊里で行われる音曲や手紙について説明を加え、遊女の系統図を付し、著名な遊女たちの逸話を伝え、さらには、遊里以外の女たちの性風俗の解説にまで及ぶ。まさに遊里、性風俗百科全書とも称すべき書である。本書は、西鶴(さいかく)の好色物の成立に影響を与えているだけではなく、風俗研究書としても高い価値をもち、現在、元禄(げんろく)期(1688~1704)までの遊興の世界を幅広く詳細に知ることができるものとして、研究者の間で利用される機会も多い。
[谷脇理史]
『野間光辰編著『完本色道大鏡』(1961・友山文庫)』▽『同解題『色道大鏡』全3巻(1974・八木書店)』
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