苦しい(読み)クルシイ

デジタル大辞泉 「苦しい」の意味・読み・例文・類語

くるし・い【苦しい】

[形][文]くる・し[シク]
痛みや圧迫感で、肉体的にがまんができない。「激しいせきこみで息が―・い」「満員の乗客に押されて胸が―・い」
悩み・せつなさ・悲しさ・後悔などで、心が痛んでつらい。「―・い胸のうち」「―・い試練に耐える」
物や金銭のやりくりが思うようにならない。「―・い家計
無理を承知で、ある事をするさま。こじつけるさま。「ずいぶん―・い言い訳だ」
(多く否定の形で)差し支えがある。都合が悪い。
「切捨てても―・くない奴だ」〈円朝怪談牡丹灯籠
(多く「ぐるしい」の形で、動詞の連用形に付いて)快くない、しにくいなどの意を表す。「見―・い振る舞い」「聞き―・い話」
不愉快になりおもしろくない。見ぐるしい。聞きぐるしい。
前栽の草木まで心のままならず作りなせるは、見る目も―・く」〈徒然・一〇〉
[派生]くるしがる[動ラ五]くるしげ[形動]くるしさ[名]
[用法]くるしい・つらい――「せきがひどく、息をするのも苦しい(つらい)」「仕事が苦しい(つらい)」のように相通じて用いられる。◇「くるしい」は一般的な苦痛の状況を、「つらい」は精神的苦痛について用いることが多い。「苦しい立場」は動くに動けない状況を、「つらい立場」は困っている精神状況を表すのに重点がある。「家計が苦しい」とはいうが、「家計がつらい」とは普通は言わない。◇類似の語に「せつない」がある。「せつない」は、悲しさや恋しさなどのために、胸がしめつけられるような思いを表し、「せつないほどの愛情」「せつない胸の内」のように用いる。◇「病に苦しむ人の姿を見るのはつらい」は「苦しい」とはいわないが、「せつない」と置き換えることはできる。
[類語]びんびん切切せつせつ痛切切実深刻ひしひしつくづくしみじみじいん心からせつ辛い切ないやるせないたまらないやり切れない険しい貧乏悲愴悲傷沈痛悲しい物悲しいうら悲しい痛ましい哀れ哀切もの憂い耐えがたいしんどい苦痛である断腸の思い胸を痛める胸が痛む胸が塞がる胸苦しい重苦しい重重しい息詰まるあえ寝苦しい息苦しい悶悶もんもん胸が張り裂ける胸がつかえる胸が裂ける胸が潰れる胸拉ぐ胸がつまるけだるいアンニュイ気を滅入る気遣わしい塞ぐ塞ぎ込む消沈しょげるしょげ返る沈む憂鬱憂愁沈鬱メランコリー気鬱気塞ぎ鬱鬱陰鬱暗鬱鬱屈鬱結鬱気うっき鬱悶うつもん鬱積抑鬱憂さ鬱陶しい

ぐるし・い【苦しい】

くる(苦)しい6」に同じ。「暑くて寝―・い」

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

精選版 日本国語大辞典 「苦しい」の意味・読み・例文・類語

くるし・い【苦】

  1. 〘 形容詞口語形活用 〙
    [ 文語形 ]くる〘 形容詞シク活用 〙
  2. 身体の状態や生活などが思わしくなく、身に苦痛を感じている。難儀である。
    1. [初出の実例]「民を塗炭(クルシキ)に拯(すく)ふ。彼も此も一時なり」(出典日本書紀(720)継体二一年八月(前田本訓))
    2. 「病ふは苦しき習ひながら、療治によりて癒る事の、例は多き世の中に」(出典:大観本謡曲・土蜘蛛(1570頃))
  3. かなわない願いや悲しみ、後悔などで心が痛む。つらい。せつない。
    1. [初出の実例]「難波潟潮干な有りそね沈みにし妹が姿を見まく苦流思(クルシ)も」(出典:万葉集(8C後)二・二二九)
  4. 物事をするのがむずかしい。困難である。
    1. [初出の実例]「脚(あし)の気(け)起りて装束することのくるしければなん」(出典:落窪物語(10C後)三)
  5. 気を使ったり心を配ったりするさまである。心配である。
    1. [初出の実例]「何くれと宣ふも似げなく『人や見つけん』とくるしきを」(出典:源氏物語(1001‐14頃)紅葉賀)
  6. 差支えがある。はばかりがある。都合が悪い。また、そう感じさせるような怪しさがある。多く否定的表現を伴って用いる。→くるしゅう(苦)ない
    1. [初出の実例]「其人ならばくるしかるまじ。いれ申せ」(出典:平家物語(13C前)七)
  7. どう処理していいかわからないで困っている。困難なことがあってつらい。苦境にある。
    1. [初出の実例]「苦(くるしく)も降りくる雨か神(みわ)の崎狭野(さの)の渡りに家もあらなくに」(出典:万葉集(8C後)三・二六五)
    2. 「戦争成金のほかは、誰しも今は苦しいのだから」(出典:十五年間(1946)〈太宰治〉)
  8. 人に不愉快な気持を起こさせるさまである。見ぐるしい。聞きぐるしい。
    1. [初出の実例]「御前なる苦しき物とりやり、おほとのこもりたる所ひきつくろひなどして」(出典:大鏡(12C前)三)
  9. 無理にととのえるさまである。無理にこじつけるさまである。
    1. [初出の実例]「くるしいさんだんにてもとめたる袖時計のやすものを」(出典:安愚楽鍋(1871‐72)〈仮名垣魯文〉初)
  10. ( 接尾語的に用いる。「ぐるしい」とも ) 動詞の連用形のあとについて、その動詞の行為をするのが、不愉快である、いやである、しにくい、などの意味を表わす。
    1. [初出の実例]「あり衣のさゑさゑしづみ家の妹に物言はず来にて思ひ具流之(グルシ)も」(出典:万葉集(8C後)一四・三四八一)

苦しいの語誌

( 1 )痛みの耐えがたさに心身安定を失うのが原義で、「くるふ(狂)」の「くる」と同根か。
( 2 )の否定表現を伴う用法は、中世から見られるようになるが、近世の後期頃には「くるしく(う)ない」の形でもっぱら武士ことばとして用いられた。

苦しいの派生語

くるし‐が・る
  1. 〘 自動詞 ラ行五(四) 〙

苦しいの派生語

くるし‐げ
  1. 〘 形容動詞ナリ活用 〙

苦しいの派生語

くるしげ‐さ
  1. 〘 名詞 〙

苦しいの派生語

くるし‐さ
  1. 〘 名詞 〙

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報 | 凡例

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