花祭(読み)はなまつり

精選版 日本国語大辞典 「花祭」の意味・読み・例文・類語

はな‐まつり【花祭】

〘名〙
① 四月八日の釈迦誕生日に修する灌仏会(かんぶつえ)の俗称。花で飾った御堂を作り、その中に釈迦の誕生仏を安置して甘茶をそそぎかけて供養する。《季・春》
※東京年中行事(1911)〈若月紫蘭〉四月暦「其翌年も伯林(ベルリン)で同じ風の花祭(ハナマツリ)が行はれ」
愛知県北設楽(しだら)郡地方を中心に、年末から新春にかけて行なわれる祭。祭場中央湯釜を据え、その周囲で、青少年が中心になって多くの舞が舞われる。花神楽とも。《季・冬》
※春のことぶれ(1930)〈釈迢空〉雪まつり「花祭りの夜 たどたどの 翁語りや。かつがつに 聴き判(わ)く我も、旅の客なる」

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デジタル大辞泉 「花祭」の意味・読み・例文・類語

はな‐まつり【花祭(り)】

4月8日釈迦しゃかの誕生日に修する灌仏会かんぶつえ通称 春》
愛知県北設楽きたしたら郡を中心に、年末から正月にかけて行われる祭事。祭場の中央にかまどを築いて湯釜を据え、その周囲でさまざまの舞が行われる。花神楽 冬》「山やまは霧に眠りて―/鴻村」

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「花祭」の意味・わかりやすい解説

花祭
はなまつり

愛知県東栄町豊根村を中心に,旧暦霜月,今日では 11月から 3月にかけての時期に集落ごとに行なわれる神楽の祭り。土地の人々は単に「花」と呼ぶことが多い。舞庭につくったかまどで湯を立てて夜通し行なわれ,祭りの司祭者の太夫とそれを補佐する宮人(みょうど)による神事と,種々の神楽とで構成される。花祭は,浄土に見立てた白山(しらやま)という小屋に籠った還暦の村人たちを鬼が救い出して生まれ変わらせる行事などからなる大神楽を,江戸時代後期に再編・簡略化したもので,滝祓いや祭りの場にやって来る雑神をまつる高根祭り(天狗祭り),辻固めに始まる。その後,諸国一宮や近在の神々を勧請する神寄せ,湯立てなどの神事に続いてに移り,最後に舞庭の天井につるした白蓋(びゃっけ)という切り紙飾りをはずすなどの神送りをして終わる。舞には仮面を着けない花の舞や三ツ舞,四ツ舞などの舞と,山見鬼(山割鬼),榊鬼,茂吉鬼(朝鬼)による鬼の舞,天岩戸神話などを演じる演劇的な舞があり,最後に釜祓いなどとも呼ばれる獅子舞が行なわれる。東栄町古土(ふっと)の権現山山頂の白山神社で,今日では 12月第2土曜日に行なわれている白山祭りは,花祭の開始を告げる祭りと伝えられている。1976年に国の重要無形民俗文化財に指定された。

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世界大百科事典 第2版 「花祭」の意味・わかりやすい解説

はなまつり【花祭】

普通は4月8日の灌仏会(かんぶつえ)を花を飾りたてて行うことから花祭という。近世に,浄土宗が灌仏会を花祭と称してから,この名称が一般に広まった。 民俗学では,花祭といえば灌仏会のことではなく,愛知県北設楽郡を中心に長野・静岡・愛知の県境の二十数ヵ所に分布する霜月神楽(しもつきかぐら)をいうことが多い。花祭は花神楽ともいわれ,現在では十数ヵ所に減り,祭日も旧霜月から1月初旬に変わり,内容もしだいに略化されつつある。

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デジタル大辞泉プラス 「花祭」の解説

花祭

愛知県北設楽郡地域の各地で、11月~3月にかけて行われる湯立神楽を総称していう。集落ごとに形式は若干異なるが、煮立てた湯の入った釜の周囲で徹夜で舞う点は共通。「花祭」の名称は、深夜に行われる稚児舞の演目「花の舞」から。1976年、国の重要無形民俗文化財に指定。

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事典・日本の観光資源 「花祭」の解説

花祭

(愛知県北設楽郡設楽町)
東海美の里百選」指定の観光名所。

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世界大百科事典内の花祭の言及

【鬼】より

… 一方霊力によって悪魔をはらう鬼もある。このような鬼が登場してくるものとして愛知県北設楽郡の村々で行われている花祭がある。この祭りには榊鬼(さかきおに)が登場する。…

【神楽】より

…この流派が最も広く分布しているが,高千穂神楽では採物神楽に傾き,江戸の里神楽では神話のことごとくを黙劇に仕組むというように能に傾いている。(3)湯立神楽は神聖な湯花に触れて祝福を得ようとするもので,伊勢神宮外宮(げくう)の御師(おし)と呼ぶ外勤神職団によって広められ,伊勢流と呼ばれているが,今は伊勢になく,秋田県平鹿郡の保呂羽山波宇志別神社の霜月神楽や愛知県の花祭などに残されている。湯釜をすえて神々を勧請(かんじよう)し,数々の潔(きよ)めの舞を舞い,ときには見物人に湯花を振りかけるのである。…

【霜月祭】より

…北九州の丑の日祭,奥能登のアエノコト,天草や長島の山祭,中国地方の先祖講,ダイジョウ講のほか,各地の氏神祭や大師講などが代表的なものといえる。また三遠信の国境地帯の遠山祭,冬祭,花祭や秋田県保呂羽(ほろは)山の霜月神楽のように神楽形式の祭りを行う場合も多い。南島の霜月祭,冬折目は本土とは異なり,里芋,甘藷,山芋など芋類の収穫祭となっており,より古い形ではないかとみられている。…

【天狗】より

…これに対して愛宕の天狗と中国から渡った是害房(ぜがいぼう)天狗が,比叡山の高僧に散々こらしめられるというのが《是害房絵詞》で,ともに天狗のイメージの種々相を活写した中世の絵巻物である。また山村における天狗の祭りとこれに伴う天狗の舞を芸能化した代表的民俗芸能は,奥三河の花祭である。この祭りは山頂の高嶺(たかね)祭で山神天狗をまつり,その天狗天白を祭場(舞所(まいと))の屋根棟に迎えて,その下で徹宵の舞が行われる。…

【民俗芸能】より

…祭場の中央で煮立てた湯を神に献じ,神の息吹きのかかったその湯をまわりの人々に浴びせることで魂の再生をはかろうとする。これも鎮魂の意義をもつ神楽で,巫者が採物で神を迎え,のちに仮面の神役が出て鎮魂の所作を行う形が愛知県の花祭や,長野県の遠山祭,冬祭などにみられる(霜月神楽)。また獅子頭(ししがしら)を御神体と仰ぎ,それを捧げて人家を訪ね,悪魔払いの祈禱舞を演じる風が,東北の山伏神楽や番楽,関東・関西の太神楽などにある。…

※「花祭」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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