改訂新版 世界大百科事典 「花嫁代償」の意味・わかりやすい解説
花嫁代償 (はなよめだいしょう)
bridewealth
婚姻に際し花婿側から花嫁側に代償として贈られる財貨およびサービス。婚資という語が用いられることもあるが,これは持参財あるいは婚姻に要する費用や資金の意味にも解されるので,花嫁代償または略して嫁償と称するほうが適当であろう。とくにアフリカで盛んに行われ,進出初期の西ヨーロッパの宣教師たちは,これを人身売買とみなして花嫁代価bride-priceと称していた。しかし女性が商品として自由に取引されるわけではなく,嫁償は花嫁を育てた親が娘を手放すことに対する慰藉料,および花嫁のもつ性,出産,家事その他の労働能力と将来生まれてくる子に対する権利が,女側から男側に引き渡されることに対する代償と解される。社会によっては,夫としての権利の承認に見合う贈物と,父としての権利の承認に見合う贈物とを区別し,前者の支払いを済ませて同棲が許され,子どもが生まれていても,後者の支払いが完了するまでは,妻の親族が子どもへの権利を保有しているところもある。同じ理由から,別居していても後者が夫側に返済されるまでは,離婚とはみなされない。
夫と妻の経済活動がはっきり区別されるアフリカの典型的な嫁償に対し,ヨーロッパや東アジアなどでは夫婦の財産が共同で管理されることが多く,嫁償の性格もやや異なっている。たとえば中国の聘財(へいざい)は,花婿側から花嫁側に金品の形で贈る。花嫁側ではその多くの部分を嫁入りに際し新居に持ってくるので,むしろ花婿に対する財産の生前分与の一部としての意味をもっている。したがって,聘財をめぐる交渉で花嫁側が高額にするよう主張するのは,アフリカにおけるように自分たちの取分を多くするというより,新夫婦への財産分与をできるだけ多く確保することにある。G.P.マードックの統計によると,241社会のうち約半数が嫁償を制度としている。夫方居住婚に多くみられ,妻方居住婚や新居住婚,双居住婚では欠けているか,あっても低額である。嫁償の有無は,女性の地位の高低とは直接の関係がないという報告もある。なお花婿が婚姻の前後,一定期間,花嫁の親に労役奉仕bride-serviceをする慣行は,多くの場合嫁償に見合うものと解されている。
→婚姻 →持参金
執筆者:末成 道男
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報