文芸評論家、小説家、劇作家。明治42年3月29日、福岡市生まれ。京都帝国大学英文科中退。1940年(昭和15)、中野秀人(ひでと)、岡本潤らと『文化組織』を創刊、奇抜なレトリックと弁証法を駆使したエッセイを発表、評論集『自明の理』(1941)、『復興期の精神』(1946)によって評論家としての地位を確立した。第二次世界大戦後は『近代文学』『新日本文学』などに拠(よ)り、文学、演劇、映画など幅広く芸術的プログラムを提示、知識人の硬直した論理や感傷的ヒューマニズムを批判しつつ、現実変革のための前衛理論の確立に努めた。「前近代的なものを否定的媒介として近代を超える」という命題と、『復興期の精神』以来のルネサンス的人間への関心は、のち小説・劇作の分野で具体的に展開され、『鳥獣戯話』(1960~1962)、『爆裂弾記』(1962)、『小説平家』(1967)、『室町小説集』(1973)などの作品を生んだ。評論集に『アヴァンギャルド芸術』(1954)、『近代の超克』(1959)、『日本のルネッサンス人』(1974)など多数がある。昭和49年9月23日没。
[石崎 等]
『『花田清輝全集』15巻・別巻2(1979~1980・講談社)』▽『小川徹著『花田清輝の生涯』(1978・思想の科学社)』▽『宮内豊著『ある殉死 花田清輝論』(1979・講談社)』▽『岡庭昇著『花田清輝と安部公房――アヴァンガルド文学の再生のために』(1980・第三文明社)』▽『『花田清輝の世界』(1981・新評社)』▽『絓秀実著『花田清輝 砂のペルソナ』(1982・講談社)』▽『平野栄久著『流行と不易――花田清輝論』(1982・近代文芸社)』▽『好村冨士彦著『真昼の決闘――花田清輝・吉本隆明論争』(1986・晶文社)』▽『関根弘著『シリーズ民間日本学者 花田清輝――二十世紀の孤独者』(1987・リブロポート)』▽『池内紀編『日本幻想文学集成29 花田清輝』(1994・国書刊行会)』▽『石井伸男著『転形期における知識人の闘い方――甦る花田清輝』(1996・窓社)』▽『菅本康之著『フェミニスト花田清輝』(1996・武蔵野書房)』▽『土井淑平著『尾崎翠と花田清輝――ユーモアの精神とパロディの論理』(2002・北斗出版)』▽『乾口達司著『花田清輝論――吉本隆明/戦争責任/コミュニズム』(2003・柳原出版)』▽『粉川哲夫編『花田清輝評論集』(岩波文庫)』
昭和期の評論家,小説家,劇作家
出典 日外アソシエーツ「20世紀日本人名事典」(2004年刊)20世紀日本人名事典について 情報
評論家,作家。福岡市生れ。1931年,京大選科在学中に《サンデー毎日》の小説募集に応じて《七》が入選。昭和10年代には主として《文化組織》に評論を発表,戦後にそれらを編成した《復興期の精神》(1946)を出し,ユニークな評論家として注目された。やや難解なレトリックに満ちているが,現代を〈転形期〉として見すえながら変革をめざすその思想は,広い影響力を持った。52-54年《新日本文学》編集長を務める。《アヴァンギャルド芸術》(1954),《大衆のエネルギー》(1957)などを通じて芸術運動の新方向を開拓し,他方,埴谷雄高,吉本隆明らとの論争を通じて,政治における心情主義を批判し,自身の立場を示した。60年代以後は小説をも執筆し《鳥獣戯話》(1962),《小説平家》(1967)などがあり,また戯曲《ものみな歌でおわる》(1964)なども知られる。文学における自閉症的な孤独を冷笑する風刺精神は,そのレトリックとともに,ひときわ異彩を放った。
執筆者:磯田 光一
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