(読み)いろ(英語表記)color,colour(英),Farbe(独)

精選版 日本国語大辞典 「色」の意味・読み・例文・類語

いろ【色】

[1] 〘名〙
[一] 物に当たって反射した光線が、その波長の違いで、視覚によって区別されて感じとられるもの。波長の違い(色相)以外に、明るさ(明度)や色付きの強弱彩度)によっても異なって感じられる。形などと共に、その物の特色を示す視覚的属性一つ色彩
① その物の持っている色彩。
書紀(720)雄略七年是歳(前田本訓)「鉛花弗御(イロもつくろはず)蘭沢(か)も加(そ)ふること無し」
万葉(8C後)五・八五〇「雪の伊呂(イロ)を奪ひて咲ける梅の花今盛りなり見む人もがも」
② ある定められた、衣服の色彩。
(イ) 中古、階級によって定められた、衣服の色。特に、殿上人以上が着用を許された禁色(きんじき)をいう。→色(いろ)許さる
(ロ) (天子が諒闇(りょうあん)の喪にこもる「いろ倚廬)」からかともいう) 喪服のにび色。
源氏(1001‐14頃)乙女「宮の御はても過ぎぬれば、世中いろ改まりてころもかへの程などもいまめかしきを」
(ハ) 近世婚礼や葬儀の際、近親者が衣服の上に着用した白衣をいう忌み詞。今も全国に広く点在する。
日葡辞書(1603‐04)「irouo(イロヲ) キル〈訳〉喪服を着る」
[二] 物事の表面に現われて、人に何かを感じさせるもの。
① 気持によって変化する顔色や表情。また、そぶり。
※続日本紀(797)文武即位前「天皇天縦寛仁、慍不色」
※源氏(1001‐14頃)玉鬘「ゆくりかに寄りきたるけはひにおびえて、おとどいろもなくなりぬ」
② 顔だちや姿。特に美しい容姿。
今昔(1120頃か)五「止事无(やむことなき)聖人也と云ふとも、色にめでず声に不耽(ふけら)ぬ者は不有じ」
※人情本・春色辰巳園(1833‐35)後「美服をかざりて色(イロ)をつくろい」
③ はなやかな風情。面白い趣。また、それを添えるもの。
※古今(905‐914)仮名序「いまの世中、色につき、人の心、花になりにけるより、あだなる歌、はかなきことのみいでくれば」
※徒然草(1331頃)一三八「『祭過ぎぬれば後の葵不用なり』とて、或人の、御簾(みす)なるをみな取らせられ侍りしが、色もなく覚え侍りしを」
④ 人情の厚いさま。外に現われる思いやりの気持。情愛。
※平家(13C前)五「御辺に心ざし深い色を見給へかし」
※徒然草(1331頃)一四一「あづま人は、我がかたなれど、げには心の色なく」
⑤ それらしく感じられる気配、様子。
※古今(905‐914)春下・九三「春の色のいたりいたらぬ里はあらじ咲ける咲かざる花の見ゆらん〈よみ人しらず〉」
⑥ (声、音などの)響き。調子。
※ロドリゲス日本大文典(1604‐08)「ナマルト ユウワ スバル ヒロガルノ ホカ、コトバノ irouo(イロヲ) イイチガユル コトナリ」
⑦ 能楽で、気持をこめて、節(ふし)と詞の中間のように謡う部分。また、修飾的な節まわし。
⑧ 浄瑠璃で、詞と地の中間の、詞の要素の多い部分。はなやかな感じを与えたりする。
※浮世草子・元祿大平記(1702)二「ヲロシ、三重、イロ、ウツリ、ハッハ、ソヲヲとばかりにて」
⑨ 箏で、左手の指で弦を押し、またはゆるがす弾き方。
⑩ 蹴鞠で、鞠の回転や速さの具合。
※咄本・私可多咄(1671)三「かたゐなかの人、まりけるをみて、あのありありといふは、いか成事そととふ。あれは色をみて、わか方へくる時に、人にばいそくせられましきため」
[三] 男女の情愛に関する物事。
① 中古では多く、「いろ好む」の形で、主として異性にひかれる感情、恋愛の情趣。近世は、もっぱら肉体関係を伴う恋愛。情事。
※伊勢物語(10C前)六一「これは色このむといふすきもの」
※人情本・春色梅児誉美(1832‐33)後「みな親か兄弟のために、苦界の年のうち色を商ひ色(イロ)をつつしみ用心しても」
② 正式の婚姻でなく通じている男女の関係。また、情事の相手。情人。情夫または情婦。
※俳諧・西鶴大矢数(1681)第二九「伊勢参人の面はしろしろと 事欠の色明星が茶屋」
※浮雲(1887‐89)〈二葉亭四迷〉一「朝から晩まで情婦(イロ)の側にへばり付てゐる」
③ 遊女。
※仮名草子・都風俗鑑(1681)四「是をごくゐなりと思ふ男は、山州といひ、色などといふてうれしがるなり」
④ 遊里。色里。
※浮世草子・世間胸算用(1692)二「寄合座敷も色ちかき所をさって」
[四] 種類。→(三)③。
※宇津保(970‐999頃)俊蔭「目に見ゆる鳥けだ物、いろをもきらはず殺し食へば」
[2] 〘形動〙
① 容貌や姿がはなやかで美しいさま。また、髪の毛がつややかで美しいさま。
※宇津保(970‐999頃)藤原の君「いろなる娘どもゐなみて」
※枕(10C終)二〇〇「髪、いろにこまごまとうるはしう末も尾花のやうにて丈ばかりなりければ」
② 恋愛の情趣を解するさま。色好みであるさま。
※落窪(10C後)三「越前守色なる人にて、いと興あり、嬉しと思ひて目をくばりて見渡す」
③ 風流であるさま。
※源氏(1001‐14頃)総角「目なれずもあるすまひのさまかなといろなる御心にはをかしくおぼしなさる」
[3] 〘語素〙
① 情事、遊里などに関するという意を添える。「色駕籠」「色狂い」「色事」「色好み」「色里」「色仕掛け」など。
② 調子、様子などの意を添える。「音色(ねいろ)」「声色(こわいろ)」「勝ち色」「負け色」など。
③ 種類の意を添える。「一色(ひといろ)」「色分け」など。
※浮世草子・世間胸算用(1692)一「一軒からは、古き傘(からかさ)一本に綿繰(わたくり)ひとつ茶釜ひとつ、かれこれ三色にて銀壱匁借て事すましける」
※人情本・春色梅美婦禰(1841‐42頃)三「肴を三色(ミイロ)ばかり持来りて」
[語誌]漢語の「色」は「論語‐子罕」の「吾未徳如色者也」にあるように、「色彩」のほか「容色」「情欲」の意味でも用いられるところから、平安朝になって「いろ」が性的情趣の意味を持つようになるのは、漢語の影響と考えられる。恋愛の情趣としての「いろ」は、近世では肉体的な情事やその相手、遊女や遊里の意へと傾いていく。

しき【色】

〘名〙 (「しき」は「色」の呉音)
① (rūpa の訳語) 仏語。
(イ) 五蘊(ごうん)の一つ。物質的存在の総称で、変化し、一定の空間を占有するものを意味する。眼(げん)、耳(に)、鼻、舌、身の五根と色(しき)、声、香、味、触(そく)の五境、および意識の対象となる法処中の色法との十一色を含む。色蘊。〔勝鬘経義疏(611)〕 〔般若心経〕
(ロ) 十二処、十八界の一つ。
(イ) を狭義に用いた語で、五境・六境のなかの色境をいい、眼根の対象。赤・青、明・闇などの顕色と長・短、方・円などの形色とがある。
※性霊集‐一〇(1079)「若覓可見理趣者。可見者色」
② 人、職掌、品物などの種類を漠然と表わす。
※令義解(718)公式「凡任授官位者。〈略〉其余色。依職掌簿者。並准此」

いろえ いろへ【色】

〘名〙 (動詞「いろう(色)(二)」の連用形の名詞化) いろどり。美しい飾り。あや。
※日葡辞書(1603‐04)「Iroye(イロエ)〈訳〉さまざまな色で彩色された、または描かれたものの比喩。コトバノ iroye(イロエ)〈訳〉文飾、または優しく慎み深く話すための装飾」

しょく【色】

[1] 〘名〙 光の波長によって、目が区別してうける刺激。いろ。
※名語記(1275)六「しょくといへる字は、みなしきとよまる。色・職・式・餝・飾・食等、からには、しょく。つしまには、しき也」
[2] 〘接尾〙 色数を数えるのに用いる。

いろ・む【色】

〘自マ四〙 植物やその実などが成熟して色がつく。色づく。
※談義本・山家一休(1770)二「ほんとうにいろむまでには、くいさしにしてすてる柿が数もかぎりもなき事也」

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デジタル大辞泉 「色」の意味・読み・例文・類語

いろ【色】

[名]

㋐光の波長の違い(色相)によって目の受ける種々の感じ。原色のほか、それらの中間色があり、また、明るさ(明度)や鮮やかさ(彩度)によっても異なって感じる。色彩。「が薄い」「暗い」「落ち着いた
㋑染料。絵の具。「を塗る」「がさめる」
㋒印刷・写真で、白・黒以外の色彩。「刷り」
人の肌の色。人の顔の色つや。「抜けるようにの白い人」

㋐表情としての顔色。「驚きのが見える」「不満がに出る」
㋑目つき。目の光。「目のを変えて怒りだす」

㋐それらしい態度・そぶり。「反省のが見られない」
㋑それらしく感じられる趣・気配。「秋のの感じられる昨今」「敗北のが濃い」
㋒愛想。「よい返事」
(「種」とも書く)種類。「とりどり」「選び出す」
華やかさ。華美。「大会にをそえる」
音・声などの響き。調子。「琴の」「こわ

㋐情事。色事。「を好む」「に溺れる」
㋑女性の美しい容貌。「に迷う」
㋒情人。恋人。いい人。「をつくる」
古代・中世、位階によって定められた衣服の色。特に、禁色きんじき
「昔、公おぼして使う給ふ女の、―許されたるありけり」〈伊勢・六五〉
10 喪服のねずみ色。にび色。
「女房なども、かの御形見の―変へぬもあり」〈・幻〉
11 婚礼や葬式のとき上に着る白衣。
「葬礼に―を着て供して見せ」〈浄・博多小女郎
12 人情。情愛。
東人あづまうどは…げには心の―なく、情おくれ」〈徒然・一四一〉
[形動ナリ]
女性の髪などがつややかで美しいさま。
「髪、―に、こまごまとうるはしう」〈・二〇〇〉
好色なさま。
「この宮の、いとさわがしきまで―におはしますなれば」〈・浮舟〉
[類語](1色彩色調色相しきそう色合い色目いろめ彩りあや彩色カラー/(8㋒)恋人愛人情人彼氏彼女いい人思い人思い者情夫間夫間男色男男妾若い燕情婦手掛け二号側室側女そばめ愛妾囲い者思い者内妻色女手つき一夜妻ボーイフレンドガールフレンドラバーフィアンセダーリンハニーパートナーアモーレ

しょく【色】[漢字項目]

[音]ショク(漢) シキ(呉) [訓]いろ
学習漢字]2年
〈ショク〉
いろ。「寒色原色染色着色配色白色発色変色
感情の現れた顔の様子。顔いろ。「顔色気色喜色愁色生色難色憂色令色
女性の美しい顔かたち。「国色才色容色
男女間の情欲。セックス。「漁色好色酒色男色だんしょく・なんしょく売色
ものの様子。おもむき。「異色古色秋色出色潤色遜色そんしょく特色敗色暮色国際色
〈シキ〉
いろ。「色感色彩色紙色素色調禁色きんじき金色こんじき彩色
顔いろ。「気色けしき
セックス。「色情色魔色欲
ものの様子。「景色けしき
形に現れた一切のもの。物質的存在。「色界色心色即是空しきそくぜくう
〈いろ〉「色糸色気毛色茶色音色ねいろ旗色
[名のり]しこ

しょく【色】

[接尾]
助数詞。色数いろかずを数えるのに用いる。「三かけ合わせ」「二四の色鉛筆」「三刷り」
名詞に付いて、その様子がみられる、傾向があるなどの意を表す。「郷土豊かな祭り」「対決を強める」

しき【色/拭/織/職】[漢字項目]

〈色〉⇒しょく
〈拭〉⇒しょく
〈織〉⇒しょく
〈職〉⇒しょく

しき【色】

仏語。
五蘊ごうんの一。五感によって認識される、物質や肉体。存在物。もの。
五境の一。目でとらえられるもの。色や形のあるもの。

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最新 心理学事典 「色」の解説

いろ

color,colour(英),Farbe(独)

色は物体や光の属性ではない。色は感覚の一種であり,眼に届いた光が眼や脳で処理された結果として,色という感覚(色覚color vision)が生じる。光や物体に対して感じる色は,観察時にどのような光が眼に届いているかだけでなく,それが視覚系でどのように処理されるかによっても規定される。このうち,眼に届く光の特性は,光を直接観察する場合にはその光の分光強度分布によって,物体の場合には物体を照らす照明光の分光強度分布と物体表面の分光反射率により決まる(20ページ図1)。

【色の基礎】 ヒトに光として知覚されるのは約380~760nmの波長の電磁波であり(20ページ図2),特定の波長の光だけを取り出してみると,その光は色づいて見える。ごく狭い範囲の波長のみを含む光を単色光monochromatic light,もしくはスペクトル光spectral lightとよぶ。単色光の色は波長に応じて変わり,短波長から長波長に向かって,すみれ→青→青緑→緑→黄緑→黄→橙→赤という連続的な変化をたどる。青色に見える短波長光と赤色に見える長波長光とでは光の波長のみが異なるが,感じられる色は青と赤というように質的に異なる。このことは,色が光の属性ではなく感覚であることを端的に示している。光の波長と色はある程度対応するため,ある光にどの波長光がどれだけ含まれているかによって,光に対して感じる色は変わる。波長の関数として光の強度を示したものを,分光強度分布spectral power distribution,あるいは分光エネルギー分布spectral energy distributionといい,これによって色に関する光の特性は記述できる。たとえば,図1の⒜に示した照明光(白熱電灯)は長波長領域のエネルギーが強く,橙色がかった光となる。

 照明からの光が物体に当たると,その一部は反射される。どの波長の光をどの程度反射するかを示したものが分光反射率spectral reflectanceである。この分光反射率が物体表面の色を決める主要な物理的要因である。今,照明の分光強度分布をE(λ),物体表面の分光反射率をR(λ)とすると,物体からの反射光の分光強度分布I(λ)は両者の積により求められる(図1を参照。λは波長を表わす)。

  I(λ)=E(λ)・R(λ)

図1の⒝はあるピーマンの分光反射率を示しており,緑色に見える中波長光を強く反射するため,反射光の分光強度分布においても中波長光が相対的に強い。

 色は,ピーマンの緑色のように物体表面に張り付いているかのように見える場合や,青空の青のようにどこに色が付いているのか位置関係がはっきりしないように見える場合など,さまざまな現われ方をする。こうした色の見え方の違いを,色の見えのモードmode of color appearanceの違いという。これまでさまざまな分類がなされているが,量も単純な分類としては,物体色モードと光源色モードに分ける。物体色モードobject color modeとは,ピーマンの例のように物体表面に色が付いているように見え,物体表面の属性として知覚される場合の色の見え方を指す。これに対して光源色モードlight source color modeとは,自ら発光しているように知覚される場合の色の見え方を指す。色の見えのモードは,通常は,実際に対象が光を発しているか反射しているかによって決まるが,物理的な条件ではなく観察条件によって決まることもある。たとえば,実際には色紙が光を反射している場合でも,暗黒中に単独で配置されると光源色モードとして発光して知覚される。逆に,カラーテレビの画面のように実際に発光している場合でも,周囲にさまざまな明るさや色の対象があると,物体色モードとして見える。色の見えのモードによって,色の広がり方や定位の明確さなどといった属性も変化するが,感じられる色そのものも変わる。たとえば,茶色や金色,銀色は物体色モードに特有の色であり,光源色モードで知覚されることはない。

 光の色は,色相,明るさ,彩度という三つの属性から成っている。色相hueは青や赤といった色合いのことであり,明るさbrightnessはその色がどれだけ明るいかを表わす。彩度saturation(飽和度ともいう)は,その色がどれだけ鮮やかであるかを表わす。たとえば,赤,ピンク,白の違いが彩度の違いである。色みを含んでいない白,灰色,黒の彩度はゼロであり,これらを無彩色achromatic colorとよぶ。それ以外の色は,有彩色chromatic colorという。光の色に対して物体色の三属性は,色相,明度lightness,彩度となる。明るさと明度の区別は難しいが,厳密には明るさは知覚される光の強度であり,明るい,暗いで表わすのに対し,明度は物体表面の見かけの反射率であり,白い,黒いで表わす。

 色の三属性は図3のような3次元空間(色立体)で表わす。色相は,可視範囲内の色相に紫を加えて,すみれ(青紫)→青→青緑→緑→黄緑→黄→橙→赤→赤紫→紫→すみれ…といった一連の閉じた円環形の推移として記述できる。色相の変化を円環で示したものを色相環hue circleとよぶ。色立体では,色相環の中心に無彩色を配置し,そこからどれだけ離れているかによって彩度を表わす。そして,色相環に直交する方向の変化で明るさや明度を表わす。

【色覚理論theory of color vision】 色刺激が視覚系でどのように処理されるかを説明する伝統的な色覚理論としては,三色説と反対色説を挙げることができる。

 三色説trichromatic theoryとは,3種類の光受容器の応答の組み合わせにより色の感覚を説明する色覚理論であり,19世紀初頭にヤングYoung,T.が提唱し,19世紀後半にヘルムホルツHelmholtz,H.L.F.vonが発展させ体系化した。三色説は,加法混色による等色実験に基礎をおく。加法混色additive color mixtureとは,複数の光を足し合わせる操作を指し,足し合わせる光を原刺激primary stimulusという。加法混色において各原刺激の割合を調整すると,別の光(検査光)の色と見かけ上は等しくすることができる。この操作を等色color matchingという。この際,混色光と検査光の分光強度分布は物理的に異なっているが,見かけ上は区別できなくなる。こうした等色を条件等色metameric color matchという。等色実験により,互いに独立な原刺激が3種類あれば,それらの加法混色により,任意の光と等色できることがわかっており,これを色覚の三色性trichromacyという。互いに独立とは,二つの原刺激の混色により残りの一つと等色できないことを指す。三色説によれば,色光は3種類の光受容器をある割合で応答させ,この応答の割合の違いにより色光の色が区別される。このため,たとえ物理的には異なる光であっても,光受容器に生じる応答が等しければ区別することができない。条件等色が生じるのは,このためである。

 反対色説opponent-color theoryは,19世紀後半にヘリングHering,E.によって提案された色覚理論である。今,赤色光に緑色光を混ぜていくと,赤緑色が知覚されることはなく,赤と緑は互いに打ち消し合う。このように赤と緑,そして黄と青は共存しないという観察から,ヘリングは,その背後にあるメカニズムを洞察した。反対色説によれば,視覚系には赤-緑過程と黄-青過程という2種類の色処理過程が存在し,光の波長に応じて互いに拮抗する応答を示す。極性の違いを正と負で表わすと,赤-緑過程で生じる正の応答が赤の感覚,負の応答が緑の感覚に対応する(応答の正負と色の組み合わせは恣意的なものである)。黄-青過程においても同様である。特定の光によって生じるのは正か負の応答のいずれかであるので,赤と緑,あるいは黄と青を同時に感じることはない。赤-緑過程と黄-青過程の応答の組み合わせで,色の感覚は説明される。このほかに,明るさの感覚を媒介する白-黒過程も仮定されている。こうした反対色過程を仮定することで,色順応においてある色光に順応するとその反対色(補色)に対する感度が相対的に向上すること,色残像(継時的対比)が刺激色の反対色となること,色対比現象(周囲との差を強調する方向に色が誘導される現象)において誘導色が反対色となること,などをうまく説明することができる。

 三色説と反対色説は,当初は互いに対立する理論として優劣を競い合っていたが,その後の研究によりそれぞれの妥当性を示す証拠が示され,現在では段階説として統合されている。段階説stage theory of color visionとは,色覚を階層的処理によって説明する理論であり,現在のすべての色覚モデルはこの立場を取っている。図4は段階説の概要を示す。色刺激を処理する最初の段階は,光の受容を行なう錐体過程であり,ここでは三色説的な処理が行なわれる。錐体は,光を吸収してそれを神経信号へと変換する形で応答する。多くのヒトの眼には錐体が3種類存在し,どの波長領域に対して最も感度が良いかに応じてS錐体,M錐体,L錐体とよばれている。光が眼に届くと,各錐体の感度に応じて異なる強度の応答が生じる(図5)。

 その次の反対色過程color-opponent process(錐体拮抗過程)においては,異なる種類の錐体からの信号が比較される。反対色説で想定されていたような拮抗性応答は,網膜神経節細胞や外側膝状体の細胞などにおいて,ある範囲の波長光に対しては興奮性の応答(スパイク発射頻度の増加),別の範囲の波長に対しては抑制性の応答(スパイク発射頻度の減少)が生じるという形で,広く認められる。拮抗性応答を示す網膜神経節細胞は複数種の錐体から入力を受けており,錐体の種類と入力の符号(興奮性入力か抑制性入力か)により,大きく二つのタイプに分類される(図4)。一つは,L錐体とM錐体から拮抗性の入力を受ける細胞(L-M型細胞)であり,もう一つはS錐体とそれ以外の錐体から拮抗性の入力を受ける細胞[S-(L+M)型細胞]である。光の強度情報は,L錐体とM錐体から興奮性の入力を受けるL+M型細胞により伝達される。

 このように,段階説においては,三色説と反対色説に対応する処理過程が想定されているが,錐体過程や反対色過程における応答が直接的に色の感覚に結びついているという考えは現在では否定されている。それぞれの段階は,あくまでも色処理の中間段階に当たり,色の感覚が生じるためには,さらに高次の段階(高次過程)での処理が必要となる(図4)。大脳皮質における色処理は,現在盛んに研究されており,特定の色相や彩度に対応する狭い色範囲に選択性を示す細胞や,特定の色カテゴリーに選択性を示す細胞の存在が示唆されている。

【色覚型】 色覚の基本的な機能を,光の強度の違いとは独立に分光強度分布の違いを識別することだと考えると,これは,錐体が2種類あれば十分に実現できる。実際に,錐体(厳密には錐体視物質)を2種類しかもっていないヒトもおり,この場合の色覚を二色覚dichromatismという。いわゆる色盲のことであるが,色が区別できないわけではないので,この名前は適切ではない。二色覚は,等色の際に2種類(2色)の原刺激しか必要としないことから,かつては二色型色覚とよばれたが,色盲の名称を一掃するために日本医学会により改訂された色覚関連用語では,この名前が採用されている(表)。

 等色の際に3種類の原刺激を必要とするのが三色覚trichromatismである。三色覚者は,多数派を占める一般色覚者(正常色覚者)と,多数派とは等色の際の原刺激の混色率が異なる異常三色覚者anomalous trichromatに分かれる(異常三色覚は,かつては色弱とよばれていた)。混色率の違いは,ある錐体視物質の分光吸収特性が一般色覚者と異なることにより生じる。分光吸収特性の変化の程度はさまざまである。二色覚と異常三色覚に関しては,どの錐体視物質が欠けているか,あるいは分光吸収特性が変化しているかによって分類されており,L錐体,M錐体,S錐体に問題がある場合を,それぞれ1型,2型,3型という。さらには,錐体を1種類しかもっていないヒトもごくまれにおり,その色覚を錐体一色覚とよぶ。また,錐体をすべて欠いている色覚障害もあり,これを桿体一色覚という(表)。これらの場合には,色覚が成立せず,分光強度分布の違いを区別できない。

 二色覚や異常三色覚といった色覚異常color vision deficiencyのうち先天性のものは,L錐体もしくはM錐体に問題がある場合がほとんどである。これらの錐体視物質に関する遺伝子はX染色体に存在し,分子遺伝学的研究が進んでいる。S錐体視物質に関する遺伝子は,常染色体に存在する。疾病などによる後天性の色覚異常に関しては,S錐体過程に障害が現われることが多い。

 一般色覚者であっても,条件によっては色覚が制限される。視細胞のうち桿体は1種類しかないため,桿体のみが働く暗所では,だれでも分光強度分布の違いを色の違いとして区別できない。また,視野周辺部では色を見分けることはできなくなる。視野内で色を見分けることができる範囲を色視野color zoneとよぶが,色によって広さが異なり,赤,緑よりも,黄,青の方が広い。中心窩のさらに内側の中心小窩とよばれる領域(視角約20′)にはS錐体が存在しない。そこでの色覚を微小領域3型二色覚small field tritanopiaという。

 以上のようにヒトの色覚型は多様であり,あるヒトには見分けられる色の違いが別のヒトには区別できないといったことが起こる。このため,すべてのヒトに情報が適切に伝わるように配慮した視環境を構築し,色彩設計を行なうことが望まれる。こうした利用者の側に立ったデザインを,ユニバーサルカラーデザインuniversal color designという。具体的には,できるだけ多くのヒトが見分けることのできる配色を選ぶこと,色の違いだけでなく,記号や文字,形など他の視覚情報を同時に用いることなどが重要となる。

【表色系color specification system】 色を定量的に示す体系である表色系は,色の見えに基づく顕色系color appearance systemと,等色実験に基づく混色系color mixing systemとに分けられる。前者の代表例がマンセル表色系であり,後者の例が国際照明委員会Commission Internationale de l'Eclairage(CIE)により定められたXYZ表色系である。マンセル表色系Munsell color notation systemは,マンセルMunsell,A.H.が自らの観察を基に色の見えを体系化したのが始まりである。その後,アメリカ光学会によって,実験結果に基づいて修正された。これを修正マンセル表色系というが,「修正」を付けずによばれることも多い。図6の⒜のマンセル表色系は,物体の色(表面色)を表わす体系であり,色相,明度,彩度に対応するヒューhue(H),バリューvalue(V),クロマchroma(C)の値によって色を特定する。この三属性が,それぞれ等歩度(感覚的に等間隔)となるように数値化されている(ただし,異なる属性間ではスケールが異なるので,比較はできない)。

 三属性のうちヒューに関しては,図6の⒝に示されているように,基本色相である赤(R),黄(Y),緑(G),青(B),紫(P)を色相環上に等間隔に配置し,次にそれらの間に混合色の黄赤(YR),緑黄(GY),青緑(BG),紫青(PB),赤紫(RP)を等間隔に配置して,色相環が10等分されている。さらに,隣り合う色相の間を10等分し,その数字を色相名に付けることによって細かい色相の違いが表わされる。各色相を代表する色は5の付いた色相であり,たとえば5Rが最も赤らしい色となる。クロマは色みの量を表わし,無彩色でゼロとなる。無彩色は色相環の中央に配置される。そこから放射状に外側に延びる線が等色相線であり,中心から離れるにつれてクロマは大きくなる。バリューに関しては,黒をゼロ,白を10とし,感覚的に等間隔となるように目盛りが付けられている。マンセル表色系では,色をHV/Cのように指定する。たとえば,5BG 4/6の色は,ヒューが5BG,バリューが4,クロマが6ということになる。ヒュー,バリュー,クロマの値を感覚的に内挿することで,小数点以下の値も使用される。

 混色系では,3種類の原刺激をどのような割合で加法混色すれば等色できるかによって色を特定する。等色に必要な原刺激の量を三刺激値tristimulus valueといい,等エネルギーの単色光に対する三刺激値を等色関数color matching functionという。

 CIEによって1931年に提案されたRGB表色系は実際の等色実験との対応が明確であり,標準観測者standard observerという平均的な観察者を想定し,その等色データとして作られている。ただしRGB表色系には,一部で等色関数が負の値を取るという特徴があり,三刺激値の計算の際に厄介な問題を引き起こす恐れがあった。このためCIEは,等色関数がすべて正の値を取るXYZ表色系も提案した。XYZ表色系の等色関数を図7の⒜に示す。XYZ表色系の原刺激は,実用上の使いやすさを重視して選ばれており,等色関数のうちȳ(λ)は明所視の標準比視感度standard relative luminous efficiencyと一致する。色刺激を特定する三刺激値X,Y,Zの計算は,等色関数 x̄(λ),ȳ(λ),z̄(λ)と色刺激の分光強度分布E(λ)を用いて以下の式により行なう(は定数)。得られる三刺激値のうちは輝度値となる。



 混色系において,明るさを考慮せずに色のみを特定する場合に使用されるのが,色度座標chromaticity coordinateである。これは,各三刺激値を表わす軸から構成される直交座標系を考えたときに,色刺激を表わす色ベクトルと単位面との交点の座標である。色刺激の三刺激値をX,Y,Z,色度座標をx,y,zで表わすと,色度座標は以下の式で定義される。



x+y+z=1

 色度座標の和はつねに1となるため,通常は図7の⒝の単位面をxy平面に投影したxy色度図xy chromaticity diagramを色の表示に使用する。色度図上に単色光の色度座標を示したものをスペクトル軌跡spectral locusとよび,スペクトル軌跡の短波長端と長波長端をつないだ線を赤紫線purple lineという。実在するすべての色刺激の色度座標は,スペクトル軌跡と赤紫線で囲まれた領域内に位置する。

 XYZ表色系を用いれば色の特定と表示は可能であるが,色の違いを示すときに問題が生じる。表色系内で同じ距離だけ離れていても,色差が等しいとは限らないのである。こうした問題点を補正し,均等な(つまり,色空間内の距離が感覚的な色差と対応する)色空間を得ようとする試みがこれまで数多くなされている。CIEは1960年に,xy色度図を線形変換したuv色度図を,そして1976年にはこれを修正したu′v′色度図を採択した(図8)。この色度図では,補正の結果,図7の⒝に示したxy色度図と比較して,スペクトル軌跡の形状が変化している。CIEは,同じく1976年に物体色に関する均等色空間として,L***色空間とL***色空間を提案した。前者はu′v′色度図を継承する形で定義され,後者はそれとは別個に定義されている。u′v′色度図では色度座標のみを扱い2次元平面で色を表示するが,L***色空間とL***色空間は明度の軸を含む3次元空間で色を表示するため,色相,彩度,明度の違いをすべて扱える。ただし,L***色空間とL***色空間はともに,照明光ごとに定義されるものであり,異なる照明のもとでの物体の色の差を比較することはできない。

【色の諸側面】 色の三属性である色相,明るさ,彩度は,概念的には独立なはずであるが,この独立性は完全ではない。波長が一定であっても,光の強度が変わると色相が変わって見えることがあり,これをベツォルト-ブリュッケ現象Bezold-Brücke phenomenonという。一般に,光の強度が上がると黄や青の感覚が増し,逆に強度が下がると赤や緑の感覚が増す。ただし,特定の波長の光では強度変化にかかわらず色相が変化しない。これを不変色相invariant hueという。他にも,彩度によって色相が変わる現象があり,これをアブニー効果Abney effectという。ある波長の単色光に白色光を加えると,白色光の量に応じて光の彩度は変化する。この際,単色光の波長は一定であるので色相は変化しないと考えられるが,実際には彩度の変化とともに色相も変化することがある。さらに,輝度が等しくとも,彩度が高い光ほど明るく見えるヘルムホルツ-コールラウシュ効果Helmholtz-Kohlrausch effectも知られている。

 図1に示したように,物体からの反射光は,物体表面の分光反射率だけでなく,照明の分光強度分布によっても変わる。このため,分光反射率が一定であっても,照明が変われば反射光の分光強度分布も変化することになる。しかし,異なる照明のもとでも同じ物体は同じ色に見えることが多い。このように,照明の違いにもかかわらず,物体の色が比較的恒常に保たれる現象を色の恒常性color constancyという。色の恒常性は,形や大きさの恒常性とともに物体の区別や同定に重要な役割を果たしている。色の恒常性が成立するためには,物体の分光反射率の特徴を反映できるよう照明光の分光強度分布が十分に広帯域でなくてはならず,空間的文脈が豊かで視野内に分光反射率の異なる物体が複数存在することが重要である。色の恒常性のメカニズムとしては,錐体過程における色順応が重要な役割を果たしている。3種類の錐体は,それぞれが照明光に応じて独立に順応し,感度を変えるため,これにより照明光の分光強度分布の変化はかなり相殺できる。

 ヒトは,わずかな波長の違いを色の違いとして見分けることができる一方で,ある程度の違いがあったとしても,ある範囲内の色をまとめて同じ色(たとえば赤)として扱うことができる。こうした色処理をカテゴリカル色知覚categorical color perceptionとよぶ。バーリンBerlin,B.とケイKay,P.は,言語における色名の発達には国や文化によらない普遍性があり,よく発達した言語にはどれも,白,黒,灰,赤,緑,黄,青,茶,紫,橙,ピンクという11の基本カテゴリー色に対応する色名が存在するとした。これら色名の使用に関しては,同一個人内,あるいは個人間で一貫性が高く,色の命名の際の反応時間も短いことがわかっている。また,チンパンジーでも同様の色カテゴリーが確認されている。こうした異なる言語における色名の共通性により,基本カテゴリー色の神経基盤は生得的に決まっていることが示唆されるが,基本カテゴリー色の普遍性を否定する研究もあり,今後さらに研究が必要とされる。なお,色の記憶も色カテゴリーの影響を受け,記憶した色はカテゴリーの代表色に近づくことが知られている。

 色は他の感覚効果や印象を生じさせることもある。まず,暖かい,暑いという印象を与える暖色warm colorと,その逆に冷たいとか寒いという印象を与える寒色cold colorがある。赤や黄系統の色が暖色であり,青系統の色が寒色である。この他にも,色によって対象の奥行きや大きさが異なって見えることも知られており,たとえば物理的には同じ距離に置かれていたとしても,手前に見える進出色advancing colorと,逆に奥に引っ込んで見える後退色receding colorがある。色相が重要な規定因であり,暖色の赤や黄系統が進出色となり,寒色の青系統が後退色となる。この他にも,物理的には同じ面積であるのに,大きく膨らんで見える膨張色expanding colorと,その逆に小さく縮んで見える収縮色contracting colorがある。膨張色と収縮色に関しては,重要な規定因は明度であり,明度が高いほど大きく,低いほど小さく見えるとされている。 →明るさの知覚 →恒常現象 →視覚 →視覚刺激
〔木村 英司〕

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「色」の意味・わかりやすい解説


いろ
colour

ヒトの眼に見える可視光は波長 380~780nmの範囲にある。光のエネルギーが狭い波長範囲に集中した単色光では,波長の長いほうから順に赤,橙,黄,黄緑,緑,青,紫の色感を与える。白色光ではあらゆる波長の光がほぼ一様に分布している。光の波長分布がわかれば色が決まるが,逆に色がわかってもその光の波長分布は決まらず,一つの色を与える波長分布は無限にある。このように色は単純な物理量ではなく,生理的・心理的な感覚量である。三色説では,赤,緑,青紫の三原色の色刺激に感じる 3種の受光器(錐状体)が眼に存在していると仮定し,これら三つの色刺激が混合して色感を生じると考える。この説を確証するものとして,1960年代に進歩した顕微分光測光の技術により,長波長(赤),中間波長(緑),短波長(青紫)の光で最大の吸収を示す 3種の錐状体の存在が確認されている。色感には,ほかにヘリングの色覚説,四原色説,五原色説などもあり,それぞれを支持する実験事実もあって,確立された色覚説はいまだにない。
一つの色は種々の波長の光を適当に加減してつくることができ,混色の方法も一義的に定まらないが,指定された三つの色光の混合によってつくるとすれば混色の割合が一義的に定まる。色光を定量的に表示するのに用いられる CIE表色系は国際照明委員会 CIEが設定し,国際的に協約された三つの原色光の混合による表示法である。物体の色は表面からの反射光の色であって,その明るさは表面の反射率によって決まる。表面色は,視覚の心理的感覚を表す三つのパラメータ,明るさを表す明度,色の質を表す色相と彩度(飽和度)を用いても体系化される。1915年アルバート・H.マンセルはそれに基づいて多数の標準色票を作成した(→マンセルの表色系)。これらを三次元的に配列したものを色立体という。試料片の表面色を指定するには,試料表面と標準色票との色を標準光源の照明のもとで眼視比較し,色が一致した色票の番号で示す。CIE表色法では,三つのパラメータに対応する量として順に視感反射率,主波長,純度を用いて定量的に色を扱う。主波長と純度で表示される色の質(色度)を二次元図で表現したのが色度図である。
色は絵画として昔から親しまれ,塗料,染色織物,カラー印刷物,カラー写真,カラーテレビジョンなどとして生活環境を形成し,また心理的・生理的にも現代生活に深く関与しているが,前述のような標準的な表色法が確立されたのは 1930年代のことである。


しき
rūpa

仏教用語。 (1) 五蘊のうちの色蘊。生成,変化する物質的存在の総称。 (2) 狭義には物的存在の諸属性のうちの「いろ」と「かたち」をさす。眼根の対象となるもので,色境,色処,色界をいう。

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山川 世界史小辞典 改訂新版 「色」の解説

色(いろ)

古来から,さまざまな色が魔除けや吉兆など呪術的意味をこめて,身体や衣服の装飾,建築物の塗装などに使われてきた。同時に,色は歴史的に身分や位階など社会集団内での区分や差別に,また国旗のように国家や共同体の統合シンボルにも使われてきた。それぞれの色がどのような意味を持つかは,時代や文化圏で違いがあり,例えば黄色は中国では皇帝の色とされたが,ヨーロッパではユダヤ人を社会的に排除し,差別する色として利用された。他方では,古代ローマでは紫が皇帝の占有色とされ,東洋でも紫は高い身分の象徴として使われたように,地域や時代をこえた共通性がみられる場合もある。ヨーロッパでは,近代になると色が政治的立場やイデオロギーを象徴するものにもなった。赤が革命を,白が反革命を表現するようになったのは,その代表的例である。イスラーム世界についてみると,コーランには,色が象徴する意味についての言及はみられない。しかしムハンマドが緑の旗を用いた故事にもとづいて,緑のターバンは預言者の子孫を示すものとされた。純血や高貴さを示す白はウマイヤ家の色として軍旗やターバンに用いられ,この王朝に反逆するアッバース家はその象徴として黒を採用した。また,ムスリムと区別するために,ユダヤ教徒が黄色,キリスト教徒が青色のターバンの着用を義務づけられることもあった。中国では古来より人類に欠くべからざるものとして五行(ごぎょう),すなわち木火土金水を重んじ,それぞれいろいろなものに配当した。色もまた,その一環とし青赤黄白黒の五色が正しい色として重んじられた。前述のように黄は中央に位置したことから皇帝の色とされた。また,赤は赤眉(せきび)の乱紅巾(こうきん)の乱など,しばしば農民反乱のシンボル色となった。五行はまた季節(春,夏,土用,秋,冬),方位(東,南,中央,西,北),感情(喜,楽,慾,怒,哀),数(八,七,五,九,六)などにも適用されたことから,青赤黄白黒がそれぞれ順番にそれらの特徴をなす色と考えられた。

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百科事典マイペディア 「色」の意味・わかりやすい解説

色【いろ】

光の波長に関するエネルギーの差によって質の差が認められる視覚を色覚といい,色覚を起こす光を色刺激というが,色とは色覚と色刺激の両方をさす。また,光源または物体の特性も表す(光源色,物体色)。波長約380nm〜810nmの単波長の光は順に紫青緑黄赤などの色(スペクトル色)を呈する(可視光線)が,現実の光は種々の波長の光を含み,その混合の割合(光の分光組成)で色が決まる(加法混色減法混色)。物体の色はふつう可視光線の一部を(選択)吸収して残りを反射または透過するため生ずる。色は色相明度彩度の三基本属性をもち,それらの数値により正確に表示される(オストワルト表色系,CIE表色系,色名マンセル表色系)。
→関連項目NTSC方式原色

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世界大百科事典 第2版 「色」の意味・わかりやすい解説

しき【色】

仏教用語で物質のこと。物質を表すのに仏教ではサンスクリット語でルーパrūpaという語を用いるが,この語は色と漢訳される。物質といっても現代でいう原子・分子からなる事物を意味するのではない。それは(1)同一空間に2者が共存できないもの(質礙(ぜつげ)),(2)変化して壊れてゆくもの(変壊(へんね)),(3)悩まされるもの(悩壊(のうえ))という三つの性質を備えたものとして次のようなものを色と考える。まず五蘊(ごうん)のなかの一つである色蘊の色とは,こころに対応する物質的なるものの総称であり,具体的には五根(眼,耳,鼻,舌,身の五つの感覚器官)と五境(色,声,香,味,触の五つの感覚対象)と無表色(戒体など具体的に知覚されない物質的なるもの)との11種がある。

いろ【色 color】

私たちは物を見るときその形を知覚するが,黄だとか青だとか,あるいは赤だとかの色も同時に知覚する。このように色とは私たちの目が光に対して感ずる知覚の一つであると表現することができよう。光が目に入る,網膜の視細胞がこの光を吸収する,そして電気的反応が生じて大脳へ送られる,色を知覚する大脳の細胞が興奮する,そして色を感ずる。このようにいうこともできる。つまり色は目の働きによって生ずる。したがって当然のことながら目を閉じると色は見えない。

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化学辞典 第2版 「色」の解説


イロ
color

可視光(およそ380~780 nm)が人の目に入って生じる感覚.可視光に作用するタンパク質を視紅(ロドプシン)というが,この視紅を含む,赤,緑,青に強く感じる3種類のすい状体があり,視覚はこれらの混合によっていろいろな色を識別していると考えられている.

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[日本酒・本格焼酎・泡盛]銘柄コレクション 「色」の解説

しき【色】

岐阜の日本酒。燗酒が好きだったという芸術家・池田満寿夫とともに商品企画された本醸造酒。ラベルデザインも池田による。味わいは飲みあきしない辛口。原料米はひだほまれ。仕込み水は飛騨山脈の伏流水。蔵元の「老田酒造店」は享保年間(1716~1736)創業。所在地は高山市清見町牧ヶ洞。

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世界大百科事典内のの言及

【楽譜】より

…リズムの組合せは4種類あるが,その区別を示すシグヌムsignum(曲頭におかれる,今日の拍子記号に相当する記号)は付されないのが普通である。14世紀も末になると,複雑なシンコペーションや変則リズムを示す〈点〉(プンクトゥスpunctus)や着色した色符(コロルcolor)を多用した技巧的な作品が作られている。(3)14世紀イタリア記譜法 フランスの初期定量記譜法を基礎としているが,6通りの基本的なリズムを表示することができ,曲頭にはシグヌムが置かれてリズム型を示している。…

【色素】より

…一般に色素という定義は判然としていないが,通常はその物質に特有の色を呈し他の物体に色を与える物質を指す。固有の色をもつ物質であっても,色の濃さが著しく小さいものは色素とはいい難い。色素と総称されるものには,動物や植物より得られる天然色素(生体色素),天然物である鉱物をごく簡単な処理で加工した鉱物色素,無機の原料より化学的操作を経て着色を目的として造られた無機顔料,有機合成によって製造された有機工業色素が含まれる。…

【儀礼】より

…しかし,19世紀末以降の人文・社会科学,ことに民族学者・社会人類学者らによる調査と研究は,この言葉により深い意義と広がりとを与えた。すなわち,儀礼という行動様式は,ふだんの生活とは異なった時間と空間の中で行われ,さまざまな歌や踊り,色鮮やかな衣装や飾り物などを伴って,ある場合は荘厳な雰囲気を,またある場合は陽気な喧噪状態を作りだし,日常生活の中の言語や通常の技術的道具などでは表し伝ええない,社会の連帯といった価値や,結婚・死といった重大なる事件を明確に表現し,心に強く刻みこむ働きを持つ,ということが明らかになった。そしてある種の経済的交換,集団間の戦争,さらには社交や挨拶など直接には宗教と無関係の活動にまで儀礼という言葉の意味するところを広げ,これらの中に儀礼的要素を見いだし,もしくは儀礼的側面から理解しようとするようになった。…

【化粧】より

…主として顔およびその周辺の皮膚に色彩を施したり,光沢を付加したりする装身行為をさすが,広義にはボディ・ペインティングなどの身体装飾,抜歯や入墨などの身体変工を含めた装身行為をさす。また最近では,〈美容〉という言葉を化粧と同義に用いることもあるが,これは化粧だけでなく,化粧の予備行為を含んでいる。…

【身体装飾】より

… ボディ・ペインティングは最も手軽な身体装飾として熱帯地方の原住民をはじめとして広く行われている。鉱物性や植物性の顔料(白土,黄土,赤土,墨,植物の色汁など)を,獣脂で練ったりして用いる。全身あるいは身体の一部に彩色するが,顔面(とくにほお),胸,胴体部などが多い。…

【名】より

…〈恥〉や〈罪〉は,それぞれの文化を背負った人々が概念化し,その特殊な概念に名を与えたものである。 時間,空間,色などに関する名は,名付ける側の文化的規定性と名付けられる対象自体の性質の中間に成立するものであろう。たとえば,時間そのものは連続的なものであり,それをどのように分節するかによって異なった概念および名が出現する。…

【五蘊】より

…サンスクリットでは,パンチャ・スカンダpañca‐skandhaという。生命的存在である〈有情(うじよう)〉を構成する五つの要素すなわち,色(しき),受(じゆ),想(そう),行(ぎよう),識(しき)の五つをいう。このうち(ルーパrūpa)には,肉体を構成する五つの感覚器官(五根)と,それら感覚器官の五つの対象(五境)と,および行為の潜在的な残気(無表色(むひようしき))とが含まれる。…

【仏教】より

…前者は南伝,後者は北伝の資料に基づく計算であるが,目下のところ,いずれかに正否を断定できる資料はない。
[宗教的特色]
 釈迦在世時のインドでは,正統派の宗教家たるバラモン(婆羅門)と並んで,沙門(しやもん)(シュラマナ)と呼ばれる多種多様な宗教家,思想家がおり,なんらかの方法で輪廻(りんね)からの解脱を求めて修行し,またその道を説いていた。釈迦もまた,この出家遊行して乞食によって生活する沙門の道を選び,また修行方法として,身心を苦しめ鍛えて超能力を得る苦行の代りに,精神の統一,安定によって真理を直観する禅定(ヨーガと同じ)を採用した。…

※「色」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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